第239話
「やぁやぁリリンちゃん。呼び出しちゃってすまないね」
「何故我の自室で待っていたのかは問わんから早く用件を言え。大した事でなければ帰る」
ベッドに座り、宙をふわふわと漂うネスを眺めるリリン。
「ふひひ」
冷たい視線を向けられても不気味な笑いを浮かべて意に介さない。
普段からこういう目で見られているし、すぐにリリンの興味をそそる言葉を発するからだ。
「この世界に来訪者だよ」
「ん?」
一瞬でリリンの顔付きが変わる。その様子に目を細めながらネスは続ける。
「ものすごい速度でここに向かってきている生き物がいるんだよ。三つほどね。近々数日の時間を空けて」
「……それで? そいつらの目的は?」
「ん~。強いて言えば捕食かな? 前に似たような個体を四回ほど見たことあるけど。どれも訪れた世界で最も異質な生物を喰っていたから」
「強いのか?」
「とびきりね。何せあの生き物は漏れなく影を使う」
「ほう……!」
興味と好奇心が溢れ、口角がつり上がる。すぐに帰るという選択肢は消えた。
「要約すると。数日内に侵略者が訪れ、その世界で最も異質で強い生物を襲いに来る、と。クハッ! 間違いなく我目当てだな!」
「だろうね~。影を使う生き物は世界の歪み。異物。イレギュラー。バグ。言い方は色々あるけど。とにかく特別な存在だから。同じ影を使う生き物を嗅ぎ付けて来たんだろうね。なんでこの時期なのかはわからないけど」
「そんな事はどうでも良い。問題は正確な日時だ。いつ来る?」
「探ろうとしたら拒絶されちゃってわかんない。でも全部七日以内には来るかな?」
「フム。貴様でも視れず……か。確かにまともな生物とは言い難いな。しかし七日……まぁ許容できるか。時間があるなら血族共に手を出さんように言っておくとしよう」
リリンは立ち上がり影を展開。適当に血族の元へ走らせ、徴を残していく。
影で何かされたとあればリリンが呼んでいると承知しているのですぐにでも集まるだろう。
「用件は終わりだな? では我は
「原型は留めといてね?」
「約束はしかねるな」
リリンとネスは部屋を出て各々別れて別の場所へ。リリンは血族が集まる時に使う長テーブルがある大部屋へ。ネスは自宅へ帰っていく。
(まさか
(あっちの世界だけじゃなく。この宇宙全てを巻き込んでナニかが動き出してるみたいだ。あ~……なんて楽しいんだろうか! 変革の時代に立ち会えるなんて! 老いることをやめて本当に良かった!)
お互いの表情は見えていないし、理由も異なるが、今の二人の表情はよく似ているモノになっていた。
所変わり。寮の食堂。才とカナラを抜いたE組の面子が食事を取っていた。
話している内容はというと。
「そういえばさっちゃんとえんちゃんは? まさかお家デート? 出来立て手作り料理あーんとかしてイチャコラしてる感じ? は? 死ねよ」
「想像の域を出ないはずなのにどうしてでしょう? 現実味があります」
「いやーどうだろ? あの才がやるぅ~? あーんとかやってもしかめっ面して拒否しそう。あ、でも才から言えば桃之生さんはやりそう」
「午後少し離れただけでも寂しそうだったしね。あんな美人に好かれて羨ましい。羨ましい……っ!」
「こ、心が篭ってるな……かなり……」
ミケのマジな感想に若干引く夕美斗。ミケの精神性を尊敬はしているが、色恋に疎い彼女には理解が及ばなかったようだ。
「さっちゃんがクソ野郎ってのは置いといてさ」
酷い。
「なーんでタミーとやっちゃんとミケちゃんさ。ボロボロなの?」
「手酷くシゴかれたから……って、それを言うならあんたらも大概だからね?」
「こっちは手酷くボコボコにされたからだよ」
「さすが魔帝と言える指導だったぞ。全部力でねじ伏せられたからな……」
「
「くぅ~! 良いなぁ良いなぁ! 僕も肌でミス・サンディの実力を感じたかった!」
いつも通り盛り上がる一同。そんな彼らの中に見知った顔を見つける少女が一人。
(あの人は? もしかして……)
「どうした? 結嶺」
「いえ、知り合い……? の方がいたかもしれないのでちょっと挨拶を」
「お? あれはおにぎりをくれた人たちなんだぞォ! きさらも行くゥ~!」
「結嶺が行くなら私も行くしかねぇわな。お前ら。飯は頼んだ」
「はいはい。わかったよ」
「あんまし遅いと先に食っちまうからなナスのおひたし」
「ん? 寧子は野菜も食べるのか!? いつも肉ばかりなのに!?」
「どこに驚いてんだ鵬治郎この野郎ういろう。バカにしてんのか貝柱。野菜も食うわ。つかそういう意味じゃねぇし」
「(´ーωー`)?」
「わかってねぇなこの鳥頭。揚げるぞ?」
「なにかくれるのか! ありがたいな!」
「イラッ☆」
鵬治郎と寧子の漫才(?)を聞きながら結嶺達は伊鶴達の元へ近づいていく。
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