第240話

「――おや?」

 最初に気付いたのは伊鶴。談笑してるとピンクが目に入ったからだ。

 流石きさら。目立つ女である。

「やっほーい! お昼振りなんだぞォ!」

「どこのピンクかと思えばきさらん! と……あれ? なんか見たことある金髪が……」

 伊鶴の次に目に入ったのは結嶺。しかし誰かはまだわかっていない。

「E組の皆様。先程はお邪魔しました。それと……お久し振りです」

「ん、ん~……? あ、あ~! 私と一緒にサンディにボッコボコにされたヤツか!」

 声を聞いてやっと思い出した伊鶴。ただ覚え方を聞いて苦笑いを浮かべる。

「……覚え方には一言申したいですけど。否定はでしませんね。事実ですから」

「サンディ? 誰だそれ?」

「魔帝アレクサンドラ様のことですよ」

「「……!」」

 召喚魔法師であり、そして魔帝と戦ったと聞いてきさらと雨花は以前話していた魔帝に傷をつけた者と同一人物とわかった。この察しの良さもまた才能の一つ。

「へぇ~……。この小日本シャオリーベンがねぇ?」

「さすがに初対面で侮辱はいけないと思いますよ? 私とそこまで体格変わりませんし……」

「侮辱したんか!?」

「あ」

 注意のつもりがむしろ伊鶴を傷つける結果に。黙っていれば気付かれなかったろうに。せめて小声で言えば良かったのに。結嶺。迂闊。

 ちなみに小日本は日本や日本人への侮辱の言葉。主に「度量が小さい」や「ケチ」などで使われるが、この場合雨花は物理的な小ささで用いている。

「静ちゃんはいつも口が悪いから気にしたら負けなんだぞォ~。あ、ちな『静』って書いて『ジン』って読むんだぞォ~」

「勝手に教えんなカスピンク」

「自己紹介は必要ですよ?」

「結嶺がそう言うなら……」

「扱い違ぇな? 差別かァ~? 静は悪い子かァ~?」

「私は静雨花。『雨花』で『ユイファ』だ。忘れたら無脳って言ってやるよ」

「無視かァ~!?」

「まぁ落ち着けよきさらん。さて、名乗られたとあっちゃあこっちも名乗らざるを得ないな!」

 と、まぁ騒ぎつつも各々自己紹介をし、最後に結嶺の番となる。

「では最後になりましたが、私は天良寺結嶺と言います」

「「「……ん?」」」

 名字を聞いた瞬間。伊鶴達の中で何かが引っかかる。

「あの……レディ? もう一度名前を聞かせてもらっても良いかい?」

 もしかしたら聞き間違えたんじゃないかと思って代表してマイクがリピートを求める。

 結嶺はハテナを浮かべながらも要望に応える。

「天良寺結嶺です」

「「「……」」」

 聞き間違いじゃなかった。というわけで――。

「「「天良寺!!?」」」

 盛大に驚くとしましょう。



「まさか皆さんが兄さんのクラスメイトでお友達だったなんて……。人付き合いが得意な方ではないのですけど……。大丈夫ですか?」

 妹なのに酷い言い種である。妹だからこそとも言えるが。

「大丈夫大丈夫。たしかに付き合いは悪いけど。暇ならひょっこりついてくるし」

「つかこっちからしたらこんな社交的で礼儀正しい子がアレの妹っていうほうが意外すぎてハゲそうなんじゃがしかし」

「それもこんなにキュートなレディがだよ! 何気に魅力的な女性に囲まれて生きてないか!?」

「加えて交流戦に選抜されるほど優秀な人域魔法師……。前に優秀な妹がいると聞いたことはあるが……。正に、だな……」

「いや~世の中わかりませんね~」

「ところで顔立ちも髪の色も違うんだけどそれはどうし――いだい!」

 最後に質問爆弾をぶちこんだ伊鶴のこめかみに肘を入れる多美。

 才の地毛は黒(今はリリンの影響で白金だが染めてるし元は黒)。結嶺は生まれつきの金髪で染めてない。

 さらに才の顔立ちは純日本人(リリンを投影して若干イケメンになってるが普段のマイナスな雰囲気の所為で気づかれない)。結嶺はハーフではあるがどちらかというと白人の血が濃く出てるので、余程区別できる人間じゃないとハーフとはわからない。

 つまり、二人の容姿を知っていると疑問に思うのは仕方ない。それほど似てなさすぎるのだ。

(変なところつつくな! 家庭の事情とかあるでしょ!)

(あ、あ~。なるほど。了解ッスうぃっす)

 事情は知らないが、空気を読んだ多美。それに気づき今回は大人しく従う伊鶴。これでたまには気遣いも必要と学習……したはず。

「……? それはそうと。気になることがあるんですが……」

「その結嶺自慢の兄貴はどこだ?」

「お昼の時いた男の方が結嶺ちゃんのお兄ちゃんとすると、もう一人足りない気もするぞォ?」

 伊鶴と多美のやり取りは聞き取れなかったが、代わりに気になっていた事を尋ねる結嶺達。

 もし仲が良いと言うのなら何故夕食を一緒に取っていないんだろうと思い至ったのである。

「二人とも自室で食べるってさ」

「もしかしたら一緒の部屋かもねー」

「……っ」

 マイクが答えると伊鶴が付け加える。そして結嶺が固まった。

(そ、そういえば朝食をいただいた時も同じ部屋に……。やはり爛れ……ただならぬ関係!?)

 心の中で言い変えてるが、十分遅い。

「はぁ~? なんだよ結嶺の兄貴。女と乳繰り合ってんのか?」

「……っ」

「なるほどォ~。だからきさらがあんなにくっついても動じなかったのかァ~。相当女慣れしてると見たぞォ!」

「……っ!」

「ま、普段から他の美女に美少女と寝食共にしてっからねぇ~。あの男」

「……っ!?」

「言い方悪いけど否定できないな~……」

「結嶺の話と食い違った印象で笑う。やっぱ結嶺ただのブラコ……ん? どした?」

 汗をたらたら流しながら青ざめる結嶺。どうやら刺激が強かったらしい。

 そして少し思案した後。早足でどこかへ向かい始める。

「あ、おい!」

「どこ行くんだぞォ~!? もうすぐご飯なのにィ~!」

「ちょ、ちょっと野暮用です!」

「お、おう……。そっか」

「いってらっしゃいだぞォ……」

 あまりの剣幕にたじろぐ雨花ときさら。

 そんな二人に見送られ結嶺は才の元へ向かう。

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