1年生 10月

第252話

バトルパート


     リリン

      VS

    二体の黒きモノ



「……!」

 リリンと相対する二体の黒きモノの内、一体はリリンの殺気マナに当てられ影を展開する。

「ほう」

 目の端から端まで、数百m単位で広がり襲い来る影の大波に感心を示す。が、未だ驚異には至らず。

「付き合ってやろう」

「……!」

 リリンは黒きモノの広げた影の倍の影を展開。更なる大波で押し潰すつもりだ。

 影同士で競り合う際。その力関係は範囲ではなく、密度で決められる。どんなに海が広くとも、鉄を浮かせられぬように。

 ……今回の場合は密度どころか範囲も及ばないのだが。

「……!?」

「クハハハハハハ! さぁどうする!? まさかこのまま終わらんよなぁ!? なぁ!」

 光を通さぬ二つの影は一体となり、二方向に進んでいたベクトルが力ずくで一方向に寄せられる。

 黒きモノの影はリリンの影に完全に呑み込まれた。

「…………――」

 沈黙。為す術もなくまずは一体目――。

(な~んて容易いわけないよなぁ!?)

 影に呑み込む寸前。リリンは弾かれるのを感じていた。

 黒きモノはマナを自分を中心に外側へ放出し、難を逃れた。

「……っ!」

 すかさずマナを放出しながらリリンへかを伸ばす。影の波を突き進み一直線にリリンを穿ちに来る。

「フン」


 ――パァン!


 眼前に迫るをリリンは片手で弾き散らした。

 音を置き去りにする速度の手刀で払われたのは青色の体液とピンクと青みがかった白色の肉。

(ん? 服と肌が少し溶けた。酸か? それに粘着質な液体も混ざってるな。肉質はかなり柔らかく表面は粘膜。舌か?)

「!?」

 リリンの分析の最中、黒きモノは痛みに悶える。痛覚は残っているらしい。

(フム。念の為姿は確認しとくか。すぐに治るとはいえ、我の肌を焼く液体もそうないしな)

 リリンは黒きモノの姿を確認するべく。広範囲に展開していた影を戻す。

 黒きモノはリリンの影を弾き飛ばしたまま自らの体に影を纏わせておらず、その姿を晒していた。

(フム。また隠れていたらひっぺがしてやろうと思ってたんだがな。手間が省けた)

 影の下から出てきたのは四対八足のカメレオン。だが爬虫類特有の鱗はなく、まるで剥き身にされたかのように筋肉の形がよくわかる表面。

 それからリリンの予想は正しく、先程弾いたのはやはり舌だったようだ。今その先端を前足で丸めている。

(奇怪な行動を……ん?)

 丸めていた舌は急速に傷口を塞いでいく。断面が内側に向かっていく様は奇妙と言う他ない。

(もっと普通に治癒出来んのか貴様は……面白いなぁ~)

 今のところ大した魅力のない黒きモノ改め八足カメレオン。治癒の様子はリリンのお気に召したようだ。

「……? ……。……っ!」

 治ったのを確認すると影を纏いながら再び舌を伸ばしてくる。

(愚かこの上なし。さっきぶっ飛ばしてやったろうに)

「……!?」

 先程とまったく同じ事を再現。襲いかかる八足カメレオンの舌を叩き散らす。

「ん?」

 舌の断面から影が伸び、撒き散らされた肉片と繋がる。そして肉片ごと影でリリンを包み込んだ。

(なるほど。酸の正体は肉……いや血液か。目敏くも我が溶かされてるのを確認していたか。それでこんな手に。小賢しい)

