第408話
「はぁ……」
昨日。才とコロナによる
故に漆羽瀬八千葉にとっては実に鬱な展開。
今日試合予定の他の生徒もいる控え室でも、思わずため息が出てしまう。
(いっそ中止になれば良かったのに――)
「やっほ」
「あ、お疲れ様です」
八千葉のもとに現れたのは多美。
彼女も今日試合なので様子を見に来たようだ。
「出番はこれからだけどね~」
「まぁ日本語なんてそんなものですよ」
そうね、と。一瞬肩をすくめて隣に座る。
(やっぱ嫌なんだな~)
横目で八千葉を見ると、やはり乗り気じゃないことを察する多美。
夕美斗が辞退して急遽決まったあの時から八千葉の様子がおかしいことには気づいていてそれで様子を見に来たのだ。
「……やめたいならやめても良いと思うよ?」
「え?」
今試合場では別の組が戦っている。そして、終われば八千葉の番。
ここで変に遠回しなことをしても時間の浪費。だから多美はストレートにいくことにした。
「嫌そうだからさ」
「まぁ……そうですね。いつもの試合ならいいんですけど。こう代表が~みたいなのはちょっと……。目立ちすぎるので」
「あ~……」
なるほどと得心する。
伊鶴と一緒にふざけあったりすることもあるが、基本的にはしゃぐのは仲間内だけのときだけ。食堂とか他に誰かいるときは控えめになっていることが多い。
根は引っ込み思案というか、目立つのが嫌いというか。そういう性格なのはこの八ヶ月でよーくわかっているので特に驚きはしない。
けれど。
「じゃあなんで辞退しなかったの?」
「私たち以外でまともに試合できる人いないし。私まで降りたら夕美斗ちゃんも気にしそうだし。あと成績に響くかもとか」
普段語らないネガティブな気持ちをつらつら口にしていく。
しかし最後に口にしたのは少しだけ意外とも思える一言。
「でも、なんでもかんでも嫌ってわけじゃないですよ」
「?」
八千葉は端末を見て、試合が終わったのを確認すると立ち上がる。
「皆さんと頑張ってきた分の成果とか。試してみたい気持ちはほんの少しくらいは残ってるので。だから、決まったことだし。やるだけはやりますよ」
「……そっか。じゃあ頑張って」
「はい」
杞憂だったなと心の中で呟いて八千葉を見送る。
むしろ自分の心配をしたほうが良いのでは? と、多美は慌てて策を練り始める。
「それに、天良寺くんのお陰で多少影は薄くなってると思いますしね。あんなに派手にやらかしてくれましたし」
ちょっとだけ茶目っ気を含んだ最後の一言だけは、誰の耳にも届くことはなかった。
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