第315話

「やぁあ!」

「うわぁ!?」

 和宮内夕美斗。当時9才。柔術の練習試合にて14才男子を投げる。

 この頃になると夕美斗は武術の才能を開花させメキメキと実力を伸ばしていった。

 勢いに任せず。無駄に力まず。相手をよく見て、隙を見つけては技で相手を投げる。

 まだ体は小さいので大人とは本気の試合はさせてもらえないが、15才以下相手ならば敵なしになっていた。

「大丈夫ですか?」

「……あぁ」

 対戦相手に仏頂面を向けられるのもしばしば。相手になっているのは思春期真っ盛りなので仕方ない。

「よし。次」

「はい!」

 少しずつ丹念に、そして丁寧に鍛えられてきた夕美斗は同年代より遥かにタフに育っている。年上相手の連戦も軽くならこなせるようになっていた。

「両者構えて。始め!」

「「お願いします」」

 次の相手も中学生。それも男。しかし相手も夕美斗の実力は知っているので迂闊には近づかない。

「「……」」

 間合いを図りつつ出方をうかがう両者。緊張感が高まってきたところで――。

「……」

「あ、あれ!? 瞬!?」

 ふと、珍しく道場に訪れた瞬が目に入る。

(隙あり!)

「あわ!?」

 瞬に気を取られてしまい、無防備のまま襟を掴まれ体重をかけられる。

 そのまま足を回されて小内刈りの体勢に。

「あだぁ!」

 受け身もままならず、そのまま倒されてしまう。

「や、やった……!」

 不意打ちとはいえ、夕美斗に勝った男子は素直に喜ぶ。

 普通なら小さな女の子に対して大人げないと思われるだろうが、夕美斗は別。

 夕美斗の才能も。経験も。実力も皆が認めている。

 だから誰も責めない。責められるとすれば。

「夕美斗! 練習とはいえ試合中に余所見とは何事だ!」

「は、はい! すみません!」

「これが実戦であれば死んでいたぞ! そうでなくとも試合中だ。怪我くらいは十分にあり得るんだぞ! わかっているのか!?」

「は、はい!」

「二度とこういうことがないように反省してこい。そうだな。瞬を背負っていつものルートを三周だ」

「え」

「「「え」」」

 夕美斗だけでなく、道場にいる老若男女問わず門下生全員が驚く。

 いくらなんでも厳しすぎる罰ではないかと。

 しかしその疑問も次の言葉で周りを納得させた。

「ゆっくりで良いからいってきなさい」

「は、はい……」

 さすがにゆっくりで良いとはいえ、重り付きでのロードワークはキツいので夕美斗はゲンナリとしてしまう。

 だが周りとしては、いつも夕美斗が道場に入り浸ってる為に姉妹の語らいがない。故に話す時間を設けたのだと察する。

 ボーッとしていていつも一人の瞬が、わざわざ夕美斗に会いに来たと思えば、微笑ましく見える。

 であれば、二人の時間を作るのも納得できる。

 門下生達は快く夕美斗を送り出した。



「ぜぇ……ぜぇ……!」

 父や門下生達の思い虚しく。馬鹿正直な夕美斗は瞬を背負ったまま走っていた。

 ゆっくりと言ったのは散歩のつもりでのんびりしてこいという意味だったのだが、夕美斗には伝わらなかったのだ。

 というわけで現在夕美斗。汗だくグロッキー。意識も若干朦朧としている。

「……」

 そんな夕美斗を見て、瞬は――使


 ――空間歪曲による。距離の短縮を

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