 リリンはマナを放出し、影から脱出。

「んみぃ~……っと」

 影は弾けたが、粘着質のある唾液の所為で肉片はくっついたまま。

 リリンは溶ける指先を無視し、骨を剥き出しにしながらも引き剥がしていく。

 皮膚も持ってかれて頬など剥がれてしまったが、肉には被害が及んでいない。たとえ及んでいたとしてもすぐに治るから特に問題もない。

「知性を感じないと思ったが、中々どうして考えるじゃないか珍獣。クハッ。今のはほんの少しだけ我が誉めるに値するぞ」

 リリンは溶けた頬のまま口角を上げる。少々ホラーだが数秒後には完治する。やはりマナでの攻撃でなければダメージを与えられない。

 黒きモノは知性は低くともどの世界でも化物。怪物。捕食者となりえる。この八足カメレオンも黒きモノとしての日は浅いが十二分にそれに足る力を持つ。

 だが、相手が悪かった。悪過ぎた。

 黒きモノの前にいるのは知性を残しつつ力を得た正真正銘の世界のはぐれ者。やろうと思えばいつでもどの世界でも滅ぼせる界滅者ワールドエンド

 たとえ他の世界では頂点に立つ器であっても。格が違う。

「それで? 次はどうする? 影で駄目。策を労しても駄目。だったら?」

「……!」

 リリンは影で身を包み空気抵抗をなくしてから数十m離れた八足カメレオンの所まで一歩で着く。

 目の前で見ると八足カメレオンは尾込みで体長30mと大きく。リリンと比べて遥かに大きい。

 しかし、ギョロリと覗くその目にはリリンは小さく映っていない。

 いや、物理的には小さい。小さいが、密度が違う。存在の濃さが違う。

 まるで恒星を無理矢理このサイズにまで縮めたような強大さ。歪さに戦慄を覚える。

 日が浅い故に残された知性は悟った。自分は触れてはならぬ天敵のところまでわざわざ足を運んでしまったと。

「ん~? 怯えているのか? それは残念だなぁ~。喧嘩を売りに来といて尻込みとは」

 仕方ないとばかりにリリンは影を閉じ、両手を広げ、嘲るような笑みを向ける。

「そら。かかってこい。影を使わずにいてやろう。使うのはこの肉体と多少のマナだ。それなら臆病者チキンでもやる気が出るだろう? この対格差からして、筋力だけならば貴様のが上だろうしなぁ~? ん?」

 言葉は通じない。だが言っている事は何となくわかるわかってしまう。

 自分は馬鹿にされてるとわかってしまう。

 しかしそこに怒りは芽生えず。しかしそこにプライドりはなく。あるとすれば覚悟だろうか。命を捨て去る覚悟だろうか。

 八足カメレオンは後ろ二足と尻尾でバランスを取りながら体を起こす。

「……!!!」

「クハッ♪」

 声帯は未発達。だから鳴き声などはない。しかし放出されるマナが語る。身を包む影が語る。最早助からないだろうが助かる道にかけて抗おうという覚悟を決めたと。

 だからリリンは笑う。自分から殺されに来た下等生物のを本来する必要のなかった覚悟を嗤う。

(大人しく故郷の生態系の頂点で満足しておけば良かったものを。異界に良質な餌を求めるからそうなるんだよ愚か者)

「……!!!!!!」

 八足カメレオンは六つの足でリリンに殴りかかる。

「温い」

 それぞれが別の角度から伸びながら襲うも全て手刀で薙ぎ払われる。

 影を纏おうともマナの質も量も桁三つは上のリリンには無意味。多少の乱気流なぞ一撃の突風でかき消される。

「……っ!」

「ほう!」

 今回は痛みに悶える事もなく。影ごと吹き飛ばされた足を即座に再生。

 しかも一つの傷口から三本映えた。6×3本の足。今度は計十八となった足がリリンに襲いかかる。

「しかして物足りぬ」

 手数が三倍になったところで無駄。カメレオンの足はただの肉の屑に成り果てる。

 ならばとさらに三倍。十八になった足は五十四本に。

「足らん」

 ならば三倍。百六十二本。

「足らん」

 ならば三倍。四百八十六本。

「足らん」

 ならば三倍。千四百五十八本。

「足らん」

 ならば三倍。ならば……ならば……ならば……。

「はぁ~……」

 そう続けて三十五万四千二百九四本になった時。リリンは落胆してしまった。

(どこまで増えるかと楽しくなって来たのに。あの野郎……)

「……っ」

(途中から距離を取り始め、挙げ句自切して逃げやがった……!)

