第347話 

「はぁ……! はぁ……!」

 た、堪らない……。この場所は最高にい……。

 他の生き物と違って微かにしか匂いがないこの女の香りが充満している。昂りすぎて心臓が破れそうだ。

 だけど、もう準備は整った。もう、我慢なんて欠片もしない!

「フム。かなり強い干渉だな。だが、なんだ? 干渉してる側が馴染みすぎている。まるで自身から受けているような不自然さを感じるな? まったく……いったいどんな事があってそんな状況になっ――んむ?」

 何かしゃべってたようだが、聞く気になれない。

 それがどんなにくだらなくても、どんなに大事なことでも。今の俺にとっては些細なこと。

 今の俺にとって一番優先されるのは、目の前のメスを貪り食らうことだけ。

「ちゅる。ぁむ。むちゅ。じゅりゅる。……ぷは。聞く気なしかむちゅる。余程盛ってるらしいな」

 あぁクソ隙あらば口を離しやがる。でも、声も良い。近くで聞くとこれもまた俺の欲を刺激する良い要素になってる。

 ……もっと、もっと聞きたい。もっと、別の声も。

「ん? おい。……は、ぁん! ……ぁっ。……ぁあん! ……や、やはり良いな……お前に触られるのは。堪らなく我を押し上げてくる……っ。んんん……っ!」

 耳を吸いながら体をまさぐると良い声でく。

 触り心地も服越しの時とは比じゃない。肉付きはないのにこんなにも滑らかで、さわり続けると吸い付くような感触に変わっていく。体表面に帯びてるマナも良い刺激を与えてくれて……実に、良い。

 もっと……。もっと味わいたい……っ。

「……クハ。なるほど。わかってきたぞ。目的が。まぁ理由はどうあれ、この機を逃すのは愚かしい……か。良いぞ。乗ってやろう。

「んむ!?」

「ぢゅるっ。れるっ。じゅるるるっ」

 耳から無理矢理引き剥がされると同時に女の方から口を吸い立ててくる。

 される側になるのも……これも……悦い……。

 前にも同じようなことをされた気がするが……記憶を探るリソースがもったいない。今はただこいつに集中しなくては……。



「――っと、いかんいかん。夢中になりすぎた」

(折角の快楽たのしい時間。邪魔されるわけにもいくまい。それに、の為にも呼んどいた方が良いだろ)

「……!」

 才の鼻に強烈に刺激的で、甘美な香りが突き刺さる。

 思わずリリンの口から少し距離を取ると、リリンが首筋に指を刺し入れてグリグリと傷口を広げていた。

「舐め――ん」

 命令を聞いたわけじゃない。言い終わる前に才はリリンの首に吸い付き、舌を傷穴に挿し入れて肉の味を楽しむ。

 その間にリリンは影を伸ばし、ある人物を呼び寄せる。

「お呼びでしょう……か……」

 程無くして、リリンの気紛れで拾われ、リリンの血で別の生物へと成り果てたこの世界の人間にしてリリン唯一の侍女――ディアンナがリリンの部屋へと訪れる。

 部屋に入った瞬間はリリンの血の匂いで一瞬トリップしかけたが、すぐに才に体をまさぐられながら血を吸われてるのが目に入って困惑する。

 前までならこんなのが目に入れば才に襲いかかったものだが、リリンの悦楽に浸る顔を見てしまえば望んでやってる事と納得して浅はかな行動には移らない程度には成長した。

「ん……っ。きた……か……ぁっ。後で……ん。も……う一度……っ。……呼ぶ。……そのっ。時に……っ。一度、沸騰させて……ぁん。人……っ。はぁ……。人肌に……冷ました湯と……。適当な、布を持ってこ……いっ」

「か、かしこまりました……。あ~……え~……お楽しみに」

「あぁ……んんっ!」

 用件を聞き終えると頬を染めながら気まずそうに退室するのを確認すると、リリンはマナを込め始める。

(あとは、他の血族共の邪魔が入らないようにしないとな)

「……っ」

 夢中になってリリンの首にむしゃぶりつく才が一瞬硬直するほどのマナを放つリリン。

 マナは世界全体に広がり、リリンの血族達はリリンのメッセージを受けとる。『これより我の邪魔をすればかつてない程不機嫌になるから心しておけ』というメッセージを。

(よし。これで余程の馬鹿でない限り邪魔はせんだろ。ではでは)

 リリンは硬直している才の胸を押し、少しだけ距離を取らせる。

 そして体を起こし、影で身につけてる物を全て取り除く。

 片膝を立てながら足を開いて内腿に爪を立てて滑らせると、白い肌にツーっと血の赤いラインが刻まれる。

 その痛々しくも妖艶なコントラストに、硬直していた才は再び情欲を滾らせる。

「さぁ、続きだ。獣の如く。畜生が如く。お前の欲を全て叩きつけてみろ。全て呑み込んでやる」

「……ごくっ」

 最早そこに思考はなく。あるのは本能のみ。

 メスを孕ませるオスの本能のみ。

「我に、お前を刻み込み。真の意味でお前の女にしてみろ」



 記憶を拒みたくなるほどの甘美な時間は迸る快楽の渦。


 他の生き物には感じられぬ次元の感覚の中の原始的な愉悦。


 知性をかなぐり捨て、本能に身を委ねる事のなんと怠惰な事か。


 しかして抗えない。抗いようがない。抗うつもりもない。


 何故なら両者は互いにとって唯一共に同じ場所に至る器を持つのだから。


 言うなれば、運命の番なのだから。


 と、どんな言葉を紡ごうが。


 どんな世界だろうが。


 どんなに特別な存在だろうが。


 男と女。雄と雌が揃えば起こる事なんて、どこの世界に行こうが同じ事。


 だからこれは必然。必定。当然。当たり前。


 生物にとっての本来の姿。


 だから、もしも二人の行いを禁忌と感じるならば。


 それは生き物としての当たり前を奪われてるのかもしれない。


 


 のように。

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