第376話
「ふぃ~……。今はこれが限界だね。フン」
「え、あれ?」
霧散する威圧感に拍子抜け。
マイクとしてはこっから変身的なそういうことを期待していたもんで少し残念そうだ。
「坊主が思う通り、あたしゃは確かに姿を偽ってる。あ、いや。これはこれで本物だがね。フン」
「ん~? どういうこと?」
「フン。例えるなら飢餓期直前の獣だね。あたしゃの場合は緊急の時しかあの姿にはならないけどね」
「な、なるほど?」
とりあえず今ここでその本気モードの姿にはならないことだけはわかった。
ジゼルの口振りからして恐らくは燃費がものすごく悪いとかの理由があるのだろう。
「まぁでも。少しくらい本気になっても良いかもしれないねぇ~」
「え、どういうことだい?」
「今のあんたならあたしゃの本気を出すわけにはいかずとも、ちょっとはそれに近づいても良いって言ってんのさ」
ジゼルは岩の方に目線を送る。
すると――。
「……っ!?」
最初に炎が岩を包み、次に水で消され、雷が伝い、風で水が乾かされる。
「元々あたしゃの能力はあんたらが人域魔法と呼んでるモノに近いのさ。ただ、あんたらはあまりこういうの使わないみたいだけど」
「たしかに……。主に身体強化が使われるね。僕の視野を広げるのもそうだし」
「それはまた別だけど……」
「え?」
ボソリと呟かれた為に今のジゼルの声はマイクに届かなかった。
ジゼルにはまだ秘密があるようだ。
しかし、その秘密を話す気はない様子。ジゼルは話を進める。
「あんたは元々マナに余裕がなかったからね。能力の使い分けや同時に別種の発動なんかもキツいと思ってたのさ。同時に発動ってことはそのぶん負担も大きいからね」
「な、なるほど……」
「でも今はあたしゃと混ざることでマナの感覚は大分マシになったはずさ」
「とは言ってもE組だから高が知れてるかもだけどね」
「フン。元々あんたらの種族はそこまでマナの質に大差はないよ」
「え?」
「マナの通り道に差はあるけどね。少なくともジュリアナや夕美斗とあんたはそこまでマナの質は変わらない」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ミス・ジュリアナはA組でもトップだよ? そんな彼女と同じレベルなんて……」
「そりゃ垂れ流してる量だけなら圧倒的に差があるよ。いや、あった。今はほとんどないね。マナの通り道がかっぴらかれてるからね」
「そ、そうなんだ……」
実感はあっても比較対象を出されると自信が湧いてくる。
が、次に出された名前を聞くと。また複雑な気持ちになる。
「ただ、伊鶴や才……才の契約者たちとは比べるんじゃないよ。あいつらは本物の化物だ」
(やっぱり。彼らは別格なんだな……)
なんとなくは、気づいてた。
先天的か後天的かは不明だが、才と伊鶴の成長率も強さも頭一つ二つ抜けている。
ジゼルに言われずともそんなのは見てきてるので驚きはない。
「あれらと本気で対立するのは嫌だね。まず間違いなくこちらが殺される」
「ハハ。友達だからそれはないよ。でも……」
「ん?」
「近くにいるのも、ちょっと厳しいと思わないかい?」
「……力の差があるからね」
「うん。だからさ。ジゼル。ちょっと今回の試合はいつもより気合入れていきたいんだよね」
「ふ~ん。勝手にすると良いさ。あたしゃはあんたが送るマナに応じたもんしか返さないけどね」
「それで良いよ。ミス・ジュリアナと同じマナのレベルって聞けて自信はついたし」
マイクは自室へのゲートを開く。
ジゼルと話してある程度気持ちが纏まったので、あとは試合に備えるだけ。
「あとは彼らと共にいるために頑張るだけだ。友達だからね」
「やれやれ」
ゲートに消えていくマイクを見送り、ジゼルは呟く。
「予定のもう二、三割はおまけしてやろうかねぇ~」
それは気まぐれか親心か。
どちらにせよジゼルのモチベーションが上がっただけでも、この突然の訪問はマイクにとって価値があっただろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます