第292話

「あれ? 意外。てっきり断るかと思ってたけど。来たんだ」

 A組の訓練場内を歩き始めてすぐに女子生徒に声をかけられた。しかも既知の間柄って感じに。

 あれ? 俺A組に知り合いなんてジュリアナと御伽くらいだと思うんだが……。あと試合で何人かボコしたくらいか。

 俺ってなぜかここ数ヵ月A組か戦績の良いヤツばかりとマッチングされるから一方的に知られてるパターンもあるね。

 あれ? ボコした相手でも一方的に知られてるとしてもどっちもろくでもないね? E組が調子こいてる構図にしかならねぇもん。

 ま、今のところ敵意を感じるわけじゃないしここは素直にいっとくか。

「すみませんがどちら様?」

「お、おい才……それはちょっと」

「……? ロッテの知り合いか?」

「知り合いというか……」

「……そっちのお姉さんの初陣でボコボコにされた相手の観門京ですその節はどうも」

「あ~……」

 いたなぁ~そんなヤツ。

 なんかジュリアナとの試合の後変に敵視してきたヤツだわ。

「すまん。忘れてた」

「人の契約者あんなにしといてよくもまぁ……。別に良いけど」

 ごめん。どんな目に合わせたかも忘れたわ。

 いやだって仕方ないよ。あのときまだまだ人間らしく生きてたからよ? 脳みそもスカスカだったんだよ。

「それで? うちの体験会手伝いに来たの?」

「いや、ジュリアナに騙されて連れてこられた。来たらこうやってA組の連中から歓迎とは程遠い感情を向けられるのわかってたしな。わざわざ睨まれに来るほど俺は別にマゾじゃない」

「いったいジュリはなにをしてるの……」

 俺が知るかよ。本人に聞け。

 こっちだってかしこまられたりこうやって目をつけられたりちょっと困ってるくらいだっつの。

「はぁ……。あんたにヤられて療養して戻ってきたらなんか変わったよあの子。柔らかくなったというかなんというか」

「人を加害者みたく言うな」

 むしろ助けてやったほうだぞー。感謝をしやがれ感謝を。

 つか柔らかくなってるのは良いことじゃね。ため息ついてやんなよ。

「とりあえず手伝う気はないんだ?」

「ないし。でしゃばったらA組のヤツら絶対絡んでくるだろ」

「絶対来るね。あんた呼ぶの推してるのジュリくらいだったもん。提案したとき超浮いてたよあの子」

 ザ・でしょうね。

 そもそも世間から臆病者の恥知らずって言われてる中でも優れた地位クラスに入れたのに底辺の底辺に戦績も戦力も負けたとなれば妬むし恨むだろうよ。

 だから別に俺への敵意もわからなくはないんだよ。

 ただ向けんじゃねぇとは思うけど。

「じゃあまぁただのお客さんってことか」

「そうなるな」

「それもそれでどうかと思うけど」

「仕方ないだろ。ゴリ……チンパンジーが息整うの待ちなんだよ」

「魔帝に対する態度じゃない……」

「俺が無礼なのは元からだ気にするな」

 まだ相手選ぶしマシと思っとけ。

「まぁ私には関係ないし良いけどね。じゃ、楽しめるかわからないけどごゆっくりどうぞ。トラブル回避のために帰そうにもすでにあんたの契約者は行ってるみたいだし」

 あ、本当だ。すでにリリンとロッテとコロナは行っちまってる。

 残ってるのは貞淑な古来の日本人女性のごとく一歩下がって黙って控えてるカナラだけ。

 くそう。薄情者共め。

 と、言いたいところだけど正直コロナを抱えて離れてくれたロッテには感謝する。お陰で俺は少しはゆっくりできそうだからな。

 ただリリン。リリンよ。お前さ……。

「クハハハハ! なんだここは? どこを向いても珍獣だらけじゃないか!」

 お前はダメだ。

 お前顔割れてんだから火種まくんじゃねぇ。

「あ、あれってたしか……E組の……」

「そうだよな。間違いなく」

「は、初めて近くで見たけど……」

「き、綺麗だ……」

「それにはしゃいでて可愛い……」

 と、思ったけど。まったく怒った様子なし。

 A組だろうとリリンの面の良さには敵わないらしい。

 やっぱり美人は得。可愛いは正義っていつの時代でもまかり通るんだな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る