第245話

バトルパート


  徒咎根憐名&ペシナーラ 

      VS

     涼成鳴晴



 ――ボト……


 憐名が喚び出したのは革ベルトと鎖で巻かれた小汚ない袋。

(なんだろ……? あれ。ゲートから喚び出されたのだから契約者だろうけど……)

「……」

「え……?」

 モゾモゾと動いた。鳴晴は形と大きさから遺体袋のようだと感じていたが、まさかと思う。

(あれに入ってるのはもしかして……。人…なのか……?)

 小心者の鳴晴は冷や汗をかきはじめる。

「ね、ねぇ……。貴女は安全そこエリアからでないの?」

 恐怖を誤魔化すように尋ねる。出来るだけ表情に出ないように心がけてはいるが、憐名にはバレバレ。

 ちなみに、鳴晴は憐名の事を男とは思っていない。流石である。

「もちろん♪ さっきの二人が異常なだけ。本来は契約者に任せるのが召喚魔法師だよ。だから君はを倒さないといけないの♪ 安心して。今回君の相手をするのはソレだけだから。ソレ倒したら君の勝ちだよ」

「ソレって……まるで物みたいに……」

「似たようなモノだから。もうダメダメの手遅れなの。ソレ」

「……」

(え? なにそれどういうこと? ……まさかゾンビとかそういうのとか? え、普通にやめてほしい)

(フフ♪ 怖がっちゃって~。か~わいっ♪)

 勘違い甚だしいが、モゾモゾ動く遺体袋(と思い込んでいる物)が目の前にあれば仕方ないとも言える。

 そのビビった反応を楽しむ憐名も問題と言えば問題。

(もうちょっと驚かせちゃおっかな?)

「……っ」

 憐名の近く、袋の少し離れたところでゲートが開いた事で警戒する鳴晴。だが憐名が新たに喚び出した生き物を見て困惑する。

(異界の……芋虫?)

「……!」

「うわ!?」

 芋虫が床についた瞬間。袋が激しく動き鎖がガチャガチャと大きな音を立てる。

 袋の片端が全身を捻りながら伸びていき、憐名の喚び出した蟲に向かっていく。

「んぱぁ~……はぐ!」

 恐らく向かったのは頭部だったのだろう。袋を食い破りながら切れ端ごと蟲に食らいつく。

 蟲の体液や肉片を辺りに散らしながら平らげていく。

「んべ~。ぅえろれろ。れろぉ~」

 最後は床を舐めてご馳走さま。完全に閲覧注意シーンだ。

「う……わ……」

「ふふふ♪ あは♪」

 失念していたならともかく、憐名はこの映像が配信されている事を理解した上でやってるのでたちが悪い。

「よっと」

 憐名はゲートから椅子を出して腰かける。

「……!」

 その音に反応した袋が体をさらに伸ばしながら憐名に飛びかかるが、安全エリアによる見えない壁に遮られる。

「れらぁ~? むはぁ~?」

 見えない壁に顔を押し付けるも、憐名は特に興味はない様子。

 奇妙な目を向けている鳴晴の反応を楽しむのに忙しい。

(中々そそるけどぉ~。やっぱ天良寺くんの蔑む目のが好きだなぁ~。即立ちしちゃうレベルで。それにそろそろ浮気はやめにして始めないとね。お客さんも退屈しちゃうだろうし)

「じゃ、お相手よろしくお願いしまぁす♪」

「……!」

 鳴晴の足元にゲートを開き、蟲を落とす。となれば当然袋に入った生き物は黙ってない。

「……! んはぁ♪」

 食い破った隙間から見えた人間のような口がヨダレを撒き散らしながら蟲目掛けて体をねじり、伸ばし、飛び跳ねながら向かっていく。

「ひ……!」

「あぐ! ……? ……んひぃ♪」

 鳴晴は飛び退き、袋は蟲をくわえながら鳴晴のほうへ顔を向ける。

「はぁいは君を認識しちゃいました♪ 次の餌として、ね♪」

 憐名は袋の正体中身を明かす。かつて才と戦ったあのペシナーラだ。

 が、明らかに様子がおかしい。まるで知性を感じない。何よりも……。

「もう空腹感と快感神経しかまともに……まともに? とにかくその二つしか機能してないらしいから気を付けてね~♪ あ、あと死ぬまで止まらないからぁ~♪ 助かりたかったら……殺しちゃえ♪」

 中身どころではないのだが、鳴晴は元のペシナーラを知らないので疑問に思わない。それどころか。

(あの動きからして蛇やミミズの類い? でもあの口は人のモノ……。人面で胴長の生物?)

