第313話

「…………あ…………れ?」

「起きたか」

 今は……大体22時くらいか。いじられまくったのに思いの外早く起きたな。

 俺の時は数日がかりでやってたのにこいつは一時間弱俺より酷いいじられ方してたはずなんだが……。

 やっぱ元に戻すっていうのが効いてるのかもな。俺はマナの通り道を補強するために外も内もいじって元に戻さなかったから手こずってたのかもしれない。

「夕美斗。大丈夫?」

 一足先に起きてたニスニルが夕美斗に歩みより安否を確認。

 自分も味わった地獄の後遺症があるか気になるわなそら。

「あ、あぁ……。少し気だるいような気もするけど……。他には特にないと思う。大丈夫」

「そう。良かった」

 さて、お互いの安否の確認も取れたみたいだし。寝起きで酷だとは思うが、帰る前にやることやっとくか。

「じゃ、早速試運転始めるぞ」

「……え?」

 すっとんきょーな声あげてんじゃねぇよ。なんのためにお前はここにいるんだ。

「で、でもいきなりそんな……」

「もう少し夕美斗を休ませてもらえないかしら? あんなことがあったばかりだし」

「時間ねぇんだからグダグダ言わずに早く同調しろよ」

「「……」」

 ぐうの音も出ないといった感じでとりあえず始めてみる二人。

「とはいってもはどうしたら良いのか……。そもそもあんまり変わった気が――」

 ゾクリ、と。ほんの少しだけ悪寒が走った。

 伊鶴ほどでも、まして学園長レベルとはほど遠いけど。確かに今、悪寒が走った。

 存在の厚みが、重みが、さっきまでと段違い。最早別の生き物。だけれど人間の気配は失ってない。ちゃんと踏みいってる。あの二人と同じところに。

 夕美斗のヤツ。ちゃんと成果出てるじゃねぇか。苦しんだ甲斐があって良かったな。

「気分はどうだ?」

「ふ、不思議な感覚だ……。視野がとてつもなく広がって、違う世界に迷い込んだようだ……」

 俺たちがいた場所とは違う世界だしな。そういうこと言いたいんじゃないんだろうけど。

「それに……集中してないと意識が消えそうだ……。痛くはないし気分も悪いわけじゃないんだが……。なんと言って良いかわからない……」

 他者と現在進行形で混じってるから違和感もあるんだろう。ただ気持ちが悪いって感覚がないから違和感と表現できないだけだろう。

 ま、その辺りはいずれ慣れるだろ。

「ニスニルのほうは? なんかあるか?」

「随分抽象的な質問だけれど。問題ないわ。私が行けるところまで把握して制御してるから夕美斗の方も長く続けなければ大丈夫」

 なるほど。お前が夕美斗の負担をかなり請け負ってるのか。だから初めてでも割りと平気な面してたんだな。普通自我の崩壊に近い感覚があるはずだし。相変わらず過保護なこって。

 それじゃ、あと一個確認したら帰るとするかな。

「夕美斗。ニスニル。今から夕美斗に殴りかかるから俺の動きを探知して避けてみろ」

「え、え!? また急にそんな――」

 できなきゃ話にならねぇだろうが。安心しろよ。ちゃんと加減はするから。……加減するって言ってやんないけど。

「良いから……やれ」

「……っ」

 まず夕美斗までの距離を真っ直ぐ短縮。下手に横の動き入れたら本当に当たっちゃうかもだし。最初ならこんなもんだろ。

 次に俺の拳から夕美斗の顔まで短縮。きさらと同レベルのテクに抑えてやってるが……どうだ?

「ぅ……くぅ……っ!」

 お? 上手く斜めにダックしたんだか。じゃあ次は腹に――。

「……っ」

 きっちり腕でガード。これも対処したか。見辛い角度からのボディだったし、ちょっと速度を落としたとはいえやるじゃんか。さすがに徒手はうめぇな。

 じゃあ最後に上から後頭部に肘。完全に夕美斗からは死角だがニスニルからなら見えてる。それにマナもあえて相当込めてる。ニスニルはマナを感知できるし、夕美斗がニスニルの感覚を借りてるなら――。

「ぅわぁ!?」

 最後は倒れ込みながらで無様だけど……これもちゃんとかわした。

 ふむ。及第点は満たしてるみたいだな。

「な、なんだ今の……」

「なにが?」

 何か驚いてる様子は良いんだが、立ち上がって砂払ってからでも良いんじゃねぇかなって俺は思うぞ。ここの砂サラサラしてて払えばすぐ落ちるんだが、それでもあんまり長いことしゃがんだままってのも良くないぞ。

 そんなことはさておき、結局何を驚いてるんだお前。

「視野が広がっているとは思っていたが……。完全に見えていない角度からのも見えた……。同調したときはニスニルの目で見えたものを見るだけだったけど、今のは私の視点だった。ど、どういうことだ……?」

 あぁ~。マナの感知のほうで見たのを実感してなかったのか。それで驚いてたんだな。

「存在融合? 限界同調? だかでニスニルの感覚そのものを自分の体で使えるようになっただけだ。マナの動きをとらえたんだよ。その感覚に頼れば大概の戦闘では有利になるから慣れとけ。現に今空間歪曲からの空間短縮に対応できたろ?」

「な、なるほど……。たしかにこれなら……」

 夕美斗は同調を解きつつ立ち上がり、自分の手のひらを見つめながら握りしめる。

「……改めてありがとう。ここに連れてきてくれたこと。ネスさんを紹介してくれたこと。それから、あの子と同じ技術でテストしてくれたこと。これで同じ土俵に立てた気がする。あの子と同じ次元ところで戦える」

 ……そうか。土俵か。なるほどな。

 思いがけずだけど、必要な要素をまた一つ埋められたな。しかもこれは帰ってからすぐ準備できる代物。

 ……てか、結構神経使いそうだから今からやらんと気になって眠れん。眠らなくても平気な体だけど、安眠しておくと気分が違うからな。気分が。

「じゃ、帰るぞ」

「あぁ」

「それじゃあ私は自分の世界に戻るわね。二人ともお疲れ様」

「ニスニルもありがとう。お休みなさい」

「じゃあな」

 ニスニルはゲートを開いて自分の世界に戻る。俺もニスニルに続いてゲートを開いて~……おっと。

「夕美斗。先に行け」

「……? わかった」

 不思議そうな顔をしながらも俺の指示に従ってゲートをくぐ――。

「にゃーにゃー!」

「ぐほぅ!?」

 ――ろうとしたらコロナが夕美斗にロケットずつき。みぞおちにクリティカル。

「やっぱりこうなったか。身代わりさんきゅ」

「わ、わかっててやったのか……酷い……」

 そう言うな。伊鶴のバカならきっと喜んで受けてたぞ。だからお前も喜べ。んな?

「んにゃーにゃー!」

「おっと」

 夕美斗を経由したお陰で格段に威力は下がったので楽々キャッチ。

 よし、俺へのダメージなし。

「早く起きろ~。閉じちまうぞ~?」

「ま、待って……。結構良いところに入って動けな……」

 みぞおちだもんな。そらどんなに腹筋鍛えてても痛いだろうよ。

 しかも最近のコロナはどんどんパワフルになってて今の俺でも痛い。

 まぁそれはいきなりバチクソマナ込めやがるからなんだけどな。マジでやめてほしいわ。

「うぐぅ~……」

 それはそれとして、本当に辛そうだし、俺も早く帰りたいしってことで、夕美斗も小脇に抱えていくことに。

 コロナが密着だっこのスペースを取られて不機嫌になったのは言うまでもない。

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