第393話
「――待って!」
試合が終わり、共に契約者を帰した後。里桜は佐子を呼び止める。
この行為はなんの疑問の余地もないだろう。後少しで勝ちを……それも完全に格付けがされている三年生にしての勝利。大金星を拾えたところを寸でのところで手を引っ込めたのだから。
里桜からすれば不思議でならない。聞かなければ今夜眠ることもできない。
「な、なんで……」
「スタミナ切れだよ」
「え」
問われる前に答える。ここで呼び止めて聞くことなんてわかりきっているから。
そして理由も実にシンプル。スタミナ――つまりはマナ切れ。
よく考えれば佐子はE組。マナの量は低い。
才のような密度と量のバランスが欠落してるわけでなく。伊鶴のようにオンオフがハッキリしているわけでなく。
この二人のように例外でない佐子にとって、このたった数分のマナの使用でさえも重労働。
現在は踵を返し里桜に背を向けているから顔は見えないが、今も疲労感で表情はだらけて汗もかいている。
これ以上マナを使っていれば、確実に倒れていた。
「だからリリオの勝ちだよ。完全にね」
「……こんなの、納得できるわけっ」
「いや知らねぇし。てか、これでわかったっしょ? 工夫すれば格上にもちっとはまともな試合ができるってさ。今まで力でなぎ倒してたあんたもやっと痛い目見れたってわけ」
「……何が言いたいの? 試合に負けて勝負に勝ったとかそういうこと?」
「いんや? 単純に今度はあんたが工夫する番ってこと」
佐子はそう言うと歩き出す。いい加減帰って休みたいから。
けれど、まぁ。もう一言だけ。同級生にアドバイスをくれてやることにする。
「うちの後輩はあんたより上だから。しかもその上で策も練るし工夫もしやがるよ。ま、そこまでするとは思えないけどね。それこそ、あの後輩と契約者のリリンちゃんもロゥテシアちゃんもコロナちゃんも。あんたんとこのコンビより強いから」
「……確かに試合も見たけど。それでもまだ一年生――」
「その内の一人のお陰で私はあんたを追い詰める程度には強くなったけどね」
「……っ!?」
試合中何度も感情を揺さぶられたが、今の一言が一番里桜を同様させる。
一年生の契約者の一人の力でE組がA組を追い詰めるほどに至らせた。
よく考えればわかること。二試合目にE組でありながらA組筆頭たる生徒を下しているのだなら。
さらに遡れば契約前にマナの観測限界値を大幅に超え、警報を鳴らしている。
頭角なんて入学前から見せていたではないか。
佐子の後輩。天良寺才という一年生は。
「本気で勝ちにいくつもりなら、今からでも作戦考えなぁ~」
「……そう、させてもらう」
会話はこれにて終い。佐子は歩みを早めてさっさと帰途につく。
(あ、リリオの手口を後輩に見せるつもりだったけど。むしろリリオに塩を送ってないかこれ?)
才のために試合をしたつもりがむしろ里桜に成長の機会を与えたのではと思い至る。
(ま、このままじゃ面白味のないバトルになってたろうし? 少しは歯応えが出た方が喜ぶっしょ。誰をリリオにぶつけるかわからないけど)
当初の意図とは外れたものの、前向きに考えることにした佐子であった。
「……う~ん」
「どうしたい? ロゥテシアマッマ――ふぎゅっ」
「あむあむ」
「……ほっぺをハムるのやめもらえないかなコロねぇちゃんよ」
「じゅぼぼぉ!」
「しゅうなぁ~! かおがゆがみゅぅ~!」
「久しぶりに元の姿に近い形での狩りをしてみたくなってな」
「今!? 質問への答えより先にコレひっぺがしてくれると嬉しいなぁ!?」
「しかし、才のマナを使っては楽しめない。その辺り少し打ち合わせでも……。いやまず儂を選ぶかどうかか。リリンの奴が興味……を持つほどでもないと思うが。一応ねだってみるかな」
「良いから助けてくれよマッマ!」
「ずぼぼぉ!」
「いだだだだだだ!?」
騒がしいとある一室。その内の一人の女性はつい今しがた終わった試合を映すタブレットを持っていた。
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