 人間の形をしていた事すらわからない。それほどまでにペシナーラは体を晒していないとはいえ変わり果てている。



 才に破れてから無駄にプライドの高い彼女は憐名に二つの要求を出していた。

 一つは蟲のさらなる供給。快楽で全てを忘れる為だ。

 二つ目は才へのリベンジ。次戦えば殺せると意気揚々と言い放ったらしい。

(だから処分するんだけどね。天良寺くん殺すとかもうね。お前が死ねよって感じだし。ま、死ぬのは役に立ってもらった後にだけど)

 憐名の契約者は異常に多く、今も増え続けている。

 その中には生物を変質させる薬を扱う者もおり、ペシナーラはその新薬の実験台として使われた。

 よって今は思考力はなくなり、本能九割の反射で動く獣以下のナニかになってしまった。

(完全に薬が馴染みきったみたいだしね。隅々までとは言わなくとも、別の生き物にはなってるでしょ。あと、聞いた話によれば馴染みきってから面白いことが起きて死ぬって聞いたし。計算が正しければらしいけど。せっかくだからこの場で実験の成果を見せてね。ペシナーラ♪)



「はぐ! あぐ!」

「うわ!?」

 体をねじり伸ばすという不気味な移動をしながら鳴晴に食いつこうとするペシナーラ。最早餌としてしか認識できていない。

 元々危険な人物であったが、これはもうただの危険生物だ。

(気持ち悪い動き……っ。得体が知れない体の構造だ。こういう相手は様子を見るに限る)

 慎重派の鳴晴はバックステップでかわし続ける。

 さらに人域魔法で加速。これなら逃げられる。と、思っていたのだが。

「まぁ♪」

「く……っ」

(速い……! 距離を離しても跳ねる時に一瞬で追いつかれる! 同じ速度……いや、確実に追いつける速度で対応される!)

 離しても追いつかれ、離しても追いつかれを繰り返す。

 どうしても、逃げられない。

(……あんまり触りたくないけど)

 鳴晴は苦い顔をしながら迎撃する事を決める。逃げられないなら戦うしかない。それは人域魔法師として学んできた基礎中の基礎。

「フッ!」

「……はふっ。……ひへっ」

 顔面に細かい連打が入る。手から伝わる頭の手応えはやはり人間に近いモノで、鳴晴は気分を悪くする。

(こんな奇妙な生き物なのに頭だけ人間っぽいのはなんのいじめなんだろ……)

 感触だけでなく、蟲の体液もついたペシナーラの頭部。触れる事そのものに抵抗が生じる。

 だが、嫌という理由でやめるなんてわがままを言えるわけもなく。鳴晴は殴り続ける。

「く……っ」

 殴り続けている。ダメージを与えている……はず。だがペシナーラは全然怯まない。まるで痛みを感じていないかのように。

 そしてふと、憐名の言葉を思い出した。


 ――もう空腹感と快感神経しか機能してない


(……っ。あれは比喩とか冗談じゃなくて事実か!)

 つまり肉体的なダメージでは倒れない。意識を断つなり神経が筋肉に伝達しないよう――引きちぎるなどの部位欠損。あとはそれこそ殺さないと勝機はないという事だ。

(うわ~……。もしそうなら今すぐ棄権したい……。でもそんなことしたら皆……というか静に殺される)

 逃げても死。逃げなくてもこのままなら死。

 であれば、今戦い抜いて相手を戦闘不能にする方が現実的と鳴晴は考えた。

 だが現状手詰まり状態。新たな策を考えなくてはならない。

 だが、それは。ペシナーラも同じ。

「……んはぁ♪」

「!?」

 袋を突き破り腕が飛び出し、両手で体を支える。

(なんだ……腕? え? 手の形は人間……だよね? でも、あれは……なんだ?)