 視界を塞ぐ肉の山を影で呑み込み、ハンバーグの種一つ分まで圧縮。リリンはカメレオンを探す。

(ん? 視界に映らないな。保護色か)

 カメレオンは体表面の色を変えて景色に溶け込むというのは有名な話。この八足カメレオンも例外に漏れない。それどころか既知の生態よりも遥かに凌駕した擬態を行っている。

(視界どころか気配も辿れん。我のマナに対する感度は相当という自負があるんだが、まったくわからん。それに皮膚がほぼなかったのに保護色が出来るというのがそもそもとして不可解極まりない)

 リリンの感知をかいくぐる八足カメレオン。追ってこないのを大きなギョロ目で確認し、安堵する。

 このまま一度離れてやり過ごし、リリンが手を出せない場所から脱出を試み――。

「ま、すぐに見つかるんだがな」

「……っ」

 リリンは左手の中で影を圧縮。そして八足カメレオンの方へ放ち、尻から頭までを消し飛ばす。

 脳を壊された八足カメレオンはもう再生できない。

(気配が無さすぎる。そこにだけポッカリと何もない空間が出来たかのようにな。恐らくはマナを使って空間を歪曲。光を屈折させて我の目をかいくぐり、歪曲の度合いを上げて感知を謀ったのだろう。だが誤魔化しが過ぎたな。焦らずにもっと上手くやれば我から逃れられたかもしれないのに)

「ま、下等生物オードブルにしては良くやったと言ってやろう。我に傷をつけ、一瞬とはいえ我を謀った。うん。称賛に値する。誇りを抱いて死ね。では前菜も終わったした事だし――」

「……――」

本番メインディッシュといこうか!」

 背後に近づいてた二体目の黒きモノ。直径6m程の球体。先程と比べたら小さいがマナの質はずっと上。故にリリンは先程殺した一体目を前菜と言ったのだ。

 静観を保っていたが、今のリリンの影と圧縮により感じた超高密度のマナに反応し襲ってきたというわけだ。

 つまりはこれならば喰うに値すると認めたのである。

(我がマナの密度を無理矢理上げるまで品定め決め込むとは良い度胸とは思うが……)

「貴様の素っ裸にする事で帳消しにしてやろう!」

 リリンは黒きモノに向かって拳打を見舞う。

 影を纏った状態へのただの拳打ならば通じはしないが、当然ながらマナで影を弾き飛ばすつもりだ。

 影をマナで飛ばし、腕力で中身を穿つ。単純にして正攻法。黒きモノへの対応としては正しい。正しいのだが。


 ――それは先程レベルの相手黒きモノならの話。


「……む」

(弾けん。いや、弾きはした。が、分厚い。そして、濃い。中まで届かん)

 リリンのマナを帯びた拳は確かに黒きモノの影を吹き飛ばした。しかし飛ばせたのは表面だけで本体には届いてない。

「……――」

「……!」

 黒きモノは影を伸ばしリリンの打ち込んだ左腕を呑み込む。指先から押し潰し、すり潰し、腕から完全に離れた肉と骨は中心へと運ばれていく。

「チッ」

 リリンは肩から少し先の部分を右手の手刀で斬り外す。

 マナで弾く事も出来ただろうが先程の事が頭をよぎり安全を期して切断する方を選んだ。

(これで良いだろ。斬ったところでまた治――ん?)

 リリンは治癒を試みるが、一向に治らない。不思議に思い傷を確認してみる。

(断面部分の細胞にナニかついてる。我の細胞を壊して食っているな)

 恐らく斬り離した時にナニかを付着していたのだろう。リリンはまだ侵されていない肩から先部分を斬り離す。

「……――」

 斬り離した腕を黒きモノは回収する。余程美味いのか影の表面が少し揺らぐ。

「……確かに貴様も捕食者ではありそうだな」

 先程のカメレオンとは一線を画す事はわかっていたか、まさか初っぱなで腕をもがれるとは思わなかった。

(やれやれ……。力は戻っても変に油断する癖は抜けんな……。ここ最近は特に足元を掬われている気がする。数十年前の血族とり合ってた時はそうでもなかったんだがなぁ~)

