第241話

「……! 兄様!」

 夕食はまだまだかかるってことでコロナのおやつでも補充しようかなと降りてきたところで結嶺と鉢合わせ。

 な、なんか怖い顔してるので怖いです。語彙力欠如。

「お聞きしたいことがあるのですが!」

「あ、はい。どうぞ。ただ声量控えてもらえるか?」

 だから怖いって。語彙力。

「は、はい。すみません。そ、それで聞きたいというのはですね……」

「あ、もしかして交流戦のことか?」

「え……?」

 あ、違ったっぽい。口を挟むんじゃなかったな。

「あの……交流戦のことと思った理由を聞いてもよろしいですか?」

「……」

「目を逸らさないでください」

「……」

「嫌そうな顔をなさらないでくださいっ」

 だってお前最初に怖い顔して来てたし。余計なこと言って気になるのはわかるけど。また怖い顔してそこつついてくるし。なんでそう思ったのか言ったらまた突っかかってきそうなんだもん。怖いんだもん。

「何故。交流戦のことだと思ったんですか?」

「……はぁ。E組と同じ訓練場で体動かしてたって聞いたから。それでを聞いたと思ったんだよ」

「……!」

 一瞬。驚いた顔をした結嶺。さっきまで怒ってる? っぽかったのに。情緒不安定かお前? お医者さん行くか?

「お」

「お?」

「お、おめでとうございます! そうですか! 兄様も選抜なされたんですね! 一年生でも特に期待されてる六名が選抜されてるのは知っていましたし。先程伊鶴さんと夕美斗さんにも会ってアレクサンドラ様にご指導されたと聞いたので二名はわかっていて。雨花さん……えっと、こちらの選抜メンバーの一人なんですけど。留学生の方と鉢合わせたと言っていて。足で人域魔法を使った脚力なのに受け止めたらしいんです。召喚魔法師でそのような芸当ができるならば選抜されてるだろうということで暫定的でありますが三名は割り出せました。それで残り三名の中に兄様も入っているんですね! 繰り返しになりますがおめでとうございます!」

「お、おおう……」

 キラキラした目で心から祝ってくれてるところ悪いけど。詰め寄るなよ。近いよ。これはこれで怖いよ。

 ガキの頃はテンション上がると顔寄せてくる癖あったけど。いい加減直せ。女の子が男に顔面寄せるんじゃありません。

 俺以外にやらないのがまだ救いだけどな。なんでか知らないけども。

 と、鈍感系主人公気取ってみたり。

 昔からやたらと俺を過大評価するヤツだったから、たぶんちょっとブラコン気味なんだろ。

 お兄ちゃん愛されて嬉しいわー。

「……そ、それでなんですが」

「ん? なに?」

「交流戦の詳細は聞かされていないとか」

「まぁ、そうだな。交流目的でもできるだけ実戦を~ってことでお互いの情報は極力隠そうとは言われたけど」

 人域魔法師外部から迎えてるわけだから。召喚魔法師側俺たちに有利だなとは思うけどもね。事前に調べる余地があるから。

 でもよく考えればハンデってことなんだろうよ。人域魔法師はエリート。召喚魔法師は落ちこぼれの恥知らずだからな。こっちに少しでも有利な条件を与えてちょっとでもまともな戦いを演出しろってことなんだろうなぁ~。ありがたやありがたや。

「はい。それで、もしも良ければなんですが……。自分で順番を決める権利があった場合。私とお手合わせしていただけませんか?」

「は?」

 俺が……結嶺と?

 え~……やりづれぇ……。

 だってこいつとまともな喧嘩したことないし。そもそもお互い家の中じゃ遠慮してたから喧嘩に発展もしなかったし。

 そんな妹と喧嘩どころか殺し合いの練習はハードル高くねぇか?

「ダメ……ですか……?」

 上目使いで顔を寄せるんじゃない。どこで覚えたそんな男心くすぐるテク。恐らくほぼ癖なんだろうけどさ。

 俺以外にそれやるなよ? 勘違いされて惚れられるぞ。美人だし。……胸も年の割りに育ってるし。実家にいたときはペタン娘だったくせに。生意気な。

「はぁ……わかったよ。可愛い妹の頼みだ。聞いてやるよ」

 それはそれとして。久々に会った妹の頼みくらい聞いてやらないとな。兄の威厳的に。最初からないけど。

「か、かわ……っ!? あ、ありがとうございま……す」

 顔を真っ赤にして俯いた。なんだ? 可愛いって言われて照れてんのか? 初心だな。って14才だもんな。そらそうか。あれ? 14だよな? お前。うろ覚えだわごめん。

「で、では順番は……わかりやすく最後でよろしいですか?」

 大トリかい。よろしくありませんくそったれ。最後となったらプレッシャーかかるだろうが。

「わかった」

 と、反論したいのは山々だけど。ヤツらを待たせるのも忍びないのでさっさと帰りたいので了承しとく。

 リリンはいないから良いとして。さらにロッテやカナラはともかくとして。コロナを待たせるとろくなことない。ろくなことない。大事だからもう一回言うわ。ろくなことない。

「では私はこれで失礼します。人を待たせてるので」

 踵を返そうとする結嶺。あれ? 帰るの? なんか用があったんじゃないのか?

「ところでお前なんで俺を探してたの?」

「……あ! そうです! 兄様の女性関係について色々と聞きたいことと言いたいことが!」

 ……また余計なこと言った。俺のバカ。



「ただいま……」

「おかえりなさい。遅かったね?」

「ちょっとな……」

 あの後また数十分かけて言い訳して逃げてきた。

 本当ね。結嶺の前では色々気を付けよう。うん。



「結嶺。飯冷めてんだろ? 変えてきたら?」

「冷めてても! あむ! エビフライ! あむ! 美味しい! あむ! でふ!」

 プンプンしながら冷めた揚げ物を頬張る結嶺。

 不謹慎だろうがその場の全員がこう思った。

(((げっ歯類みたいで可愛いな)))

 追加できさらだけ。

(やはり結嶺ちゃんは侮れないんだぞォ~……!)

 本人の預かり知らぬところで、本人にとってはどうでも良いライバル視をさらているのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る