第419話
「順当……ってとこかな」
「なにが?」
学園のリーグ戦が終わって今は月末。
とある簡素な一室で二人の魔帝が来るときを待ちながら雑談に興じていた。
一人はアレクサンドラ・ロキシー。もう一人はレア・ボネ。
二人ともタブレットを眺めているが見ているものは違う。
アレクサンドラは才のリーグ戦の時の試合を、レアはこのあとすぐのイベントの整理中。
「いやね。今回の件に大きく関わってる子が試合で良い成績残したみたいなんだよ。まぁ、やらかしながらだけどさ」
「あぁ~。
「天良寺才で天才くん……。先生ちょっとギャグセンスな――NO!?」
「ないとノーをかけたのかしら? ギャグセンスないんじゃない?」
飛んで来た火の玉をかわしつつ冷や汗をかくアレクサンドラ。
火の玉は当たる直前には消えるように調整されていたけれど、眼前に火があったら本能的に怖いと思うのは仕方ない。
(てか、本当にこういうコントロール上手いなこの人……。私が勘でやってることをきちんと体に馴染ませてんだもん。何年もかけて。私よか余程モンスターだって。努力モンスター。日本に住め日本に。絶対肌に合うって)
実際レアは何度か移住を勧められたことがあるのだが、アメリカとフランスをメインの生活拠点にしてるのでこれ以上増やすと体が足りないと断っている。
けれど旅行には何度も行ってるし、残された数少ない由緒正しい道場などにも足を運んでいるとかいないとか。
「で、気持ちは固まった?」
「ワッツ?」
火を飛ばされたことと質問の内容の意図がわからず混乱のダブルパンチ。
その顔を見てレアはもう少しだけ詳しく聞き返してやることにする。
「もう始まるけど。気持ちは固まってるかって聞いてるのよ」
「あ、なるほど。そりゃ愚問ってもんさ先生。覚悟なんざ――」
アレクサンドラは立ち上がり、背筋を伸ばしながら胸を張り、部屋の出口へ向かう。
「この
「……そう」
『噛ませ犬になる覚悟がね』とはあえて言わなかった。それはここに来るまでに幾度となくレアが止めていたから。
それでも聞いてしまうのは年の所為ってわけじゃない。
(貴女は教え子のためになにかしたいって気持ちなんだろうけどね。貴女だって私の教え子なのよ? あんまり心配させないでほしいわ。いくら刺激的な日々を望んでても。こういうのは嫌よ……)
噛ませ犬になるとはいえ、レアにトレーニングパートナーを頼み、この一ヶ月付きっきりで共に訓練してきた。
だから、アレクサンドラの本気は痛いほどわかっている。
わかっているけど、最後にもう一度。思いとどめるように声を――。
「レックス。ここまでやったんだからただでやられるんじゃないわよ? 負けるにしてもぶちのめしてからにしなさい!」
「……オーライ!」
かけようと思ったけど。やめた。
代わりに、後押しをしてやる。
レックスというアレクサンドラが認めた人間にだけ呼ばせている愛称をもって。
「せめて死ぬんじゃないわよ」
もうアレクサンドラは部屋から去っている。
だからこの呟きは誰にも届かない。
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