第420話
今は年末。あと数時間で年を跨ぐ日。
球体ドローンで撮影されているのは鉄分を多く含んでいるだろう赤い砂舞う元文明。
建物にはチラホラと植物がまとまわりつき、苔がこびりついていて、今や人が住んでいるとは到底思えない。
事実その星は数十年前に発見され、すでに調査を終えている。
特に資源もなく。動物もいない。あるのは荒れた土地と、辛うじて残された
現在。今この時。世界各地にてこの映像は視聴されている。
ある人は自宅で、ある人は友人と共に。ほとんどの人間は今同じ物を見ているのだ。
何故人々はそんなものを見ているのか。理由は単純。
最近急に決まったイベントなために詳しい理由は視聴者にはわからない。けれどどうだって良い。
魔帝同士の映画さながらの戦いが見られるのならば。人類最高峰同士による貴重な戦いが見られるのならば。その二人にどんな確執があろうと知ったことではない。
「……にひ♪」
まずカメラに姿を現したのはアレクサンドラ。
緑を基調とし、軍服を彷彿とさせるデザインの現役当時に着ていた制服に身を包みながらカメラに向かって手を振っている。
他の色もあるのだが、アレクサンドラは主に密林など植物の多い
(……っと。来たか)
続いて現れたのはもちろんクレマン・デュアメル。
白髪に白眼。前髪をあげてきっちりセットしたのがうかがえる頭。服装はアレクサンドラ同様のデザインだが場所に合わせてか少し褪せた赤色を着てきている。
「「……」」
ゆっくりと不適な笑みを浮かべながら歩み寄る二人。
落ち着いた様子が逆に視聴者の緊張を煽り、固唾を飲ませる。
「……やぁミスター・デュアメル。あえて光栄だ」
「始まりから礼がないことだ」
満面の笑みで左手を差し出すアレクサンドラ。
その手を見たクレマンも左手で応える。
左手の握手が意味する事。それは嫌悪。それは決裂。それは決別。
ようは『私はテメェを心からぶち殺してぇです』とアレクサンドラが語りかけ、『生憎とそれはこちらの台詞だ』とクレマンが答えた……と言えばわかりやすいだろうか。
厳密にそのような言葉は交わしていないし、交わす必要がないと左手を差し出したのだけれど。
その上でクレマンは一つだけ、アレクサンドラにわかっているであろうことを念を押すように話しかける。
「わかっていると思うがアレクサンドラ。君が私にこの勝負に勝ったときは……あ~誰だったかな? 忘れてしまったが
「……」
「理由はわかるね?」
「オフコース。そりゃあね」
苦笑いを浮かべながらも左手に力を込め、アレクサンドラの手に血管が浮き出る。
「なめてんだろ? 私んことをよぉ? えぇおい」
クレマンは涼しい顔をしながら言葉を続けていく。
「当然。その若さで現役を退き、フラフラしている君のどこに恐れを感じろと? まぁ仮に今も前線にいたとしても私の敵とは言い難いがね。だから、そんな弱い弱い君に朗報だ。もう
「へぇ? 私の知ってる子?」
もう結嶺に興味がないと聞き、少しだけ安堵を覚えるアレクサンドラ。
これならクレマンの新しい興味の対象次第では自分が負けても才が出張ることがないかもしれない。
なんなら相手が億が一乗り気になる可能性だって……と、そこまで考えたところで予想外の名を聞くことになってしまう。
「さぁ? 会ったことはあるかもしれないなぁ~。なにせ今回の件に関わってる
「……!?」
ある意味で。嗚呼、ある意味で。さらに近しい存在に目を向けてしまった。
しかも契約者とくれば肉親よりも
何故なら契約者の扱いは基本的に異界からの客であると同時に契約者している人間の所有物扱い。
つまり、場合によっては肉親よりもずっと守りづらいということになる。
(この男は本当に……なんでそう変なとこばかりに目が行くかね……?)
もう驚きすぎて笑顔が保てない。そして次の一言で完全にアレクサンドラの表情が変わる。
「先に反故にしたのはあちらだし。穏便に済むと思えば喜んで渡すと思うんだよ。仮に噛みついてこようと、多少強い契約者がいても結局は召喚魔法使の卵。
「なにが大人の務めだクソ野郎! ぶっ殺してやるから歯食いしばれ! ――
魔帝同士の戦いは、少しばかり荒っぽく、唐突に始まりを告げる。
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