第379話

「思い返すと……ド偉いとこまで来ちゃったねぇ~」

「ガゥ」

 宍戸司ししどし多美たみは自室にて契約者のクテラにもたれかかっていた。

 独り言のように口にする言葉にいちいちクテラが反応するので、多美はクテラに話しかけるようにする。

「この学園に来たのは伊鶴についてきたからだし。E組に決まってからは崖っぷちだな~とか思ってたけど。気づいたら結構良い戦績だし。最後の実技のリーグ戦にも選抜されるし。このヘタレの私が……ねぇ~」

 普段の多美を見てると、ヘタレと言われてもピンと来ない者のが多いだろう。

 だが本人と、幼馴染みである伊鶴ならばわかる。それともう一人――いや、もう一頭も。

「グルルゥ……」

 クテラと多美もまた他と同様深く混ざり、繋がっている。

 故に多美の気持ちも前よりずっとわかるようになった。

 加えて、多美が抱えるモノを知ってからはなるべく側にいたいと思うようにも。

(クテラには頼れる相方って思っててほしかったけどね。ま、ボロはいつか出る気はしてたけど。どんなに頑張って鍛えても中身がそんなすぐ変わるわけないし。夏休みんとき、それが嫌ってくらいわかっちゃったよ)

 多美は一般人相手ならば相手にならないくらい強くなっている。

 対人も学ばされ、体は鍛えられて、身体強化系の人域魔法も夏休みあたりには軽く使えるようになっていた。

 それでも、赤の他人にちょっと強気に出られただけで萎縮してしまった。

 あの時すでに、多美の本来の気性が露になっていたのだ。

(本当の私はヘタレで臆病で……伊鶴がいないと強気にも振る舞えない卑怯者。学園に来た本当の理由だって、伊鶴と離れたくなかったからだし)

 ただ友達だからというのももちろん理由の一つ。

 だけれど、一番は離れるのが怖かったからだ。

 

 多美の両親はそれぞれが白人と日系。ラテン系と日系のハーフで、多美は日系のハーフで白人とラテンのクォーター。

 肌はやや色味が強く。顔も体つきも日系とは離れてる。

 それだけならばグローバル化が進んだ今の世の中ならば受け入れられただろう。

 だけれど多美の地元には偶然日系の子供しかいなかった。

 子供の世界は狭いので、見た目が大きく違えば目立つし。目立つと起こるのは何かの中心になること。

 明るければコミュニティの中心にもなれた。

 けれど、当時の多美は虚勢すら張れない内気な娘。

 いじめられるのは、ある意味必然。

 でも伊鶴だけは味方だった。

 同世代で一番小さい伊鶴はそれまで仲良くしてた友人達と殴り合いの喧嘩をしてまで多美のために怒ったのだ。

(後で理由を聞いたら『ちょっと違うからっていじめて良いって思うのわけわかんない。自分が楽しいだけで他の子いじめるやつとなんか仲良くしたくない』とか言ってたっけ。本当。かっこいいんだから)

 たった一人で同世代全員を一気に敵に回して、それから浮いた存在になった伊鶴。

 本当なら元気で面白い伊鶴は人気者だったのに。自分の所為で孤立する羽目になって。

 それを悪いと思いつつも多美は伊鶴に甘え続けて。今も伊鶴に執着してる。

(それだけじゃ……いい加減ダメだよね)

 側にいるとしても。離れるとしても。多美は伊鶴の友人をやめるつもりなんてない。

 まぁ、同じ学園までついてきてしまったし。少なくとも卒業までは側にいるつもりだけれど。

 でも伊鶴の近くにいても守られる立場じゃなくて、隣で歩けるようにはいたいと思う。

 そのために、強くなった。

(今回の試合で証明しなくちゃね。あんときのいじめっ子たちに見せつけるんじゃなくて。自分が伊鶴の隣にいて良いって納得するように。……つか、どうせ地元の奴らが召喚魔法師の試合なんか見るわけないし)

 少しばかり嫌な記憶を掘り起こしつつも、それで変に病んだりはしない。

 この時点で、多美は昔の自分と決別していると言っても良いだろう。

 でも、本人はそれで満足できない。

 目に見えた結果がないと納得できない。

「……勝ちまくるよ。クテラ」

「グルゥ? ガルゥ」

 途中から口に出してなかったためクテラはよく意味がわかっていなかったがとりあえず返事。

 多美はそんな愛らしい相方に苦笑を浮かべる。

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