第275話

「お~じゃまぁ~!」

 わかってんじゃねぇか。なら帰れ。と、言えたらどんなに幸せだろうか。

 悲しいかな今の俺にはできない。

 故に、今俺の部屋には招かれざる客がチラホラと。

 はぁ……。とうとう契約者でも身内でもないヤツらに侵されてしまった……。最後の砦だったのに。

「へ~意外と綺麗にされてんね」

 ロッテが掃除してるからな。最近はカナラもやってくれてる。汚くなる要素がないね。

 ちなみにロッテが来てから俺は家事全般ほぼやってません。

……や、やろうとはしですよ? ただやろうとした頃には終わってるだけで。

「綺麗だが食べ物がやたら多いような……?」

 食い物に関しては八割リリンのだよ。二割はコロナ。

 あ、ちなみに冷蔵庫の中身もほぼリリンのだから。目に見えないところまで抜かりありません。

「それにすごい香りですね。色々な匂いが混ざってると言いますか……。変な気分になりそうです。あ、臭いという意味ではなく。とても良い香りですよ。なにか焚いてるんですか?」

 恐らく女共の体臭だろ。

 リリンはほぼ無臭だったんだが俺の侵食の影響なのか単に雌として俺を誘ってんのか知らないけど少しだけ匂いは強くなってる。

 普通の人間ならあんまりわからない程度だとは思うけどな。

 ロッテも獣臭いかと思いきやあんまり匂いはしない。

 野生だと臭いがないほうが潜みやすいからだとか。便利な肉体だこって。

 で、ここからがたぶん元凶。

 コロナはこの中じゃ二番目に体臭が強い。

 もちろん臭いわけじゃないんだが、ミルキーな鼻の奥にまとわりついてくる匂いをしてる。

 カスタード系の菓子が好物だからなのかな? 食ったもんそのまま体に影響出てて笑う。

 そして一番匂いが強いのがこの女。カナラだよ。

 言わずもがなこの女めっちゃ濃い桃の香りがする。

 しかも酒も良く飲むもんだからまぁネットリとした匂いをしておられるよ。

 ミルキーなコロナの香りと艶やかかつネットリとしたカナラの匂いが混じってるんだもん。そらぁ脳みその奥に媚びるような匂いがするだろうよ。

「ヒュー……! ヒュー……!」

 現に、動機息切れを起こしてる男もいるしな……。

 俺は嗅覚をある程度遮断してるから普通にできてるけど。そんな器用なことができないお前は辛いだろう。

 だがしかし。部屋に入ったのはお前だミケ。自業自得ってやつだよ。

「な、なんて空間だ……! 普段から魅力的な女性レディが恐らく四人に才一人で過ごしてるのか!? 絶対何か起きてるだろう! むしろこれでなにもなかったら僕は才の不能を疑うぞ……っ」

 おいこらテメェ。それは俺をディスってんのか。

 起きてないとは言わないけどコロナは一応頭ん中子供だぞ。下手なことできるかボケ。

 ちょっとでも同情した俺がバカだった。

 女共は同性だから良い香り止まりだろうが、お前は体の一部が反応して大変なことになってることだろう。

 この部屋にいる間も、なんなら帰ってからも治まらないナニに悩まされると良いわ。

 つか、その状態を女子にバレるってだけでも男としてはかな~りクるだろうけどな。

 せいぜいバレないように気を付けろよジェントルメン。

「はぁ……。呼ぶのは構わんのだがな……。おつかいの邪魔をしたらいかんだろう? バレないように気を付けると言っていたくせに……」

「……申し訳ございません。申し開きのしようもありません。全ては私の不徳の致す限りでございまして……」

 おっと? なんかあっちはあっちで珍しくカナラが怒られてる。

 まぁ当初の目的忘れて俺とコロナ連れだって試合見に行ってたら当然っちゃ当然だわな。

「第一何故バレたんだ? お主なら気配を絶つなど容易かろうに」

「……」

 あ~……。それはそうなんだけどなロッテよ。そいつ。普段は割りと抜けてんだよ。俺が関わると余計にな。

 だから本人が真剣に隠れてるつもりでも、周りから見ればふざけてんじゃないかってこともあるんだ。

 だから広い心で許してやってくれ。

 そいつをとっちめるのは俺の役目だから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る