第285話

「は?」

 久しぶりにちゃんと午後の授業を受けた帰り。俺はとある女に呼び止められていた。

 そして半ば無理矢理話を聞かされて今に至るわけなんだけど……。

「ダメですか?」

「いやダメだろ。なんでエリートのA組の手助けに召喚魔法師落ちこぼれのさらに底辺E組入学成績最下位が行かなきゃいけないのか。絶対トラブル起こるだろ」

 簡略化すると。魔法が使えないヤツに魔法に触れさせたり。魔法が使えても才能のない子供に召喚魔法に興味持ってもらおうってことだろ?

 ありがちだが悪くないとは思う。俺にその手助けをさせようとしなきゃな。

 そら俺は召喚魔法師志望ながらも人域魔法は使えるし、実戦演習の成績もたぶん上位。これだけを見ればたしかに適切な人選だろうな。

 俺がE組ってことを除けばだけど。

 劣等感コンプレックスとプライドを兼ね備えた召喚魔法師の中では優秀なヤツらの中に大いに悪い刺激を与える俺を放り込むとか正気の沙汰じゃねぇ。絶対いじめが起きますよー。予想できるでしょー。できないんですかー?

 まったく。イカれた提案してきやがって。やっぱりまだ頭の具合がよろしくないんじゃないですかね?

 ――ジュリアナ・フローラさんよ。

「お戯れも大概にしてくれよ頼むから……」

「私は至って真面目なんですが……」

 でしょうね。んで、なお悪いわ。

 お前が嘘偽りない言葉を発してるのはわかってるし。本気で頼んでるのはわかってるけど。

だからこそ思わざるを得ない。お前、まだ治療リハビリ必要ってな。

 はよ病院行ってこい。タクシーくらいは呼んでやるから。

「どうしてもダメですか?」

「ダメだな」

「そうですか……。それなら仕方ありませんね。残念ですけど……」

 本当に残念そうな面だな。罪悪感でも誘ってんのか?

 あいにくとその手の感情は感じにくいもんでね。特にお前みたいに繋がりのない生き物には……な。

「ではせめてお暇がありましたら立ち寄ってください」

「あのなぁ~……」

 俺がA組に行くのが問題って話をしてんだよなぁ~。

 そら手伝いか冷やかしなら後者のが訪れる頻度は当然ながら少ないけども。そういうことでもない。

 俺が行くっていうそのものがダメなんだよなぁ~!

「なんでわざわざ反感を買いに行かなきゃいけないわけ……。あ、実はわかってて誘ってんの? 俺をいじめたいがために……」

「……! 違います! 私はただ……」

「わかってる。冗談だよ」

「むぅ……。意地悪です……」

 口を尖らせるな。あざといだけだぞ。

「お前にそういった意図がないのはわかってる。けど、他に理由がわからないのも事実。お前なにがしたいの?」

「それはもちろん貴方が来てくれるだけでA組に良い刺激が――」

「つまり敵に塩を送れって言いたいわけね」

「……!」

 俺たちは別にクラス対抗で点数稼ぎをしてるわけじゃないし、なんなら個人で競ってる間柄。クラス別じゃなく生徒別でのライバル関係。

 とはいえ同じクラスだから訓練を共にすることが多く。切磋琢磨的なことが起きて仲間意識も芽生える。E組然りな。

 となると必然的に他のクラスをライバル視することになるわけだ。

 俺が全体的に嫌われていて、特にA組には敵対視されてるってのを差し引いても、ジュリアナの提案は非常識ってことになる。

 俺自身は特に敵視とかしてないんだけどな。そもそも眼中にないし。あくまで俺以外のヤツらの気持ちの問題。

 まぁ仮に? そういうのがなくても普通に面倒だから断るんですけどね~。

「ごめんなさい……。私……」

 頭も育ちも良さそうだし、こういったことにも気が回りそうなんだけど。やっぱ頭のネジまだ何本か飛んでるからそこに考えが至らなかったんじゃないかな~?

 でもやっと気づいてくれたご様子だし良しとしよう。

「じゃ、話は終わりだな。俺はこれで――」

「あ、いえ。実はもう一つ」

 えぇ~……。まだあんの? 俺早く帰りたいんだけど。

 今コロナは俺離れの練習としてカナラに任せて先に帰らせてるけど。遅くなったらなったで癇癪起こしそうだし。手短に願いたい。

「貴方も興味の持ちそうな話があるんです」

「へー」

 おっと。つい話を聞く前に興味のない声が漏れてしまった。順番を間違えちまったわ。まずは聞いてから聞いてから。

「学園公開の時期に私の知り合いが日本こちらに来るらしいので、紹介しようと思いまして」

「へー」

 うん。これは正しい反応だろう。

 だって俺別にお前の知り合いに興味な――。

「半ば隠居しておられる方ですが、今でもを冠しているので。天良寺くんも少しは関心があるのでは?」

「……!」

 前言撤回。そりゃ俺もさすがに興味あるわ。

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