 リリンは自嘲気味に肩を竦める。といっても右肩だけだが。

 斬り離した時、念の為にマナを込めていたので傷の治りが遅い。なので左腕は回復していない。

 これからの戦いは片腕なしでやらなくてはならない。

(ま、特に支障はなさそうだがな。だがこれから先を考えればマナへのダメージの適応考えなくてはな。考えるとしても、こいつを殺してからになるがな)

 リリンは止血だけ細胞に命じ、あとは放置。戦いに専念する。

「……――」

 食事を終えた様子の黒きモノ。影をゆったり伸ばしていて、まるでリリンをどう捕まえようか思案しているよう。

「……フム」

 リリンは待ちの姿勢でも良いと思っているが、ここはあえて攻勢に出る。

(弾いてわかったが、本体を覆ってる部分は幾層にも重なりしかも不規則ではあるが影の圧縮が行われている。何重になってるかはわからなかったが、伸ばしてきた影からするに通常では我のが上。小細工で一時的に我を上回ったに過ぎん。だったらこちらも小細工を弄すれば良かろうよ)

 右手の中に影を集中し、圧縮。マナで弾けぬならマナの密度と影の威力で穿つ。

「……――」

 案の定リリンの影は黒きモノの影を貫き、本体をも撃ち抜いた。

 が、リリンは未だに戦闘体勢を解かない。影から伝わる感覚がリリンに戦闘の終わりを許さない。

(何だこれは? 手応えがないぞ。まるで液体を撃ち抜いたような抵抗の緩さだ。液体……? しかし生物……。影で覆い中を守っているようなあれは何かに似て――……っ。まさかあの影はそういう事なのか!?)

 リリンは早々に決着をつける為、影を戻し黒きモノに接近する。

(もし我の予想が正しければ放置出来ん。アレが羽化かえるのは興味があるが、あの状態で我の腕をもぎおったのだ。億が一我より強くなる可能性は捨てきれまい)

 仮に自分より強くなるとしてもそれ自体は構わない。弱肉強食は世の常だからだ。生存競争に負ける方が悪い。

 むしろ自分を超える生物は歓迎しよう。自分の全力を受け止められる生物ならば喜んで殺されよう。リリンにとって自分より強い者に殺されるのは最高の死に様だから。

 ただ、今のリリンには楽しみがある。確実に自分を超えるとわかっている者が近くにいる。今は無理でも、目の前の化物より絶対的に強くなる存在がいる。

(我の腕が食われ、その肉が持つ情報。繋がりから才の存在を割り出されたら堪ったものではない。あいつは確実に我より強くなる存在。しかも伸び代が測れん程にヤツは戯けた男。貴様如きが喰らうには上等過ぎる!)

 故に殺す。確実に滅ぼす。万が一強くなるかもしれないとしても。億が一自分を超えるかもしれないとしても、だ。

 分の悪い賭けに応じるくらいなら確実に自分より弱い今この世から消す。

 だから、リリンは少しだけ加減を忘れる。

「いずれあいつを食うのはこの我だ! 今のところ性的な意味でだがな! クハ!」

 この宣言を才が聞いていたらぶん殴られていただろうが、残念ながらこの場にはいない。

 いや、人間をやめた才ならば今のリリンに近づきたいとは思わないだろう。

 マナを垂れ流すリリンに近づきたいと思う生物はまともではないから。

「……――」

 そして、今相対している生物はまともじゃない。

 どころか今のリリンをご馳走としか思っていない黒きモノは嬉々としてリリンを迎え撃つつもりだ。

「……――!」

 黒きモノの影が、球体の一部が形を崩す。

 ブクブクと膨れ上がり、中から何かが生えてきた。

 出てきたのは……腕。球体に合わせてサイズそのものは大きいが、相対的に見れば細く。白く美しい肌の腕。

 今しがた食した、リリンの左腕だ。

(我の肉の情報を複製し、細胞レベルで再現したか。やはり才の情報も得ていると考えて良いな。これで完全に逃がすという選択肢は消えた。最初から省いてるがな)

