第343話

 ……よし。止血はしたし、血も影で回収して余計なもんも取り除いて体に戻したから差し当たり死ぬことはないだろ。

 敷地内のセキュリティも全部壊して救急も呼んだ。結嶺に今から戻ると連絡も入れたし、残るは……。

「……」

 この腕だよなぁ~……。

 今もまだビンビンに感じる異質な存在感。さてどうしてくれようか。

「う~ん……」

 とりあえず拾ってみたけど、切断した腕を持つって気持ちの良いもんじゃねぇよ……。当たり前だけども。

 ……よし。処理は後で考えるとして、先に山を降りるか。結嶺も待ってることだし。



「あ」

 山を降りてる途中。ふと、この腕はネスさんにでもくれてやれば良いのではと思い付く。

 あの人なら珍しいもんなら喜んで飛び付くだろうし、あいつらも任せてるからちょうど良い手土産だわ。

 あ、家のまだ残ってる資料も後で回収して渡すか。

 まだ聡一あいつがなんで神誓魔法師と同じ気配がして、影を使った理屈カラクリもわかってないし。ついでに調べてもらお――。

「……!?」

 な、なんだ!? 急に腕から影が出てきて俺の左腕に絡んできやがった!?

「……んのっ」

 う、嘘だろ……? 俺も影で応戦してるのに全く押し返せない……っ。

 しかも聡一あいつの左腕が俺の左腕に潜り込もうと細胞をほどき始めた! ドロッと溶けてグロテスクに……ってそれどこじゃない!

「く……っそ……!」

 腕は骨まで液体になって影とほとんど同化。赤黒いモノが指先から肩近くまで絡みついて来てるっ。

 辛うじて自分の影でコーティングしてるから侵入だけは防いでるけど、いつまでもつか……。

「……ったく」

 仕方ない。俺も自分の腕を落とすか。聡一あいつと違って俺の場合すぐ生えるし。よくわからん危機を回避するほうが重要――。

「しまっ!?」

 お、おいおい嘘だろ!? 肩に右手を置いた瞬間、右手ごと肩にまとわりついて来やがった!?

 しかもそれを機に一気に体の方まで侵食を進められた!

 動揺して影やマナを解いたわけじゃない。その上から構うわず覆ってきた。

「……っ」

 や、やばい……。腕を切り落とすどころか半身覆われちまった。

 このままじゃ全身覆われるのも時間の問題――。

「……っ!?」

 今度は俺の影とマナを貫通して左手に直にへばりつかれた!

 ま、マズい! 皮膚が徐々に溶かされて混ざろうとしてくる。

 加えて物理干渉から俺の存在のほうにまでナニかが干渉を始めて来てるっ。

 つ、次から次へとなんなんだよ!


 ――やれやれ。だというのに無理矢理叩き起こすのは優しくないと思うんだが? これは虐待で訴えられるのだろうか?


「!!?」

 なんだ!? なんなんだ!? ど、どこから声が……。


 ――しかし。うん。しかして仕方ない。これは仕方ない。まさかのよもや。このような形で接触されるとは母も気づかなかっただろうし。ここまで不躾に起こされて寝起きか悪いとしても私がなんとかするしかない。いやはや、かたちのない状態が初仕事とはなんとも形容しがたい複雑な気持ち。もし赤子として生まれてきたならば泣く前に思わず何かを悟った顔をしてしまいそうだ。早々に悟ることを福とするか否か。己の器の大きさを試されてる気分だ


 な、なんかやたら饒舌な緊張感のない声が聞こえる……。

 気の抜けることこの上ないけど、おしゃべりなお陰でがどこにいるのかはわかった。理由もわからないし、突然存在を認識できちまったから違和感しかないんだが。とにもかくにも、


 ――まぁ、生まれることすらままならない事態になってしまってるし。生まれる憂いは杞憂に終わりそうだけれど。はぁ……せめてお天道様とやらは肉眼で見てみたかった


「は……?」

 突如として俺のナニかがより強く俺に干渉して赤黒いモノを俺の中から弾き出して肌からも引き剥がす。

 突然の危機は突然の救世主(?)によって回避されたわけなんだが……。

 

 ――早目の、そしてもしかしたら最初で最後の親孝行だ。私を救いとし、糧とし、自分のままの余生を楽しんでくれたまえ


「お……まえ……は……」

 誰だった……んだ?

 あと、親孝行ってどういうこと!?

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