第288話

 人というのは業の深い生き物だ。度しがたい生き物だ。

 時に突拍子もなく。針に糸を通すような、時に称賛すべき発想をする。

 しかしてどんなに素晴らしき発想でも、時と場合によっては無意味にもなるし害にもなる。

「この子たちお前が召喚したんだろ? だったらお前が一言言えば俺たちの相手もしてくれるってことだよな?」

「ついでにお前の彼女もかせよ」

 なお、この人たちの発想が良いものとは言ってない。

 変なとこに気づきやがってよ。もっと別のことに頭回せってんだよ。

「素直に言うとおりにしたほうが良いぞ? なんつってもお前ら召喚魔法師なんかと違って俺って人域魔法使えんだからよ」

 そう言って勇者ナンパ男の一人が手のひらから火の玉を作った。

 ……ただ、今さらそんな油に浸した野球ボールに火をつけたような代物を見せられてもですね。

 こちとら毎日のように爆撃されてたんですよ~。伊鶴っていうバカに。あとミケって筋肉ダルマも遠慮なしに放火してきやがるんですわ~。

 だからなんていうかそんなんで自慢げにされても……。いっそ微笑ましい。

「ほら。俺たちが優しくしてる間にさっさとやることやったほうがいんじゃねぇの?」

「あ、もしかしてビビって声が出ないとか?」

「さっすが召喚魔法師臆病者だわ」

 言いたい放題だね。気にしないけど。

 それよりもうちのヤツらが絡まれてめんどくさそうなのがなぁ~……。

 リリンなんて耳ほじってるし。耳垢できないくせに。

 あ、一人だけ暇そうにしてないわ。カナラだけは今にもぶちギレて虐殺を始めそう。

 だが安心すると良い。俺が腕を組んだまま脇締めてるお陰でカナラの手がお前らの首に伸びることはないぞ。

 ……でも長くは持たないから早くどっか行ってほしいな? お巡りさん案件になる前にさ。

「おら、早くしろよ。こちとら人域魔法師様だ――」

「ほう? この国ではただの子供騙しが出来るだけの手品が使えるだけで魔法師扱いされるのかね?」

「あ? 誰だ今……の……」

 振り返った男は絶句した。ついでに俺も驚きのあまり目を見開いた。

 だって急に、が現れたのだから。

「若者たちよ。不勉強のようだから講義してやろう」

「「「……」」」

 あら偉い。黙って聞くんだな。

 十中八九呆然としてるだけだろうけども。傍観者ギャラリー同様ね。

「第一に、人域魔法は特定の条件と魔帝例外を除いて公の場で使うことは禁じられている。使用した場合はどんなに小さい規模でも銃刀法違反になるね。学園内では使っても良いのだがそれは学園に所属する者に限る。君たちは対象外だ」

 ゴリラがめっちゃ正論述べてて笑いそう。人間のままだったら無表情ポーカーフェイス維持できてなかったわこれ。

「第二に正式な人域魔法師は国に管理されている。まして君たちの年齢ならばどこかしらの訓練施設や隊に所属しているはず。で、正式な人域魔法師は先の法律ルールも含めたあらゆることを叩き込まれるから違反するとは考えにくい」

 いかん……笑いが……漏れそう……。

 良い場面なのに……若者を正そうとしてる大人って良い場面なのに……。

 教え説こうとしてるのがゴリラってだけでシュールが過ぎる……っ。

「……クックック」

 横を見たらリリンは我慢できずにちょっと漏らしてる。

 てかお前我慢する気そんなないだろ。ふざけた演技力持ってるんだからそれを駆使して空気読んで耐えやがれ。

「となると第三だ。君たちは人域魔法師ではない。これは経歴詐称に該当する。君たちは今二つの罪を犯しているのだよ」

「「「……っ」」」

 犯罪者だよと言われてさすがに顔が青ざめたな。俺は赤くなりそうだから羨ましいわ。

 にしても学のあるゴリラだな。動物園が禁止される前の時代なら客寄せパンダだったろうに。霊長類だけど。

「う、うるせぇ! どこの施設から逃げ出したか知らねぇが。猿が調子こいてんじゃねぇ!」

「……!」

 ゴリラじゃないのか!? だってデカいぞ!?

 と、驚いてる場合じゃないか。勇者ナンパ男の一人が襲いかかろうとして他も続いてる。

 あれはさすがに止めないとダメだな。

 じゃないと殺されかねない。

 俺の近くでの事件はごめん被るっての。

「やれやれ……。ちょっと正論突きつけられただけでキレるのは今も昔も大昔も変わらないね。時代は移り変わるというのに……」

 ゴリラが隠していたマナを垂れ流し始めた。

 薄々は気づいてたけどアレクサンドラ並だ。

 もしあの人と同レベルの打撃だったら俺も加減してたら止められないんだが……ん?

「――カーレン」

「どわ!?」

「なんだ!?」

 突如ゲートが男たちの周りに出現。さらに向こう側から蔓が現れて男たちを囲い捕縛。

 これができるヤツといったら。

「はぁ……。学園内で問題を起こしたら武力行使されると注意されたはずなのに……。学園内ここは治外法権なので多少荒っぽいやり方でも正当防衛として成立してしまうんですよ?」

 人だかりから優雅に歩いてきた女が一人。

 やっぱりお前だったかジュリアナさんよ。

 まるで計ったようなタイミングだったけど言い訳はあるんだろうか?

 俺はとっても気になるよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る