第291話

「着きましたよ……――大丈夫ですか?」

「はぁ……はぁ……。ちょ、ちょっと……休ませて……ほしいか……なっ」

 目的地につくと膝から崩れ落ちるゴリラ。

 観察して初めて知ったけど。筋肉の質からして相当に白筋寄りみたいだ。代わりに赤筋──つまり瞬発力パワーはあるが体力スタミナがないってこと。

 つっても歩くだけであそこまで疲弊するのはちょっと偏りすぎな気がするけどな。

「うわ……。本当にフランク・ブルーノだ……」

「事前に聞いてたけど実際目にするとすごい迫力」

「でもなんであいつが一緒にいるんだ?」

「さぁ? 魔帝を目にしてついてきたとかそんなんじゃない?」

 目立つのは仕方ないとしても失礼なこと言ってるヤツいるね?

 そら会う約束はしてたけどもだね。別にここに来たいわけじゃなかったんだよ。話さえできればどこでも良かったっつの。

 ……まぁ。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 話ができる状況じゃなさそうだけどな。

 ジュリアナが歩かせるからゴリラ瀕死になったままなかなか回復しないもんで。俺がただただ居心地の悪い思いをする羽目になってるよ。

 くそう。もっとこいつらの飯おごらせれば良かったわ。

「ふむ。安っぽい匂いとは思ってたが味もイマイチだな。正直惰性以外で口にできんぞ」

「だったらそんなに買い込まなきゃ良かったろうに……」

「うぇ~……」

「ふふっ。まぁまぁそう言わんと。可愛いらしいやないの。不慣れでも一生懸命作りはって」

 ……今から追加つっても買おうとはしないだろうがな。

 今でさえ三十人前の飯を影で運んでるのに食うのに気が進んでないもん。

 これなら後日売店とかでおごらせたほうが断然ジュリアナの懐えぐれたわ。

 金持ちらしいから嫌がらせになるかも微妙だけど。

「それで坊? 待ち人はおるけどあの調子やし。息整うまでどうしはるん?」

「……俺に聞くな」

「じゃあ……」

 カナラは視線だけジュリアナに移す。

 すると待ってましたと言わんばかりに用意していたであろうことを口にし始める。

「せっかくここまで来たんですから参加していかれてはどうでしょう?」

 いやだから連れてきたのお前な?

 しかもこのゴリラがバテるのわかってて歩かせたろ?

 まったく。なんでそうまでして俺を呼びたがるかねぇ~。わからん。

 でもま。ただ待ってるのもアレだし。こうなったら適当に冷やかしてくれるわ。

「もしトラブルになったらお前が責任取れよ?」

「そこは自己責任で。……もし先に仕掛けられたらやり返しても良いですよ?」

「当たり前のこと言ってんな?」

 やられたらやられっぱなしで我慢しろとかモラルの欠如と職務怠慢はびこるクソ教育時代的なこと言われたってガン無視してやるっての。

「じゃ、そのバテゴリラが回復したら呼んでくれ」

「はぁ……はぁ……。ぼ、僕はチンパンジーだよ」

「……嘘だろ?」

 今日一衝撃を受けたぞおい。

「いえ、彼は生物学的にはチンパンジーですよ。しゃべってるのは補声器をつけてるからで――」

「いやゴリラでもチンパンジーでもしゃべってたらなんかカラクリあるのはわかるわ。最近の科学は進んでるな! じゃなくて……。え? チンパンジーなの?」

「はい。どうしてそんなに驚いてるのかわかりませんがチンパンジーですよ」

「いやだって……デカイぞ?」

 180㎝あるんだが? チンパンジーって大体100㎝もないはずだろ? なんならゴリラだとしてもデカくないか? ゴリラはたしか160㎝くらいだった気がするし。

「まぁ遺伝子学で言えばほぼ人間ですし。背が高くなることもあるんじゃないですかね? 現にサンプルがここに」

「……サンプルって言い方は良くないけどね」

「……」

 そう言われたらもうなんも言えないわ。

 つか驚きはしたけど別につっかかる必要のないことだな。うん。

「と、とにかく。ちょっといってくるわ」

「いってらっしゃい」

 でも、動揺が治まるのにもう数秒はほしいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る