 ペシナーラの異様な腕の有り様に鳴晴は顔を青ざめる。

 以前と違い伸縮性のある筋肉になったペシナーラ。その伸縮性は弾力性のある袋を突き破るほど高い。

 今は現在でも真っ直ぐ伸ばせば片手で3m弱。これでも抑えている方で、限界まで伸ばせば10mを超える。

 これだけでは飽きたらず、ペシナーラの腕は所々曲がっていて、関節がいくつもあるように見える。多関節というにも歪な不等間隔に曲がっているのだ。

 理由は骨基準ではなく、筋肉主動で動いているから。伸縮性と自由自在に動く元々人間の形だったのが自分の骨をへし折りながら無理矢理曲げている。関節に見えているのは折れた骨がそこに残っているだけ。

 歪。異質。生理的な拒絶さえ覚える生き物となったペシナーラ。

 ところで、何故今更腕を出したのだろうか。さっきまでは頭だけだったのに。

 そこに意図はない。考える頭がないから。

 たまたまなのだ。たまたま腕を、手を使っていなかっただけ。たまたま頭しか使っていなかっただけ。

 別に中々捕まらなくてイラついたとか、頭だけでは無理と判断したとかではない。ただの偶然。

 だがその偶然は鳴晴にとっては不運と言わざるを得ない。

「ん~ぱっ」

「いっ!?」

 途中で五回角度を変えながらペシナーラの両手が鳴晴に襲いかかる。

 辛うじて両方かわすが、鳴晴は内心震え上がる。

(あ、頭だけでもかわすのが大変だったのにあんなデタラメな軌道と射程で襲ってくるって反則過ぎる……! なにより頭も手も人間っぽい。いや、名残があるっていうほうが正しい……のかな?)

 鳴晴はペシナーラの手を見て人類に近い生き物だったのだと思い始める。

 不思議な事ではあるが、地球に近い環境の星というのは少なくない。また、そこで生態系が整った時、人間に近い生き物が支配する事も多々ある。

 リリンの世界然り。滅んでしまっているがコロナの世界然り。その他の才が見てきた世界でさえそうなのだ。他にあっても不思議ではない。

 だから人間の名残があれば、元は人間立ったのではないかという考えに至ってしまうし、事実合っている。

(あ~もう……。本当嫌だ……。本当やりにくい……。元々僕は戦闘こういうの苦手なのに……。なまじ才能があっただけで半ば無理矢理人域魔法師にさせられて。手抜いたら一発で静と鵬治郎にバレてシメられるし。なんでこう嫌なことばかり起こるんだよぉ~……)

 気弱。小心者。元々鳴晴とはそういう人物だった。

 だけど彼は才能があり、器用だった。それがまた裏目に働いて望まぬ進学先に突っ込まれたのだが。結果的には良かったのかもしれない。

 荒療治だったかもしれないが、彼は色々克服する事になったのだから。

(もう嫌だ。早く終わりたい。でも彼女は殺すまで止まらないって言った。ならもうやること決まっちゃってるじゃないか。あぁ本当に嫌だ。嫌だ。めんどくさいし気持ち悪いし。でもそうしないと終わらないならやるよ。あー本当いっそ退学したい)

「……よし」

(愚痴終わり)

 心の中で早口に文句をたれた後は気持ちを切り替えて仕事にかかる。

「ぷぅあ~」

「……」

 紙一重ではあるが、ペシナーラの滅茶苦茶な攻撃をかわし続けていた鳴晴はタイミングを計る。

(さすがエリート様。動揺とかめちゃめちゃしてるはずなのに)

 よくよく思い返してみると、何だかんだ狼狽えつつも全ての攻撃をかわしている鳴晴に憐名も感心を覚える。

(それに顔付きも変わった。んふ♪ そういう急に締まるのたまらない♪ 誘ってんの――)

(ここかな)

