第289話

「やぁジュリ。こうして顔を会わせるのは君が入院していたとき以来だね」

「はい。お久しぶりです」

「久しぶり……というほど時間は空いてない気もするけど……。随分成長したようだね。あざやかな手並みだった」

「ありがとうございます」

 警備員に男たちを預けるとゴリラとジュリアナが親しげに話始めた。

 いや、親しげというかジュリアナが敬意を示してる感じか。

 ……金髪美少女がゴリラにペコペコしてるって中々にシュール。

「ところで、私が来る前にもう合流なされてたのは驚きです。お互い顔を知らないと思ってたので」

「ん? なんのことだい?」

「え」

 うんうん。なんの話それ。誰に向けて言ってんの?

「……あ~。なるほど」

 俺とゴリラの顔を見比べてなんか得心のいった顔。一人で納得しないでほしい。はよ説明はよ。

「はぁ……。やっぱりまだお前は抜けた部分があるな。もう少し脳みそ投影まねた方が良いんじゃないか?」

「なるほど。今の言葉でなんとなしに儂もわかった」

「はぁん。そういうことねぇ。思ったよりもずっとはよぅ来てしもうて残念やわぁ~……」

 え、お前らは察したの? っていうか察せたの?

 リリンやロッテはともかくカナラがわかって俺がわからないの納得いかないんだけど。

「えっとですね……。ミスター・フランク。彼が私の恩人の天良寺才君です。貴方が会いたがっていた人ですよ」

「あぁ! 君がそうだったのか! 道理で只者じゃない雰囲気を纏っていると思っていたんだ」

 世辞かゴリラ……って、あれ? この話の流れからすると……もしや?

「それでこちらがフランク・ブルーノ。世界初にして唯一の――人間以外の魔帝です」

 人間じゃないのは一目瞭然だよ。

 てかマジかよ。ゴリラが魔帝になれることあるのかよ。ビックリだわ。

「天良寺君はご存じないかもしれませんが。彼はその経歴からものすごく有名人で……。他国の政治家よりも余程顔が売られてるはずなんです……よ?」

 つまり知らないほうがどうかしてるって言いたいのかテメェ。

 ごめんかさいね俗世に疎いんもんで!

「はっはっは! いや新鮮だね~。今日は四人も私のことを知らない若者にあったよ!」

 それって俺とさっきの勇者ナンパ男たちのことですね。

 一緒にすんなって言いたいけど反論できねぇよ。事実だから。

「すぅ~……ふぅ~……。うん。今回はアタリだ」

 懐から葉巻を取り出し、人域魔法で火をつけて吸い始める魔帝ゴリラ

 手慣れててダンディな仕草だな。

「改めて、フランク・ブルーノだ。よろしく」

 あいさつと共に手を差し出してくる。

 ここは応じないと失礼だろう。

 例え相手が人間の二十倍は軽く握力があったとしてもな!

 おっと、ついでに俺も小粋なあいさつを返さないとな。

 えっと何て言おうか……。

 あ、とりあえずこれは言わないとだわ。特にこの霊長類ゴリラには絶対言うべき。

「……ここ、禁煙ですよ?」

「えっきしゅんっ! ……ずず」

 ほら、うちの子も煙にやられてるんで消してください。

 てかお前最近よくくしゃみするね? 風邪か?

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