第338話

「よぉ」

「あ、おはようございます。兄様」

 翌日の早朝。俺と結嶺は実家の最寄り駅で待ち合わせていた。

「じゃあ。行くか」

「はい」

 あいさつもそこそこに、俺たちは歩き出す。我が家へと。



「それじゃ頼んだ」

「……」

「……?」

 二人とも特にしゃべることもなく。無駄にデカい門扉もんぴまでたどり着き、中へ入るために結嶺に鍵を開けるよう促す。

 けれど、結嶺はなぜか沈黙を保ったままだ。どうしたんだろ?

「結嶺?」

「……兄様。やっぱりやめませんか?」

「はぁ~?」

 何を言うかと思えばよりにもよってやめるだとぉ~? ここまで来てぇ~?

「あのなぁ……。何を思ってのことかわからないけど。それは無理だろ……」

 魔帝三人巻き込んでんだよ。これで交渉失敗しました。っていうか玄関まで行ってとんぼ返りしましたとか言えねぇなからな? アレクサンドラに殺されるわ。

「兄様の策は聞いてますし、兄様の実力を持ってすれば可能だと思います。むしろ失敗なんて考えられません。……ですが、最近のあの人はおかしなことをしていて。研究が実を結んできたとか言ってて。もしかしたら兄様を害するほどに達しているのかも」

 心配はありがたいけども。だとしても無理なもんは無理。ここまできたらやるしかないんだよ妹よ。

「大丈夫だろ。仮にあの男がどんなに人間離れしてようと。本当の人外共相手にするよりはマシだって」

「そう……かもですが……」

 結嶺を安心させるつもりでこう言ったけど。俺って例もあるしな。人間やめる前から化物リリンに一目置かれてたし。

 そう考えると何かの拍子にあの男が化ける可能性もある。腐っても俺の血縁だからな。

 だけど、懸念なんて挙げたらいくらでも出てくる。キリがない。

 だから今は考えない。問題は直面したときに考える。

 てか今の思考速度であれやこれや考えるのは正直めんどうなんで早く切り上げたいのが一番の本音。うん。

「結嶺。おれを信じて待ってろ」

「……」

 結嶺は依然心配そうな表情を崩さないが、珍しく……つか初めて頼もしい姿を見せてるからか門の横に行く。

 指紋認証と端末によるID認証を行うと門が開いた。

「私はここで待ってますので。たとえ結果が芳しくなくとも無事な姿を見せてくださいね?」

「待たせるのも悪いからなるたけ早く今と変わらない格好で戻ってくるよ。……てかわざわざここで待たなくても良いだろ。一駅二駅離れてるとこでも良いからカフェにでも行けよ」

「いいえ。ここで待ってます」

 人通りほぼねぇ寂れたとこにいたって暇だろうに……。まったく。

「じゃ、いってくる」

「いってらっしゃい」

 なんだか、今のは普通の家族っぽいやり取りだったな。

 なんつーか。こういうことをなにも思うことなく。自然とできるようになれたら良いって思うわ。

 ま、それも今からの俺の頑張り次第だけど。

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