第287話

 最近は時の流れが早く感じるなぁ~。だって――。


『ようこそ当校へ。本日より五日間はどなたでもお好きに学園敷地内を見学できます。これを機に召喚魔法へ触れ、ご理解が深まれば幸いにございます』


 ちょっと前まで月始めかと思ったらもう気づけば公開週間月末ですよ。

 今日に至るまで特にこれといって取り上げる事柄もなかったし、早く過ぎるように感じるのは仕方ないのかなとも思う。

 さて、と。学園公開週間の間は授業もないし、俺は他のヤツらと違って出し物に関与する気は毛頭ないから実質休みみたいなもの。

 つまり部屋に引きこもるなり自主トレするなりしてて良い。

 実際初日と二日目はそうして過ごしたしな。だから今日も適当に過ごして良い。

 ……良いんだけど。

「クハハハ! なんだこの大昔のアニメにありそうな屋台の数々は? 安っぽい匂いがやけに鼻につくぞ」

「あんな急増の設備で子供が作ってるのだから仕方ないだろう? 今の時代料理は趣味だしな。こういった形でやれば拙いのは必然だろうよ」

「にゃーにゃー……」

「はら? ころちゃんさっきご飯食べたばかりなのにお腹空きはったみたいねぇ。ふふ。育ち盛りやもんねぇ~♪」

 なぜか俺は学園内をリリン、ロッテ、コロナ、カナラと共にブラついてる。

 理由は今日待ち人が来るらしいからそれまでの暇潰し。

 部屋で待ってても良いっちゃ良いけど、せっかくの学園公開イベントだし。コロナに少しでも刺激を与えるという意味も込めて来たわけだ。

 が、これは過ちだったと言わざるを得ない。

 なぜかって? 予想できることを失念していたからだよ。

「うわぁ~……なにあの娘たち……。すごい綺麗な人が四人も……」

「あそこまで綺麗だともう嫉妬もできないわ……」

「ちょ、ちょっと話しかけてみないか? 横にいる男冴えないしわんちゃん……」

「バカ。冴えなくても関係ないだろ。ここは召喚魔法師の学校だぞ? 制服着てるし。つまりそういうことだろ」

「最初から脈なしってこと……かぁ~」

 はい例のごとく注目を集めてるよ。

 皆さ~ん。我々見世物じゃないんですよ~。頑張って目立とうとしてる人たちの立場も考えてくださぁ~い。

「いや、ちょっと待った。一人制服だぞ!?」

「ってことは……?」

 おっと。いらぬことに気づいた輩がいるな。

 ……うむ。これはいかん。

 未成年学生(じゃないけど)をナンパするだけでも社会的にイケナイことだが、それ以上に大体の確率でなもんで。加えて近くの人間をさげようとする習性がある。

 ってことはだよ? 近くにいる俺を蔑むわけですよ。こともあろうに

 そうなったら大変ですよ。下手したらあの人ら殺されちゃうよ。比喩じゃなく。

 カナラも一応自制してくれるだろうが……。ここ一週間接触を禁じてたからフラストレーション溜まってるだろうし……。心配だ……。

 これは先に手を打っといた方が良いかもしれないな。

「カナラ」

「ん? なぁに? ころちゃんのご飯、うてくる?」

 呼んだだけなのにまずおつかいして来ようかってなるあたり本当お前ってヤツは……。

 そこまで都合が良いなら俺がバカにされても笑って流せるようになってくれると嬉しいな。いちいち止めたりするの面倒だからよっ。

「いや、おつかいは良い。一緒に回るし後で買えば良いだろ」

「そ、そうね……一緒に……えへへ♪」

 大体いつも一緒じゃねぇか。なんでそこで喜べる? お前の幸せに対する感度良すぎるだろ。

 はぁ……。そういう顔されるとこれから口にすることちょっと躊躇しちゃうだろうがよ……。

 まぁ、言うんですけど。

「……はっ。えっとぉ~……それじゃあどんなご用?」

「腕、組んで良いぞ」

「はへ?」

 突然の申し出に間抜け声をさらした挙げ句間抜け面になってしまった。

 おいおい。思考停止してる暇ないぞ。お前が止まってる間にも勇者ナンパ男たちが近づいてんだから。

「チャンスは三秒以内。すぐ決めろ~。さーん――」

「あ、う、ひゃ、ひゃひ!」

 奇声を上げつつも躊躇しつつもカウント1で抱きつくあたりさすがですねー。

 さて、カナラの行動を見て勇者たちはっと……。

「は、はは……あれマジかよ……」

「美少女契約者もいるのに美少女彼女まで……。あんな冴えない見た目なのに……!」

 悪かったね。冴えない見た目で。

 でもね? リリンの影響でこれでもちょっとイケメン寄りになったんだぜ? 生来の陰気雰囲気のせいで悪い印象抱かれてるだけなんだよ。たぶん。

「……」

 にしてもやっぱり不思議だ。

 俺はカナラを女として意識してたし、正直一番性的な目で見ていた。

 それなのに、カナラが抱きついてるのに、

 これ、俺が枯れてるとかいう次元じゃない気がする。

 異常。

 またなにか俺の体に。俺の存在そのものに。なんかあったのか、はたまたこれからなにか起こるのかもしれないな。

「にゃーにゃー! にゃーにゃー!」

「……わかったからそこに抱きつくな」

 とりあえず今は保留しとくとして、まずはコロナを引き剥がそう。

 さすがに公衆の面前でケツに抱きつかれるのは抵抗があるもんでね!

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