第309話

 伝えたいことを全て伝えきると、日波はゆっくりと目を閉じた。

 限界が来たと判断した装置が麻酔をかけ、脳に電磁波を流し、安楽死させたのだ。

 それからの才は自分でも入れそうな魔法を学べる学校を探した。

 そして、召喚魔法について知る。

 今までは人域魔法についての初歩の初歩しか学べなかったし、外の世界を知らなかったから知る余地もなかった。

 魔法師を目指してる中でも落ちこぼれの恥知らずが行くような学校。

 初めてその存在を知ったとき、才は苦笑した。

 自分にピッタリじゃないかと。

 召喚魔法はマイナーでしかもほとんど専門学科ということもあり、実技はあっても召喚魔法の事前の知識はいらないとされていた。

 だから才は一般の筆記試験だけは確実に突破するように、中学の間は勉学に励んみ、試験当日リリンとの出会いを果たす。


 これらが才の魔法に関して無知な理由。偏屈な理由。友人がいない理由。両親と連絡を取らない理由。諸々の理由。

 全ては、天良寺聡一という歪んだ思考を持つ父親が原因だ。

 もう自分には興味も持たないだろう。結嶺も歪んではいるが大事にされてるし、そのうち妹も自分の事は忘れて魔法師としてのキャリアを積んで聡一の元を離れるだろう。

 漠然とだがそう思っていた。

 いや、正確には今回は聡一から才に対して関わろうとはしていない。

 才自ら、関わろうとしている。

 もう二度と、大切な家族の運命をくだらない男に奪われない為に。



「なぁアレクサンドラ。ちょっと外してくれないか?」

 これから結嶺と話すことは他人にはあまり聞かせたいものじゃない。

 つか、みっともない姿を晒すかもしれないからな。誰とは言わんけど。

「……オーライ。ミーもたった今やりたいことできたしね。じゃ、バ~イ」

 意外にもあっさり出てってくれたな。去り際怖い顔してたけど。

 ま、素直に聞き入れてくれたし良しとしよう。

 では本題。

「結嶺。どうして俺に会いに来た?」

「……」

「何がしたくて来た? 何かを言いたくて来たのか? もう裏事情の方はバレてるんだ。あとはお前の口から目的を聞くだけだぞ」

「……最後に……お顔を見たくて……会いに……来まし……た」

 声が震えてる。

 まったく。なにを我慢してるんだか。

「魔帝……デュアメル様に……は……様々な噂が……あります……。その一つに……独占欲がかなり……強いというの……があります……。婚約してしま……えば……兄様と会うこと……も……できなくなる……程に……強い……らしいのです……。なの……で最後に……お顔をと……」

「それで?」

「ほ、本当……は……お会い……するだ……けで……。言わずに……帰るつもり……でした……。でも……事情をご存じ……なら……。お別れの……挨拶……も……」

「本当に?」

「……え?」

 問う。それがお前の本当にしたいことかって。聞いてやる。

「それがお前のしたいことか? 納得してるのか?」

「……」

 黙って俯く結嶺。

 悪いな。意地の悪いことしてる自覚はあるよ。

 でも、今は聞きたい気分なんだわ。

「お前の気持ちを言えよ。お前は、どうしたいんだよ」

「私……は……」

 葛藤を感じる。あと少しで崩せそうだな。

 それじゃ、後押し。

「前の俺だったら無理だけど。今の俺ならワガママの一つくらい叶えてやれるぞ」

「……」

「結嶺。兄ちゃんに、言ってみろ。お前のワガママ」

「……っ!」

 顔を上げ、俺の目を見つめながらポロポロと涙を流す。

 今思えば、お前の涙初めて見るかも。

 俺の前では笑うか、困るか、怒るかだったもんな。

 怒るのだってこの学園で再会してからくらいだし。

 きっと……我慢してたんだろ? お前もさ。俺みたいに。

 でも、もう良いよ。一個くらいワガママ言ったって。もう良いんだよ。

「私……嫌……です……っ。好きじゃない人と婚約も! 兄様と会えなくなるのも嫌です! 私は! 兄様が大好きです! だから!」

 お、おう……。我慢しなくて良いとは思ってたが別に告白までしろとは言ってねぇぞ?

 ま、まぁ感極まっての勢いってことなんだろうけど。

 あぁ~もう。ビックリし過ぎで逆に冷静になっちまったわ。

「……わかった」

 一度頭を撫で、そのまま引き寄せてやる。

「俺に任せろ。そのくらいなら叶えてやるから」

「……ぅ……うぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああ!」

 結嶺は俺に抱きつきながらせき止めていたモノを溢れさす。

 あぁ……お前……そんなに嫌だったか。

 そうか……そうか……。

 さて、俺の妹を泣かしやがった落とし前……どうつけてくれようかね?

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