第394話

「――なるほど。それであの人も見えるようになったと」

「あぁ。佐子には世話になってるからな。それに契約者は同郷。加えて、我のドレスを仕立てているのもアレの同族なんだよ。だから少しばかりいじくってやった」

「……悶えてなかったか? 恍惚とした顔で」

「よくわかるな。蜘蛛のほうはともかく佐子は快楽を覚えてるようだったよ」

 予想できるけど、あの感覚を気持ちよく感じるとか普通に考えれば頭おかしい。

 けどあの人はリリンにいじられてるってだけで大概は受け入れるよなぁ~。

 俺よかよっぽど人間離れしてる人だし。主に精神面で。

「けど、結局あの人何がしたかったんだろ? 俺たちの方に注意向けながらってたし。まずもって試合に興味なさそうな人なのに」

「さぁな。単なる気まぐれじゃないか?」

「お相手さんが一番強い子なんやろ? 坊にどんな人か教えようとしたんとちゃう?」

「わざわざそのためだけに部活しゅみの時間を削るかぁ~?」

「仮にそうだとしても、三年生さいねんちょうで最も強いとされてるのがアレではな。我は相手したいとは思わん。ロゥテシアにでもくれてやるか。獣同士見映えは良くなるんじゃないか? 質からして怪獣決戦というよりも一方的な狩りになるだろうが」

 ……鳥対犬。何故だろう。カラスにからかわれるチワワが浮かんじまった。

 ま、リリンの言う通りロッテが相手したら一方的な展開になるだろうからそんな憐れで可愛らしいことにはならないだろうが。

 あえてマナの供給を断って慌てさせるのも良いかもしれない。

 真剣な試合の場だしさすがにやらねぇけど。

「ところで……次、お前だろ?」

「やっぱり気づいてたんだ?」

 後ろを向くほど上を向くとそこにはマイブラザーのミケが。

 久茂井先輩の試合中にコソコソと後ろに回って今の今まで黙っていたこの男。

 先輩にも思ったが、お前もお前でなにしたいんだよ。

「で、良いのかよ。行かなくて」

「まぁまぁそう焦らなくても大丈夫だよ。まだ間に合うし。それに、友が見えたら近くに行きたいじゃないか」

「なにその条件反射……。光にたかる虫か何かかお前は。つか今日は一人なんだな? いつもはうるさいのとか色々ついてんのに」

「……誰を指してるかわかるけど。才と違って僕は一人のときのが多いよ?」

「真性ぼっちの俺だっていつも一人……」

 いや、よくよく考えれば四月あたりはリリンが付きまとってることも多かったし。そのあともロッテやらコロナやら……今は特にクラスメイトになったカナラとも一緒にいることが多い。意外と一人でいる時間は少ないかもしれない。

「――じゃないな」

「でしょ?」

「……」

 片眉上げてそら見たことか的な面すんな。ぶん殴るぞ。

「……じゃあもう一つ気になること。なんで黙って後ろにいたんだよ」

「さっきのレディ。先輩なんだろう? 結構ちゃんと見てたみたいだし。邪魔しちゃ悪いかと思って。それに、両手に花状態の男に話しかけるほど僕も野暮じゃないよ」

「いやどっからどう見ても危ない類いのやつだろこいつら。気にすることねぇわ」

「綺麗な花にはトゲがあるものだよ」

 さっきも思ったことだが手のひら貫通するレベルの危ないの抱えてんだよ。

 なんならその上で猛毒がにじみ出てるだろうよ。

 ようは下手に手を出したら死ぬ。なんならリリンには一度殺されかけてるしな。

 ふくじょーしみすい。またはせいこーしみすい。

 途中から意識戻ったときは本当に死ぬかと思った……。

 こんな丈夫な体なのに……。

 カナラは……むしろこっちが加害者側になる可能性がなきにしもあらず。

「さて、それじゃそろそろ行くよ」

 おっと、変なことを考えてる内に時間になったみたい。

 せっかく話しかけたわけだし、一言二言加えて送り出してやるかな。一応友人だし。一応。

「ま、頑張れよ~」

「先のみたく退屈なのが相手だったら貴様が盛り上げろ~」

「気張ってなぁ~」

 俺に続いて(見た目だけは)美少女の二人にも激励(?)を、されて少しばかり驚いた顔になるミケ。

 カナラはともかくリリンは興味持つ対象モノが極端だからそら驚くか。

「ありがとうレディたち。期待に応えられるかわからないけど、今日は僕も試したいことがあるから。少しは楽しめることを祈るよ。……地味なことをするつもりだからハードルは下げてほしいけどね」

 苦笑いを残して試合に向かうミケ。

 ふぅ~ん。お前もお前でまた色々やってんのね。存在やマナは特に変化ないように見えるし、たぶん戦略や戦術の類いかな?

 って、今から始まるわけだし。予想なんていらないか。

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