第380話

「なんだか懐かしいな……」

 単位はもう足りていてリーグ戦にも不参加ということで、療養も兼ねて先に帰省することになった夕美斗。

 八ヶ月も実家を離れることなんてなかったので、久々の家に感慨深くなっている。

(連絡は入れてたけど色々あって帰れなかったしな。瞬のことと髪のことは言ってないから、これからどんな反応されるだろ?)

 苦笑を浮かべながら家に入る夕美斗。

「おかえりなさ――」

 出迎えた母は夕美斗の髪を見て目を見開く。

 今の時代髪を染めるのは珍しいことじゃないが、真面目でファッション等に無頓着だった娘がいきなり灰色の髪になっていたらそりゃ驚くだろう。

「えっと。ただいま」

「お、おかえりなさい……。夕美斗貴女……悪い友達でもできたの?」

 酷い言われようである。

 悪い友達はできたと言えばできたが、髪は関係ない。

 かといってどう説明しようか悩んで出した答えは――。

「別に染めてないから。ちょっとハードな自主トレし過ぎちゃっただけだから。それでちょっとね……」

「そ、そうなの……」

 ストレスで色抜けたことにした。

 それはそれでまた微妙な顔になる。

 夕美斗は上手い返しをしたつもりなので、母の顔に疑問符を浮かべる。

「夕美斗、頑張るのは良いけど。せめて家にいるときはゆっくりしなさいね?」

「え? う、うん……」

(なんでそんな顔してるの……? やっぱり髪の色が変わってショックだったのかな?)

「とりあえず中に入って――……っ!」

「……」

 夕美斗に家の中へ入るよう促そうと振り返ると、いつの間にか瞬が立っていた。

「……」

「おっと」

「え……?」

 母を無視し、瞬は夕美斗に抱きつく。

 ここ何年もお互い避けてることを知ってる人間からしたら異常な光景。

 しかし、もうこの姉妹にはわだかまりは存在しない。それは当人達がよくわかっている。

「ふふ。ただいま瞬」

「……」

 夕美斗の胸に顔を埋めながらコクりとうなずく瞬。

 まるで気兼ねなく甘えられることの幸せを味わってるかのようだ。

 普段言葉を発さないし、表情もまったく変えないからといって何も考えてないわけじゃない。感じてないわけじゃないのである。

(皆を置いて帰るのは気が引けたけど。でも、瞬と前と同じ関係に戻れたのは良かったかな。……いや、前とは違うか)

「なぁ、瞬」

「……」

 夕美斗に呼ばれて顔をあげる瞬。しかし顎は胸につけたまま前後に動かして軽く弾んでいる。

 ……姉の乳で遊んでいるのだろうか?

「実はここしばらく体を動かしてなくてな。このあとちょっと軽く打ち合わないか?」

「ゆ、夕美斗……それは……」

 打ち合うと聞いて道場で試合をすると思い至り心配する母。

 しかし心配を余所に姉妹は荷物を置いて、道場に向かう。

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