第363話

「はぁ~……。煙魔はん……。阿呆ちゃいます?」

「ぅ~……」

 話を粗方聞いて呆れ混じりの感想を述べる。

 カナラも狐狗を否定せず受け入れてるようだ。

「折角向こうさんから言うてくれはったのに断るてもう救いようのない阿呆や。もういっそ輪廻巡って人生やり直したらよろし」

「そ、そこまで言わんでも……」

「言いたくもなりますわ」

 狐狗がジロリと睨めばカナラは居心地が悪そうに目を逸らす。強く反論できないようだ。

「約束言いましても、互いが納得したらそら破る事になりまへんやんか。煙魔はんあの子に本気なんやろ? それなのに折角の誘い断るとか意味わかりませんわ。あ、もしかして急に押し倒されて臆病風に吹かれただけちゃいますの? 初めてやから怖くなったんちゃいます?」

「……」

「図星かいな……」

 呆れが強くなるに比例して肩身の狭さも増していく。

 しかし普段強気に出ている相手に攻められたままでいられるほどカナラも根性なしではない。

 なんとか食らいつこうと反論を試みる。

「で、でもこの前坊がちっちゃなった時は危うく約束違えて手を出しそうに――」

「結局そん時も手出してないんでしょう? その言い方からして。それに今関係ないやんか。子供に欲情した聞いてなんて答えたらええのん? 変に言い訳しようとしなさんな阿呆。それとも若衆道わかしゅどうでも気取ってます? 女やで自分。それも大年増の筋金入りのお婆さんよ? ほいでどんな理由でどれくらい縮んだか知らんけど、手出してたらもうただの拗らせ生娘やんこのド変態」

「あう……!」

 惨敗。ぐぅの音も出ないほどコテンパンにされてしまった。

 ちなみに若衆道とは男の少年愛のことである。

「なんにしても」

 狐狗は話を切るように立ち上がり、数歩進んで顔だけ振り返る。

「あと二年待つ決めたんならもう待つしかあらへんわな。本来日ノ本に生まれたからにゃ二言なんて許されへんし。一度……いや二度覆そうとしてたみたいやけど」

「も、もうええから……。はよ帰って。お話聞いてくれてどうもおおきに!」

「はいはい。ほな妾はこれにてお暇。帰らせていただきます~」

「……ちょい待って」

「う~ん? まだ何か用ですかぁ~? そろそろ修蛇裸すだらんとこ行って男の品定めしに行きたいんやけど? 煙魔はんのおぼこい花事情聞いたら悶々としてもうてなぁ~。さっさとスッキリさせたいわ~」

「なら丁度ええわ。近々行くかもしれへんってーてもらえる?」

「あら、珍し。ここ数百年平和ボケしとった煙魔はんとは思えへんお使いやなぁ~。なして? 自分の不甲斐なさの所為で二年待たな散らせんくなった憂さ晴らし?」

「……鈍った体叩き直すだけや」

「今の間が物語ってますよ~」

「ぅ~……」

「お~怖い怖い」

 恨めしそうに睨みつけられたので狐狗はそそくさと小走りにカナラから離れて蒼白い炎を出す。

「ほなお使い承りました~。また気ぃ向いたら来ますね~」

「はよ往ね!」

 炎が消えると同時に狐狗の気配も絶たれる。

 どうやらちゃんと帰ったらしい。

「はぁ……ほんまあの子の相手は疲れるわ……。すぅ~……はぁ~……」

 カナラは煙管を出して桃色の煙を吐く。煙の先は寮の自室。

(はよ着替えて準備せんとね)

 才との一件で悶え、狐狗の相手をした所為で時間がかなり過ぎている。

 カナラは急いで登校の準備に向かう。

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