第377話
「ぅ~……ぅ~……」
といっても今に始まったことじゃない。
くり上がりでリーグ戦に選抜されてから部屋にいるときは大体こんな感じなのだ。
(なんで夕美斗ちゃん辞退しちゃったんですか~。私には荷が重いですって~)
八千葉は良くか悪くかあまり目立ってこなかった。
もちろんE組の躍進を遂げているグループとは認識されているが、それでも伊鶴や才の陰に隠れてることが多い。
多美やマイクや夕美斗の容姿のこともありさらに八千葉の存在感は薄れている。
これは、半分意図的に行ってきたことだ。
なにせこの八千葉。才に近い性格で目立つのを嫌う。
かといって才ほどめんどくさがりでもなく。才より臆病で小心者。
つまり授業をサボる度胸がなかったのでたまたま充の授業を受けて。たまたまアレクサンドラやネスと出会ってきたのだ。
にも関わらず目立たないということを器用にこなしてきた。
実力をつけつつも上手く立ち回ってきたのだ。
が、それも今までの話。
各クラスの上位5名しか選ばれないリーグ戦に出て、結果を出してしまえば絶対に注目を浴びる。
それは八千葉の望むところではない。
トーナメントで初戦敗退でもできれば彼女にとっては楽なのに。
(皆さんと結果残すって決めちゃいましたし。第一リーグ戦ですし。今さら棄権もできないし。でも現実問題私が辞退するとたぶんもうE組から出せる人っていないんですよね)
いつもの六人を抜けばあとはカナラくらいしか戦える者はいないだろう。
そしてそのカナラは事情を抱えた転入生で試合には全面的に出れないし、夕美斗が辞退して八千葉まで辞退してしまえばそこで打ち止めなのだ。
(変に空気読んだの……ダメだったかなぁ~?)
「いい加減諦めたらどうだ? もう降りれないんだろう?」
八千葉の契約者――セッコが呆れた声を出す。
毎日同じような姿を見ていたら呆れるのも無理はない。
「……そうですけど。目立ちたくないです。第一、今だって私基準ですが十分目立ってます。マナの感覚も掴んだし、あとは適当に卒業して適当に就職したいんですよ私は」
「すでにお前の種は枷から放たれたはず。目覚めた者も多いだろう? であれば少しくらいなら問題ないんじゃないか?」
「……なに言ってるんですか。少し緩くなっただけですよ。少しだけでもかなりマナは使えるようになっちゃいましたけど。それに、いつもと違って今度の試合に勝っちゃったら一勝でも目立ちます。考えるだけで鬱です」
「まるで勝つのが決まってるような物言いだ」
「負けちゃうんですか?」
挑発的な発言をするが、セッコはただ呆れるだけ。
「お前と俺に勝つ可能性を持つのは10人に満たない。いや、お前が本気を出せば現状なら学園長くらいだろうよ」
「天良寺くん……才くんにも無理です。勝てません」
「じゃあ二人だ」
何気に伊鶴には勝てると断言する八千葉は顔をあげる。
コンタクトを外すために。
「……相変わらず。その目は怖い」
「私だって好きでこんな目をしてませんよ」
コンタクトを外した八千葉の目は普段の黒ではなく。色素を感じられない白色をしていた。
そればまるで、一度だけ表舞台に顔を出した彼女の同級生である彼のように。
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