第414話

「あ」

「王酉先輩。こんにちは」

「……稚沙木ちざきさん」

 演習場控え室にて、本日の才の対戦相手である三年A組一番王酉里桜の元を訪れたのは二年A組一番稚沙木ちざきマーヤ。

 双方学年トップということもあって顔どころか去年から試合場でも顔を合わせている。

 気の知れた……とまでは言えないが。少なくとも他人とまでは言わない微妙な仲だ。

 ちなみに、彼女たちはすでに今年も対戦済み。去年含めてマーヤの二戦二勝。

 だからだろうか。里桜の表情はあまり優れない。

「なにか用? 私これから試合なんだけど」

「存じてますよ。だから激励にと。というか忠告?」

「忠告?」

「えぇ。端的に言えば負けるのはわかりきってるから落ち込まないように……と。余計なお世話と思いますしわかっていると思いますが一応」

「……本当に余計なお世話。勝敗なんて戦ってみないと――」

「無理ですよ」

 里桜の言葉を切るマーヤ。その声色は先程までの柔らかで先輩を敬うようなモノでなくなり、冷たく事実を突きつけるよう。

「勝てませんよ。貴女では。彼の契約者は三人。どの人が出てきても貴女では絶対に勝てない」

「そ、そんなのわからないって言ってるでしょ!? それにそう言うなら貴女だって――」

「もちろん私も勝てません。だから、私は最初から先輩として後輩である彼にあげれるモノがないかと考えてるんですよ」

「……」

 達観したマーヤを見ているとバカらしくなってくる。

 自分は自分の未来に期待してるっていうのに。急に今年から雲行きが怪しくなって。

 いや、里桜にとっては一年生の時がピークで、きっと彼女マーヤが現れた時からもう。

(って、ネガティブになってどうするの。私だってクラスの代表。やれるだけはやんなきゃ)

「あ、もう行くんですか? 私も言いたいことは言いましたから引き留めることもないんですけれど」

「そう」

「では、いってらっしゃい。先輩から後輩へナニをするか。楽しみにしてます」

 里桜はマーヤに一瞥くれることなく試合場へ向かう。




「……」

「……なんすか」

「いや……その……」

 時間になったもんで試合場に入ると、今日の試合相手の王酉先輩は先に来ていたみたい。

 それは良いんだけどさ。なんかこっちを見る目がおかしいんだよな。

 ……ま、理由はわかってるんだけどさ。

「えっと……そのまま?」

「まぁ……そうっすね」

 王酉先輩が言ってるのは俺にだっこされたまんまのコロナのことだよなぁ~……。てかそれ以外ない。

 あとたぶん犬モードのロッテもかもしんない。いつも人型だから犬んときのロッテを知らない人も多いだろうし。試合のも犬モードのロッテは出したことないはずだしな。不思議に思うのも当然だろうよ。

「最近はおとなしいんで試合には支障ないです。戦うのこっちだし」

「そ、そう……? ならいいけど」

 良いと言いながら訝かしげな目だ。そりゃつい先日施設一個潰しといておとなしいとか言われても信じられないと思うけどもだね。本当にあれからはおとなしいので勝手な言い分になるけど是非とも安心していただきたいもんだよ。

 ま、信じてもらえなくてもかまやしないけど。こっちとしてはやることやるだけ。

「ロッテ。準備はいいな?」

「あぁ。もう

 それは俺もわかってるよ。送ったマナ使ってすでになにかしらやってるのは。

 ……ふむ。まだ試合始まってないわけだけど。これってルール的にどうなんだろうか。

 注意受けてないし、相手にも指摘されてないし。良いってことでオーケー?

 今さらダメって言われても遅いんだけども。


『三年A組王酉里桜と一年E組天良寺才の試合を始めます。双方契約者を喚び、準備してください』


 っと、始まったならもう気にしなくて良いよな。

 さぁロッテ。

 存分に

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