第370話
「ん~久々の母国は良いね~」
「そんなこと言って。日本のが良いと言って中々帰ってこないのは貴女でしょう?」
身一つで空港に降り立つアレクサンドラ。
そんな彼女を出迎えるのはアッシュピンクにバズカットでスラッと手足の長いスタイル抜群の女性。
スタイルとは裏腹に、顔にはそこそこのシワがある。
年齢はは50代前半~60代そこそこといったところだろう。
「ハァーイ。お久しぶり。先生。相変わらずナイスビューティーだね」
「当然でしょ? 綺麗でいられるように努力してるんだから。さっ、無駄話は車の中でしましょ。早く行くわよ」
「サー! イエッサー!」
「敬礼なんてしてんじゃないわよ。早くしなさい!」
先生と呼ばれた女性は仕方ないわねと肩をすくめ、アレクサンドラは後についていく。
彼女の名はレア・ボネ。フランス出身。アレクサンドラの恩師であり、魔帝である。
「へ~。じゃあ貴女も向こうで楽しくやってるのね」
車で移動しながら日本での出来事を話す。
一つ一つ丁寧に聞いてもらえて、アレクサンドラは上機嫌になっている。
「まぁね。色んなとこで仕事したけど、日本が一番新鮮な思いしてるよ」
「そりゃあ召喚魔法師相手じゃそうでしょうよ。10年前に初めてあの子を見たときにはまさかあそこまで大物になるとは思わなかったけど」
「普段の紅緒はナヨナヨしてるしね。でも――」
「事、戦いにおいては無敵ね。あの子が負けるところを想像できないわ」
「だろうね。戦闘特化の神誓魔法師にもあっさり勝ってたからねあの子。強すぎるぜジャパニーズ」
「貴女も大概だけどね。若い頃からあっさり私を追い越しちゃって」
「そりゃ先生は別に天才じゃないし? それでも魔帝になってるんだから恐れ入りますよ。本当」
「そりゃあね。女は磨けば綺麗になり続ける。いくつになろうとね。同じように魔法師も研鑽を忘れなきゃいくらでも強くなれるのよ。今だって、私はピークじゃないと思ってるわ」
「……使えるようになりましたしね」
「貴女もでしょう?」
二人は意味ありげに一拍の沈黙を挟む。
そしてまた、アレクサンドラは口を開く。
「先生の情報ではどれほど?」
「10月から魔帝と候補レベルはほぼ全員使えるようになってたわね。一気に人域魔法師のインフレが起こって大混乱よ。ま、キッカケはどうあれ、このシンクロニシティの波に乗れたのは嬉しいけどね」
「何十年もかけた祈願ですもんね~」
「そそ。だから努力せず使えるようになった貴女にはちょっとムカついてるわ。あとで覚えてなさい」
「んんー! お手柔らかに!」
「お断りよ」
厳しい恩師に苦笑いを浮かべるアレクサンドラ。
でも、この変わらない雰囲気に安心感も覚えている。
何年経っても変わらず。何年かけても努力を続けるレア。
魔法師としてだけじゃなく、女としても磨き続けてるレア。
そんな彼女をアレクサンドラは心から尊敬している。
だからこそ、クレマン・デュアメルと戦う前のトレーニングパートナーに選んだのだ。
「ところで先生」
「なに?」
「女は磨けば綺麗になって、魔法師は磨けば強くなるんなら」
「なら?」
「男は?」
「どんどん態度かデカくなってバカになるわ」
「辛辣ぅー!」
「オホホ! 事実だもの!」
ケラケラと笑う師弟。
でも、すぐに顔を引き締めてレアはアレクサンドラに告げる。
「……勝ちなさいよ」
「努力はしますよ」
「そう。ならいいわ」
すでに敗北の未来を受け入れてるアレクサンドラに、レアはそれ以上何も言わなかった。
ただ、アレクサンドラが覗くレアの横顔には、不安と心配が入り交じった複雑な感情が浮かんでいた。
(ソーリー。それでも私は戦わなきゃいけない気がするんだよ)
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