第395話

 才たちと別れたマイクはすぐに観覧席から演習場へ。

 相手方――三年B組宮駒みやこまさとるはすでに来ていたようで、少しばかり不満げにマイクを見つめている。

 マイクに対して強気な態度を崩さないのは彼もまたマイクほどでないにしろガタイが良いから。

 柔道部に所属しているのでそれなりに自身の腕っぷしに覚えもあるし、同時に体育会系なので待たされたことに少しばかりイラだっている。

三年せんぱいを待たせるなんて良い性格してるな一年こうはい。目上は待たせちゃいけないって母ちゃんに教わらなかったか?」

「当然躾られてますとも。うちのママはそのあたり厳しいので」

「だったら――」

「だから、試合が始まる時間ちょーどに来てるじゃないですか。勝手に先に来て、結果的に待ったからといってそれは貴方の問題であって僕には関係ない。理不尽な難癖つけないでくださいよ。とてつもなくナンセンス。正直、カッコ悪いですよ?」

「こ……の……っ」

 肩をすくめて鼻で笑いながら反論するマイクにイラ立ちを募らせる。

 事実マイクは決して遅刻したわけじゃない。

 謝罪する必要もないし、曲がったことを嫌うマイクとしては今の態度を取られた瞬間に尊敬リスペクトは消えている。

 だから、最初は謝ろうとも思ったけれど向こうから話しかけられ。あまつさえ謂れのない文句を投げつけられたら瞬時に挑発に移ってしまっても仕方のないこと。

(ま、お陰でちょっとやらしい戦法ことしても罪悪感は薄れたかな)

 伊鶴や夕美斗や才のように自身も前に出て戦えるマイクだが、やはりまだどこか召喚魔法師のスタンダードなスタイルにこだわっていたい気持ちが残っている。

 紅緒が公式の場で試合を行う時、必ず契約者しか前に出ていなかったから。

 その姿に憧れたから。

(まぁ、僕のマナじゃあの人みたいな力押しは出来なかったんだけど。……でも)

 それでもこだわって。模索して。そして見つけた相方ジゼルと自分に合ったスタイル。

 自身の視野の広さとジゼルの器用なマナの行使を合わせたスタイル。

 そこに加わった二つの武器。

(この試合で思いっきり試させてもらいますよ先輩。僕も本当は真正面からのスタイルのが好きだけど、それ以上に僕は――)

 憧れた人に少しでも近い形になりたい。

 そしてその実験として目の前の先輩を使う。

 罪悪感も先のやり取りで消え、マイクのモチベーションは良い感じに上がっている。

「さぁ、始めましょうか先輩。そしてマイレディ」

「!」

 グリモアを出さずにゲートを開くと、了のイラ立ちは鳴りを潜めて代わりに驚きの表情が浮かぶ。

(E組……それも一年だからリサーチはしてなかったんだが……。なんであいつあんな技術テク……)

 割りと一年E組の快進撃は有名な話だが、了のように情報に疎く、また固定観念から逃れられていない人間もいる。

 先も垣間見えたが、年功序列的な思考を押し付けていたのが良い証拠。

「――いい加減その呼び方嫌なんだけどね。フン! 言っても聞きゃしねぇんだから」

「だって相棒マイレディだし」

「フン! ババアとしちゃレディなんて言われるとかけないとこが痒くなるんだよ」

「え、そういえばジゼルの年齢とか知らないけど。というか女性に聞くのが失礼だし。……そんないってるの?」

「さてどうだかね! フン!」

 そんな了を無視して少しばかり軽口を叩き合う。

 けれど、すぐにマイクは内心気を引き締めて同調を始める。

「色々気になるけど、まぁ諸々の話は終わってからにするよ。もちろん気持ちの良いように終わらせてからね」

「……もう勝った気でいるのかよ後輩。本当に失礼なヤツ」

「負けるつもりでリーグ戦の舞台に上がる人なんてそういないと思いますが?」

「っとにあー言えばこう言ううっとうしい後輩だな! その自信満々の面絶対歪ませてやるっ! ――来い!」

 了もグリモアを出してマナを注いで契約者を呼び。

 同時に、試合開始のアナウンスが入る。

『三年B組宮駒了と一年E組マイク・パンサーの試合を始めます』

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