第337話

「……こんくらいか?」

 ネスさんたちと別れてから早数時間。

 ずっと投影を行っていたんだがなかなか加減が難しくてめちゃくちゃ時間かかった。

 何度も何度もリリンにリテイクをかけられたが、今度こそどうだ?

「フム。及第点だな」

「……」

 普通に合格つって誉めてくれても良いんじゃないか?

 いや、お前にそういうこと期待する方がアホなのはわかるんだけどさ。

「しかし、まだたったの数ヵ月だが懐かしさを感じるな。お前のその雰囲気は」

 そうだな。俺も懐かしいよ。短い期間だけど、お前と会ってからの密度は半端じゃなかったからな。

 俺は人間やめて。お前は背が伸びて。その頃に比べたら今の俺は懐かしいだろうよ。

 何せ、んだからな。どんなに短くとも原点とあっちゃ懐かしめるわ。

「いや~変な気分だわ。数時間前は頭ん中スッキリクリアで色んな思考が駆け巡ってたのに。今はなんかボーッとしてる……ってか熱だした時みたく思考の速度が落ちすぎてバカになった気分」

「だろうな。事実今のお前は馬鹿だ。わざわざ弱くなる点も含めてな」

 辛辣。あまりにも酷いお言葉どうもありがとう。

 でもさ? 仕方ないだろ?

「今の俺じゃないと意味がないんだよ。あの男を完全にへし折るには」

「前のまま加減しても変わらんだろうに」

「それで変に違和感感じて駄々こねられたらたまったもんじゃない。念には念をだよ」

 俺が人間やめてることに気づくなんてそれこそ人外じゃないとわからんだろうよ。過去の俺との違いに関しても細かくあの男が気づくことなんてないだろうよ。

 でも、なんつーのかな。たぶんこれは俺自身のためでもあるんだよ。俺が同じ土俵であの男をへし折りたいんだわ。

「プライドだけは一人前だからな。あいつ。同じどころか見下してたガキに得意分野で負けたらきっと完全に精神病む」

「だろうな。それでもあまり意味ナイキはするがな。お前、ラビリンスだけは補強したままなんだろう?」

 そう。前の俺は自分のマナを使えば手足やら顔面やらから血を噴き出すくらい脆い体だった。

 その頃まで戻したら一切マナを使えず勝負どこじゃないので、そこだけは大目に見てほしい。

「そこをいじらなくては対したハンデにもならん。まともな人畜生が真正面から相手できる次元でもあるまいよ」

「思考力とか反応とかの肉体レベル落ちてるし……。結構なもんだと思うが?」

 たぶん今の俺空間短縮とか影とかほぼほぼ使えないぞ? できるもしてもマナによる一時的な身体強化とか火の玉だすくらい? 腐ってもあの男人域魔法の研究者だし。負けなくとも苦戦はすると思うんだがなぁ~……。

「少なくともお前の目算よりかは差はあるだろうよ」

 むぅ~……。納得はしかねるが他でもないリリンの言うことだし。流せない。

 でもこれ以上ハンデつける方法なんてわからんし。明日には決着をつけるつもりだからもう色々考える時間もない。もうこれでいくしかない。

 っていうか。

「なんでそんなに突っかかるんだよ。いつものお前ならこんなことに口はさまないだろ?」

 リリンはなんだかんだ俺のやることとかに疑問とかあったとしても特に突っかかったりしない。なのに今日に限ってなんなんだ?

 ……わからん。頭悪くなってしまったのでいつもより多く疑問符が浮かんでおりまぁす。

「フム。確かにいつもの我ならば特段気にすることもないんだがな。今は少し気分が――」

「んむ!?」

 しゃべってる途中で姿を消し、現れたときには俺の唇を奪ってた。

 お、お、お、お前! なにしやがる!?

「久方ぶりに純度の高いお前の香りに気をやってたんだよ。が、もう何も言うまい。懐かしく味わい深いお前の味を再び口に出来たしな」

「……なんだそりゃ」

 そんな理由で突っかかるって。理由を知っても意味わからん。

「フム。やはり反応が落ちてるな? あの程度ならば既にかわせるはずだからなぁ? それに、顔を赤くしおって。ここ最近は味気のない面ばかりの癖に」

「……」

 確かに顔が熱い。数時間前なら表情どころか気分も高まらなかったと思う。

 前にしたときは本当に気持ちがフラットで、違和感を感じてたんだが……。

 やっぱりリリンを投影して感情の起伏がなくなってただけなのかな?

「考え事か? 目の前に女がいるのに?」

「……そういう台詞を言うヤツでもないだろお前」

「まぁな。今のも言ってみただけだ。他意はない」

 リリンは頬にキスをすると俺から離れてゲートを開く。

「我は一度城に行く。背が伸びたのでな。新しいドレスを取りに行ってくる」

「……わかった。先に戻ってる」

 俺の返答を聞くと手を振りながらゲートに入っていき姿を消した。

「まったく……」

 本当に懐かしいなこの気持ち。あいつに性的なからかい受けてうろたえる感覚。

 ……でも、やっぱり前とは違うな。前はもっと……動悸が激しかった気がするし。

 これはやっぱり俺がリリンに慣れてきてるからか? それとも――。

 いや、今はそんなこと重要じゃないか。今の俺の体だと睡眠取らないとだし。さっさと帰って寝よう。

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