「……!?」

 憐名が下品な事考えている時、タイミングが合う。

 噛みついてきた所に合わせて頭をつかみながら宙を踏み背後に回る。そのまま頭を真後ろへねじ折った。

(うっわ速業。ギャップすご)

「ふぅ……」

「ほぁあ~……?」

 間抜けな声を漏らすペシナーラ。そんなペシナーラを鳴晴は哀れみを込めた目で見つめる。

「すみません。僕は自分の為に貴女を殺しました。あの世で恨んでどうぞ。僕は気にしませ――」

「ふひぃ♪」

「!?」

 間抜け面を晒していたペシナーラが笑った。表情を変えた。まだ……生きている。

「ぺぁあ」

「うわ!?」

 自分を抱き締めるように腕を回し、右腕が左から、左腕が右から迫る。

 鳴晴は背中を蹴りながら宙へ逃げるが――。

「う!? あが……はっ!」

 突然の衝撃が鳴晴を襲い、体勢を崩して背を床にぶつける。

(なんだ……? 今の……。かわしたはずなのに……なんで……?)

「あ、ペシナーラの手はマナで範囲と威力を広げられるから。つまり見えなくて大きな手が襲ってくるって思わないとあっさりポッキリ逝っちゃうよ♪」

「うそ……でしょ……」

 鳴晴を襲った不可視の力。その答えは憐名が教えてくれた。

 不規則な軌道。異常な腕の長さによる攻撃範囲。これの威力が、範囲が拡張される。もう怖いとしか言えない。

(ただでさえさっきの二戦でプレッシャーが酷いってのに……。相手がとんでもない化物なんて。本当ついてない……)

「……よし」

 二度目の愚痴。これも区切る。

 鳴晴は立ち上がり、策を練る。

(軌道は読みづらいけど、遠くにいるほど避けにくい。変化のための距離があるからだ。だからとりあえずは近づこう。ダメージの与え方は……)

「へあ」

 ペシナーラはおもむろに腕を振り回す。威力と範囲は拡張されて鳴晴を襲う。

「……っ」

 攻撃を察知した鳴晴は宙を駆け上がりかわす。そして、距離を詰めるべく人域魔法で加速を開始。

「いひぃ♪ んははぁ♪」

 デタラメに振り回し、拡張するペシナーラの攻撃を距離を詰めながらかわしていく鳴晴。対応が早い。流石の器用さ。

「……んひ♪」

 懐まで踏み込むと、ペシナーラは笑いながら腕を戻して鳴晴を掴もうとする。

 鳴晴の狙いはこれだ。このシチュエーションを望んでいた。ここからが、鳴晴の反撃。

(……これが効かなかったら棄権しよ)

「ふぅーーーーーーーーッ!」

 長く息を吐きながら鳴晴はペシナーラの連打を叩き込む。

「ふぅーーーーーーーーーーーッ!」

 迫る腕を一打ではね除け、特におかしな曲がり方をしている部分を叩く。すると、骨が肉から飛び出してくる。

「んあ?」

 骨が移動した事で筋肉の動きを邪魔する腕の動きが鈍り、鳴晴の連打にさらなる追撃を許す。

「ふぅーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 連打を進めていくとまるで釘バットの用に細かくも尖った骨が腕から飛び出す。

 筋肉自体も骨を砕きながら動こうとするが、その隙に鳴晴の打撃はどんどんペシナーラの腕を壊していく。

「すぅ~……ぷはぁ~」

 鳴晴は攻撃するのをやめた。吐き出した息を吸い戻し。息を整える。

 もう十分だと思ったのだ。彼はこれ以上は体力を消耗するだけだと悟ったのだ。

(これだけ筋肉をズタボロにすれば同時に神経も機能しなくなるでしょ……たぶん)

 ただ動きを阻害するだけが目的じゃなかった。鳴晴の真の目的は筋肉へのダメージじゃなく神経へのダメージ。

 どんな動物でも。例え痛みは感じなくとも。動く為には脳からの信号を神経が伝達させる必要がある。

 だから鳴晴はひたすらペシナーラの骨へ狙いを定め、内側から肉を破り、ダメージを与え続けたのだ。

 作戦は見事成功。ペシナーラの腕はちゃんと動かなくなる。

「んばぁ!」

(ま、痛みを感じないんだからそう簡単に終わらないよね。でももう貴女は攻略したよ。腕と同じように全身の骨を砕けばいずれ完全に止まる。そうしたら僕の勝ちだ)

 ペシナーラは腕同様首を伸ばして鳴晴へ襲いかかる――。


 ――パァン!


