第341話
「何故、お前なんかがソレを持っている?」
いちいち悪態か上から目線じゃねぇと会話できねぇのかあんたは。
はいはいできないんですね。うん。知ってる。
抗議しても無駄なのもわかってるのでこのまま話を続けますよー。
「うちの学園長が魔帝ってことくらいは知ってるだろ? あの人はお人好しだからちょっと同情を誘ったら快く協力してくれたよ。お陰であんたは俺の話に対してやっと聞く耳を持った」
本当のことを言ってもどうせ信じないだろうからここはソレっぽい話でお茶を濁す。
「クズめ」
義理とはいえ娘の婚約を勝手に決める時代錯誤甚だしい自己中なあんたの息子だからな。遺伝だろ。てか嘘だし。いや嘘つきもクズっちゃクズだから変わらんか。やっぱ遺伝だよ。
「あんた、魔帝とのコネのために結嶺を差し出すんだろ?」
「その紹介状を条件にやめろとでも良いに来たのか? たった一枚の紹介状で――」
言い切る前に、もう二枚の紹介状を見せてやる。
さすがの親父も不機嫌な顔から驚きの表情に変わった。
「あんた引きこもりすぎて情報に疎い? うちの学園長がどうやって魔帝になったと思ってんだ?」
「……っ」
ここまで言えば気づくよなぁ~? そう。うちの学園長は当時の現役魔帝(一部を除く)を力でねじ伏せたことを讃えられて魔帝になった人。
で、あれば。他の魔帝に一言二言言えば紹介状なんて集められるとそう思うだろう?
実際は無理矢理書かされたっぽいけどな学園長。忙しいのにアレクサンドラに付き合わされて憐れなこって。
お陰で助かっておりますよ~。今度なんか菓子折りでも持ってお礼にでも行こうかな? 会えなさそうだけど。
「……その三枚の紹介状の代わりにデュアメル氏との契約を反故にしろ。そういうことか」
「いいや」
「……?」
それじゃあ意味がない。それだけじゃあ結嶺は解放されない。ここでこの話は終わりになっても。また結嶺を餌にしかねない。
だから、俺はあんたからすべてを奪わなければならない。
「タダでやっても良いよこれ。ただし、俺と試合をして勝ったらな」
「――」
先程よりもさらに驚きの表情。
そりゃあクズと切り捨てたヤツに。ゴミと罵ったヤツに。才能溢れる俺様に試合を挑むと宣ったらそら驚くだろうよ。
そして最初に憤るだろう。身の程知らずがって。
でも次にこう思うんだ。交換条件ならまだしもこんなの俺に利益しかないってな。
あんたは乗るのさ。プライドがあるから。
あんたは乗らざるを得ないのさ。美味しい餌がぶら下がってるから。
「契約書も用意してある。試合で勝った方に予め賭けていた物を譲渡することって内容の物をな。これに記入すれば契約は成立する。さぁどうする?」
「もちろん乗る。お前はその紹介状を。それ以外に価値がないしな。それで俺は――」
「全部賭けな」
「は?」
魔帝クレマン・デュアメルとの契約の反故を条件にしようとしたんだろうが、俺は言葉を遮って俺の求めるモノを言ってやった。
「別に良いだろ?」
「……あぁ、構わない」
どうせ俺が勝つからって思ってんだろ?
ありがとう。思い通りに動いてくれて。
あんたが単細胞なお陰で俺の理想通りの展開だよ。
「……」
「……ふん」
お互いが契約書と紹介状の内容を確認。
目配せをすると不機嫌そうに鼻を鳴らしたので了承ってことで良いだろう。では――。
「ロゥテシア」
「……!」
俺が呼ぶと、ロッテが犬の姿でゲートから現れる。
予めロッテには書類の管理をお願いしていたので打ち合わせ通りだ。
「頼んだ」
「わふ」
書類を頭に乗せると犬らしく返事をした。かわいい。思わずわしゃわしゃしそうになっちまったぜ危ない危ない。
今は割りとシリアスな空気なのでわしゃわしゃは帰ってからやろう。
「おい! 貴様なぜ紹介状を――」
「これから戦うんだぜ? 紛失対策だよ」
ロッテがゲートに消えていくとまたヒステリーを起こしそうになったので遮る。
サインもらってはいバイバイってするとでも? そもそも俺から持ちかけた話だぞ。やるわけねぇだろ。いちいちヒステリー起こすなよめんどくせぇな。
だけど、そんなあんたに悩まされるのもここまでだ。めんどうだし。うぜぇし。なにより――。
「書類は合意の上記入。安全な場所に保管。あとは雌雄を決するだけ。ってこと、今からスタートってことで良いよな?」
答えはいらねぇ。俺もあんたの面見てると頭に来てもう我慢できねぇからなぁ!
「な……!?」
俺の手から火の玉が発生するのを目の当たりにした親父が今日一滑稽な顔になってくれる。
おいおい。これからやり合うんだぜ? サインして、お互い確認が終わった時点で始まってるんだぜ?
なにせ、場所の指定はしていないからなぁ!?
もちろん。あんたも準備は出来てるよな?
出来てなくても始めるけどよ!
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