第413話

「ぉぉぅ……。にゃーにゃー」

「?」

 君の悪いモノでも見たみたいに震えてからコロナが抱きついてきた。

 御伽とのあの試合から完全に健康体になってから甘えることも灰音を過度に構うのもあんまりなくなっておとなしくなったなぁ~と思ってたらまた急に甘えたになってなんなんだお前は。

 ……いかん。『甘えた』って言い方はカナラに釣られてるわこれ。

 変にしゃべり方とか影響されてるとカナラとの仲を疑われちまう。

 こんな美人の彼女をあんな冴えない男がーみたいな。

 んま、もう手遅れなんだけれども。

 なんならリリンやロッテのことも含めて陰口耳に入るのなんて日常だよ。へっ。

 と、んなことはどーでも良いし。ただ抱きついてくるだけならまだ良いんだが……。

「コロナ~。これからロッテの試合があるんだよ。まだ怪我も治って間もないし。無理せずに灰音と留守番してろって」

「や、やぁ……。ちゅっちゅ」

「……」

 眉を寄せて目潤ませながらほっぺにチューと来たか。

 前まではただの癇癪だけだったのにどこでそんなこと覚えやがったよこのヤロウ。

 表情も前より豊かになってるし。俺とリリンが混ざった影響か?

 おっと、その辺りの考察も今は置いといてと。

「コロナお前。俺に色仕掛けが通じるとでも――」

「「意外と……」」

 おい。そこの金髪リリン黒髪カナラ。いつ俺が色仕掛けに……。

 いや、まぁキスとかねだられて応えたりはしてるけども。

 今でも夜にチラホラと……。

 って、それとこれとは話は別。まだポケぇ~っとしてることが多いコロナを外に連れ出すわけにもいくまいて。

「コロナ。お前いい加減に――」

「まぁそう言わずに。連れてってやっても良いだろ。どうせ今日の出番は儂だけだし。なんなら試合中ずっと抱えたまんまでも構わんだろ」

 と、ここで助け船。コロナのだけど。

 いやたしかにロッテしか戦わないし俺も棒立カカシちみたいなもんだけどさぁ~……。

「経過の心配もずっと抱えてたら何かしら起きても対処できるしな。そも起こらんが」

「それに、病み上がりなら尚の事甘えさせてあげぇよ? ころちゃんが坊に甘えたさんになるんも元気な証拠やろ?」

 う、さらなる援護射撃が。

 そりゃお前らの言うことは正しいけどもだね……。

「はぁ……わかったよ……」

 頑なになってたものの。俺も俺で、こんな拒む必要もないしな。

 試合中コロナ抱えてて目立つとかも思ったけど。もう今さらだし。もうそろそろ寮出て演習場に向かわないといけないしな。ここでモメてる暇ないわ。

「じゃ、抱っこしてやるから一回離れろ」

「うん」

 今さりげなく『うん』つったなお前。語彙力増えたか?

 あとでそのあたりも確認してやるかな。

「よいしょっと……お? お前太ったか?」

 繋がる前より三キロは重いぞ。そういや意識してなかったけど。身長も伸びて――。

「はぐっ! んぎぃ~っ」

ひへぇひへぇい」

 頬肉に食いつかれた。顔は見えないけどなんか怒ってるっぽいニュアンスを感じる。

 いったいどこに怒る要素が?

 まさか体重に触れたから?

 女子かお前。女児から女子にジョブチェンジしたのか?

悪い悪いわふいわふい悪かったってわふはっはっへ

「じゅぼっ! フンフン!」

「いって」

 最後に思いっきり吸い付かれて今は鼻荒くしてら。

 大人しくなったというかなんというか。

 お前、大人になったんだな……。二才児から五才児くらいに。

 これはまた……別の意味で面倒になった気がしないでもないなぁ~……。

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