「「「!!?」」」

 ペシナーラが襲いかかり、鳴晴がこの後のシミュレーションを頭の中で終わらせた直後。ペシナーラの体が弾ける。血肉が、床に広がっていく。

(あーあ。せっかく面白くなって来たのに。時間切れか)

 薬により変異した肉体の限界が突然訪れたのだ。

 元々いつこうなっていたかわからないが、戦闘が盛り上がってきた所で水を差され憐名は萎えてしまった。

「はーい一番強い契約者が死んだので僕の負け~。おしまーい。おーしーまーいー」


『しょ、召喚魔法師徒咎根憐名の棄権により人域魔法師涼成鳴晴の勝利です。あー……演習場がすごいことになっているので、清掃させていただきます。次の試合は少々お待ちください』


 敗けを宣言してさっさと帰っていく憐名。

 その憐名の背中を鳴晴は呼び止めようと――。

(結局……あの人はなんだったんだろ? ……いや、深く考えるのは良そう。怖いし)

 ――思ったが、寸でのところで踏み留まる。

(世の中知らないほうが幸せなこともあるよね)

 そして鳴晴も演習場を出ていく。

 人域魔法師側の勝利で終わったが、初勝利はなんとも胸に凝りを残す戦いだった。

 それは観客も同様で、きっと憐名とその契約者ペシナーラには戦いが終わった今もあらゆる疑問を抱えていく事だろう。

 あの生き物はなんだったんだろう。どうしてあんな契約者がいたんだろう。どうして蔑むような目で見ていたんだろう。どうして契約者があんな風になったのに、興味をなくしたような目をしていたのだろう。

 その疑問が晴らされる事はきっとない。何故なら憐名が表に立つのは。人の目に晒される機会は。今後ほとんど来ないから。

(良い経験になったけど、もう良いかな。これからは裏で色々遊ぼ。だってそっちのが面白そうだから♪)



 人域魔法師側控え室。

「食後になんてもの見せんだ鳴晴こらぶっ転がすぞコロッケ野郎」

「いやそんなこと言われても」

「コロッケ食いたくなったわ! 試合が終わったら食えるように買ってこい! 次は私の番だかんよ梅肉和え」

「いや食欲落ちたんじゃないの……?」

「結嶺ちゃんが最後できさらはその前だから必然的にニャンコが次だもんなァ~! 鳴晴に続いて勝ってけェ~?」

「おうよ! 白魚! やってくらぁ感想クラゲ!」

「あ、僕の質問は無視なんだ」

「えっと……どんまいです」

「……とりあえず買ってくるね」

「あはは……いってらっしゃいです」



 召喚魔法師側控え室。

「いやー負けちゃった~。良い流れだったのにごめんね~?」

「団体戦とかじゃ……ないから。平気……だと思う……よ?」

「そう言ってくれると僕も気持ちが楽だよ~」

「夕美斗。次お前か御伽になるんだが? 準備は出来たか?」

「僕のことは無視ぃ? そんなことされたら立っちゃうよ?」

(……ナニかとは聞くまい)

「も、もう少しかかり……そう」

「本当本番に弱いな……。普段もっとヤバイのと手合わせしてるのに……」

「気持ちの問題だからな!」

「それ普通逆の意味で使わないか……? なんでネガティブなほうで使っちゃうの?」

「じゃあ……次は僕だね……。初めての試合だから緊張する……なぁ~。プレッシャーかかっちゃうなぁ~。戦ったことないのにいつの間にか1番もらっちゃって……るし。ま、やるだけやる……けど」



『大変お待たせしました。続いて第四戦を開始します。人域魔法師正常寧子。召喚魔法師御伽氷巳。試合を始めてください』

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