 狼狽える必要皆無。液体が腕を生やそうが。それが自分の腕だろうが関係ない。

「肉体の強さが如何程あろうがどうでも良いだろう? マナで上回って見せろよ下等生物」

 リリンは影を展開。範囲は先の戦いで見せた大波と同等。

 違うのは《その全てが圧縮された影》という事のみ。

 その唯一の差異がどれ程の影響を与えよう。

 正直、地形への被害はほとんど変わらない。リリンが力のベクトルを黒きモノに集中させるつもりだから。

 だが、仮に。その力のベクトルが周囲に向けられた場合。ただの影の数倍の速度で侵し壊す事は約束しよう。

「……――!」

 リリンの影は黒きモノを呑み込んだ。が、リリンは緩めない。呑み込むに留まらずリリンは圧縮を続ける。

 元々圧縮された影で作られた大波であるが。リリンは燃費無視でマナを注ぎ、圧縮に圧縮を重ねていく。

 やがて大波は細波さざなみへ。細波は凪へ姿を変え、黒きモノを圧し潰していく。

 やり過ぎ……に、見えるだろうか? 過剰だと言えるだろうか? 自分より弱い存在にやる事ではないと。思ってしまうだろうか。

「……――」

 否。断じて否である。

「……――!」

 黒きモノは自らの球体と同サイズにまで圧縮された影をリリンの腕から学習したマナの放出で薙ぎ払う。

 リリンの腕を再現した所為でマナの知覚が鋭敏になってしまい、多少ダメージは受けたが問題ない。リリンを喰らうのに支障はない。

(クハ。そうだよなぁ? 対応しなくちゃいけないよなぁ?)

 わかっていた。リリンはわかっていた。今のが通じない事をわかっていた。

 だから、今のは一瞬でも足止めが出来れば良かった。

 ほんの一瞬。自分への対応が遅れればそれで良かった。

「……――!」

 リリンは再び黒きモノの懐に入っていた。腕をもがれた事から近づくのは危険とわかっていたし、普通に近づけば他の部位も喰われより強くしてしまった可能性がある。

 しかし、今の黒きモノは影を対処しなくては圧殺されていた。絶対に弾かなくてはならなかった。

 たとえ、大きな隙が生まれようとも。次への対処に遅延ラグが生じようとも。

「そら!」

 リリンは残った右腕を黒きモノの影を弾きながら中へ突っ込む。

 当然ながら黒きモノはリリンを取り込もうとするが、繋がったまま肉体の一部が中に入ってしまった時点で終わっている。

「弾け死ね。二流生物」

「……――!?」

 内側から放たれるマナの奔流は黒きモノの液状化している細胞をかき混ぜ、震わし、破壊する。

 纏っていた影は消え、中に入っていた本体である液体は飛び散り、青白い砂に染み込んでいく。

「クハハ。我の腕を食ったからか思ったよりもすぐに息絶えたな。何か喰う時はそれが毒とならんか考えてから食うべきだぞ? ま、もし我の腕を食っていなければ影に潰されて終わっていたろうがな」

 つまりどちらに転んでもリリンに勝てなかったというわけだ。

 リリンに傷をつけたとしても、手を煩わせたとしても、勝てる要素などごく僅かしかなかった。その僅かな可能性さえも看破され潰される。

 知性が違う。力が違う。存在の格が違う。

(とはいえ、最後に左の傷口に中身を飛ばしてつけられた。本体が死んですぐに傷のも朽ちたが、再生出来なくなったわ。クソ)

 最後の悪あがきとして行った行為はリリンの命には届かぬとも、リリンを不愉快にさせるには十分だったよう。左腕を自然治癒させるには当分かかりそうだ。

(まぁ良い。ほっとけばいずれは戻る。それよりも、あちらはどうなってるかな?)

 リリンはもう一体の黒きモノの気配を探る。十中八九もう消えているとわかっていても。

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