第410話

(あ~あ。これ心配の必要なかったなぁ~)

 八千葉の試合をモニターで観ていた多美は苦笑いを浮かべながら内心呟く。

 相手の契約者によって少しばかりのトラブルはあったものの、結果だけ見れば完勝圧勝一方的。

 もしかしたら口にはしてないけど勝ち負けなんてどうでも良くて、本当にただ目立つのが嫌だっただけとさえ思える。

 事実。八千葉からしたらまさにそれに尽きる話であるけれど多美の知る由もない。

(マジで自分の心配だけしとけって感じだわ~)

 見た目は派手めでも、その実いつもの面子の中で一番メンタルが弱いのは多美。

 勝率も決して悪くないしやるときはやれるくらいの度胸も持ち合わせてる。

 けれど、彼女もE組。負け犬根性もそれなりに持ってしまっている。

 たった数ヵ月勝ちを積み重ねたところで精神面がそこまで変わるわけじゃない。

 今、どんなに優秀でも数年前の彼女は。

 伊鶴と、出会ったばかりの彼女は――。

「ふぅー」

(やめやめ。辛気くさい)

 と、ここでマイナス思考になりかけたところで息を吐いて気持ちを切り替える。

 これから試合だっていうのにネガってる場合じゃない。

(それになにより)

 才は事故が起きたが、マイクは上級生をあしらった。八千葉は今の通り圧勝。

 そして、伊鶴は引き分けたとはいえ上級生からも注目されてるA組筆頭ジュリアナと互角に渡り合った。

(私だけつまずくのは嫌だよね)

 ここでネガティブになって無様な試合に無様な結果を呼び込んでしまったらそれこそ立ち直れない。

 友人たちが華々しい良き戦いを魅せているのに自分だけ置いてかれたくない。

 もしもここで置いてかれるようならそれこそ立ち直れなくなる。

 多美はメンタルが弱い。だからこそ、最悪の展開だけは避けたいのだ。

(なんつっても一人で戦うわけじゃないしね)

 そう。この学園で一人で戦うことなんて絶対にない。絶対隣には契約者みかたがいてくれる。

 多美かのじょは試合場に向かうことができる。

(今日もお願いね。クテラ。ビビりな私に勇気を分けて)

 多美は立ち上がり、控え室を後にして試合場へ足を向ける。

 クテラは今はいないけれど、既に同調を始めてクテラの存在をみじかに感じておく。

 同調を覚えてからは隙あらばクテラと繋がっている多美。

 だからだろうか、彼女は知らず知らず――。


 特に負担もなく同調を行使し、完全にモノにしてる。

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