第389話

「意外だ……」

「なにがだ?」

「あの人が出てること」

 思わず呟いた言葉に反応したのはリリン。

 わかってるだろうにわざわざ聞くなとも思うが、今日はいつもより機嫌も良さそうだし。リリンも注目の一戦ってことなんだろうな。

「クハッ。あれは休日に限らず部室あそこにこもっているしな。我も正直予想していなかった」

 リリンの視線を追うと、演習場でやる気のねぇ面を晒してる久茂井先輩の姿が。

 やっぱ、乗り気ではないんだな。なんで出てんだろ?

「嫌ならサボれば良いのに」

「他の子も嫌がっとんのちゃう? 坊の友達除いて半分くらいはあんな顔してはるよ?」

「あ~」

 カナラの言う通りかも。

 一年はともかく他の学年とか……あとD組やもしかしたらC組にもその手のはいるか。

 どうせB……いや、Aが蹂躙するもんな。

 今までならだけど。

「俺もだけど、あいつらも張り切ってるから。クラスの優劣が曖昧になってんだよな~。だから他の学年でもサボると目をつけられることもあんのかも」

「しかし上は培っておらん。他者が出した結果によって圧をかけられてるに過ぎん」

「可哀想に。いつの世も根っこは変わらんなぁ~」

 両脇にばあちゃんを抱えながらの雑談。これは両手に花と言って良いんだろうか?

 ま、見た目は美少女だし。加齢臭がするわけでもないけど。

 むしろカナラからは相変わらず甘ったるい桃の香りがする。

 ……いや、改めて約束した日からちょっと匂いが強くなってるかも。

 また裏でなんかしてるのか。ただ発情してるのか。

 ん~わかんねぇ。

 ただ言えるのは、二つとも下手なことしたら手のひら貫通させにかかるくらいおっかないトゲを持ってるってことだな。うん。

「なんにせよ。奴は場に立った。さてさて。いったい何を見せてくれるのやら」

「同感」

 あの人が常人離れした洞察力を持ってるのは知ってるし、色々スペックがおかしいのも知ってる。一番おかしいのはあたまなのも知ってる。

 けど、一度も戦ってるとこは見たことない。契約者の姿も俺は見たことない。

 あ、でもよく先輩のとこ言って色々もらってくるこいつらなら知ってるかも。

「なぁお前らさ。先輩の契約者って知ってる?」

「私は知らんなぁ」

「知ってる」

「え、嘘? 結構ダメ元で聞いたんだけど。どんな契約者なんだよ」

「フム。まぁこれから始まるわけだから言う必要もないんだが――」

「もったいぶんなよ」

「急かすなよ」

 片目だけ開けて左右の眉違う形にしてこっち見んのやめろ。腹立つ。

「蜘蛛だよ」

「ん? 蜘蛛?」

「あぁ蜘蛛。それも――」


 ――我が世界のな

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