第373話
『もしもし兄様。お久しぶりです』
「結嶺……」
部屋に戻って一応年末年始あたりの予定を聞こうとしたら通話をかけられた。
お久しぶりって……。
まだあれから全然時間経ってないだろうが。
「わざわざ通話かけなくても良かったろ。メールにしろよメールに」
「別れ際、少し様子がおかしかったので気になって……。でも今は元気そうで良かったです」
「なるほど。じゃ、用は済んだな。じゃ――」
「先に用件があったのは兄様では? それとも私としゃべるの……嫌なんですか?」
「そういうわけじゃないけど……」
あのときお前に灰音生ませようとしたの覚えてるから気まずいんだよ……!
とはさすがに言えねぇよなぁ~。
これはもう早めに話を終わらせて切るに限る。
用件を話せば結嶺も納得するだろ。
「年末年始どうするか聞こうと思ったんだよ。実家はもうないし。あっても帰省できるうな場所じゃなかったけど」
「あ、あ~……。そう……ですね……。もうないんでしたね……」
結嶺の声がトーンダウンする。
よし、少しは気をそらせたぞ。
これなら巻きでいっても責められないぞきっと。
「俺は基本こっちにいるつもりだけど。お前はどうするんだ?」
「私は……。兄様と同じように基本はこちらにいることになるかと。他に行く場所もないですし」
ま、そうなるか。
俺も結嶺も寮暮らしだし。
「で、でも。兄様と二人でお出かけとか……したいですね。もう誰に咎められることもないですから」
誰ってか親父だけどな。
もうあの男に邪魔されることはないし、一度くらいは顔会わせようと思ってたから会うのは良いんだが……。
「出かけるのは良いけど。どこに行くかだな……。自由にできる金もないし」
「私が出しますよ?」
「いや、それはちょっと……」
いちいち妹に金出させるの気が引けるっつの。
しかも出かけるって買い物以外に旅行の可能性もあるじゃねぇか。
俺は妹にたからなきゃなにもできないろくてなしになりたかないぞ。
「坊。坊」
「ん?」
カナラが俺の肩をちょんちょんとつつく。
なんか用があんのか?
今結嶺と話してるから後にしてほしいんだけど……。
「
思わぬところから助け船。
たしかにカナラの
ただ、召喚魔法師以外が異界に行くとなると手続きが――。
「あ」
カナラってたしかお偉いさん脅して身分手に入れてるじゃん。
ってなると手続き面はカナラに任せれば円滑に進むだろ。
最悪無視してもまた脅してもらえば。ぐへへ。
「兄様? どうしました?」
「ん? あ、すまん。たった今行き先決まった。知り合いの家だからほとんど金かからず世話になれるぞ」
「そ、そうですか。なるほど。……少し気になるんですが」
「なんだ?」
「その知り合いってこの間兄様の部屋で会ったクラスメイトの黒髪の美人さんですか?」
「……なんでそう思う?」
「今声が聞こえたので」
ん~! カナラ声ひそめてたけど聞こえてたかぁ~。そうかぁ~。
まぁでも、俺の部屋に来てるのは前回でバレてるし。今さら怒ることもないだろ。
「兄様ぁ~……? また招いてるんですね?
というか頻繁に招いておられますよねきっと。詳しくご説明を――」
「ぱぁ~ぱ♪ だれとおはなしちてるの?」
「「…………」」
「ちょっ!? 新しい女ですか!? それにパパってどういう――」
「あ、あ~ちょっと急用ができたからこれで! 詳しい予定が決まったらまた連絡するわ!」
「ま、待っ――」
慌てて通話を切って追撃を回避するために着拒。
メールも通知を切ったししばらくは大丈夫だろ。
ここまですると後が怖いけど……。言い訳はまたそんとき考えよう。
それより今は……。
「灰音……お前ぇ~……」
「あ、あれ? なんかお怒りモードですかい我が父よ」
「そりゃあもう……」
「そ、そっかぁ~お怒りかぁ~。ということは?」
「やっちまえコロナ! 俺が許す!」
「ふがぁ!」
「いぃぃぃぃいぃやぁぁぁぁぁぁぁあ!? こうなるよねぇぇえぇぇえええ!?」
コロナによる制裁を受けた灰音がべちゃべちゃになったのは言うまでもない。
二度と軽率に俺を呼ぶんじゃねぇぞ。
次やったらもっと酷い目に合わせるからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます