第375話

「……フン。なんのようだい坊主」

 ゲートの先にいたのは苔の生えた巨大な岩の上で寝そべるマイクのパートナー――ジゼルの姿。

 マイクは彼女にあることを話すためにやってきたのだ。

「やぁマイレディ。ご機嫌麗しゅう」

「フン。前口上はいらないよ。坊主がこっちに来ることなんて希なんだ。何か、大事なことがあるんだろう? さっさと話しな」

 頭を上げ、鼻を鳴らすジゼル。

 その表情は険しいが、マイクはこの顔が普段の顔とわかっているので特に指摘したりはしない。

 しかし、あまりもったいぶると燃やされかねないので早めに本題に入る。

「この前。ミス・ネスに色々としてもらったろう?」

「フン。あのぐちゃぐちゃにされるやつかい。あれなら二度とやんないよ」

「いや、そうじゃなく……」

 正直、マイクにとってもネスにされたことをもう一度やれと言われたら躊躇する。

 あんなのをポコスカやれる才と夕美斗がおかしいと、割りと本気で思ってるくらいだ。

「まぁ会いに来たのはあの時のことがきっかけだけどね」

「……ほぅ?」

 ジゼルの表情が少し厳しくなった気がした。

 と言ってもベースが鹿なので表情筋は豊かではないので本当にニュアンス程度だけれど。

「ジゼルと深く繋がる……というか混ぜられた感じだけど。その時に違和感を感じたんだ」

「フン。あの思考も感覚も全部かき回された状態で何かを感じることができたとは思えないけどねぇ~。適当かましてるんじゃないのかい?」

「僕がつまらない嘘を言うと思うかい?」

「つまらないジョークとおべっかはよく言うじゃないか」

「お世辞は言わないよ! 全部本心さ!」

 自分にも他人にも正直であることはある意味マイクにとってはこだわりのようなもの。

 故に、わざわざ冗談を言いにジゼルのところへ訪れたりはしない。

 それはジゼルもわかってる。

 これから話す内容をなんとなく察したので、逸らしたかったのだ。

「少し脱線しかけたけど。とにかくあのとき違和感を感じた。何故感じたのか。どんなものなのか感覚を思い出しながら考えた僕が出した結論は――ジゼル。それは君は本当の自分を隠しているね?」

「……ふぅ」

 ジゼルはやれやれといった感じに立ち上がり、岩を降りてマイクのところまで歩いていく。

「……っ」

 その至って普通の歩み。いつもと同じように歩いてマイクに近づいている歩みのはずなのに。

 どうしてかマイクは威圧感を感じている。

 見た目に反して伝わる重厚な存在感を……感じている。

(あぁ、そうだ。この感覚だ。今はただ深い繋がりだけがあるからわかるよ。ジゼル。やっぱり君は――)


 ――もっと、強大な存在だったんだね

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