第238話
期待していたことが俺たちにもあった。
魔帝と言うからにはなにか特別なことでもするんだろうなぁ~と。
だけど。蓋を開けてみれば……。
「ハッハー! ひたすら実戦! 実戦! 実戦式! 実戦訓練! かかってきなぁ! ボーイアンドガール!」
と、完全なる脳筋。それは果たして訓練と呼んで良いのか? 私刑って言わない? ねぇ? 証拠にほら。
「「「……」」」
伊鶴と夕美斗とジュリアナが開始15分でぶっ倒れてるけど。
意外なことにジュリアナもE
ちなみに、俺と憐名と御伽は戦闘スタイル的な問題で倒れることはなかったが……。
「こふぅ~……こふぅ~……」
俺の代わりにコロナがぶっ倒れてる。ごめん。
いやまさかコロナの鎧がまったく通用しないとは思わなかった。
正確には直撃はしなかった。しなかったんだが、アレクサンドラが真正面から攻撃を防がれたのが面白くなったようで。なってしまったようで。徐々に威力を上げて衝撃でどんどん壁際に追い込んでいくというね。遊びに興じてしまい。体力と気力をゴリゴリ削られたコロナもダウンしてしまったという。
コロナももちろん反撃はした。籠手で捕まえにかかった。
だが、目で追えても手はアレクサンドラの速度に追いつけず。一方的に殴られる羽目に。
もうね。傍から見たらいじめだったよ。真面目に。
まぁ、でも。ある意味では対策の目処は立ったけどな。ありがたいことに。
元々コロナは速い相手と相性が悪そうなのは雪日のお陰でなんとなくわかってたし。今回で確信したわ。それと、決心した。
コロナは交流戦では使わない。
「と、いうことで。ロッテ。君に決めた」
「はぁ~……?」
一世一代の告白がすかされた。悲しい。
「何の話をしているんだ……?」
あ、うん。そうですね。説明なしで決めた言われてもね。わからんわな。俺の落ち度ですごめんなさい。
「かくかくしかじか」
「で、何でもかんでも伝わると思うなよ?」
「すまん」
今日のロッテはなんか辛辣な気がする。
……気のせいか。
つーわけで改めてかくかくしかじか。今回はちゃんと説明。
「なるほど。コロナのヤツを使わない理由はわかった」
そりゃなにより。
「だが儂である理由は? リリンでも良くないか? あいつのが強いぞ?」
完全に納得せずかい。
そりゃたしかにリリンは強いんだが……その強さがまた問題というかなんというか。
「リリンの能力を見せたくないんだよ。妹に」
「何故?」
「俺も使えるから」
「……?」
イマイチよくわからないって顔だな。首傾げやがって。あざといぞ。できれば犬のときやってくれ。絶対可愛いから。
「妹はまだ俺が普通の人間だと思ってんだよ。だから俺が影を使ったらそりゃあもう驚くだろうし心配もするわけ」
「ほう」
「んで、なにかの拍子に俺が影使っちまったとしよう。とっさとなると注意してても使っちゃうかもで。そのとき結嶺がいないとも限らないからな。そんで目撃されたらなんでリリンと同じ能力を? やはりただならぬ関係? ってなるのは明白だろ?」
「なるほど。納得した」
やっとピンッと来てくれたようで俺は嬉しいよ。
「つーわけでリリンとコロナは留守番で。ロッテの出番。当日はよろしく」
「あいわかった。しかし、加減はどうしたものか……。才の妹となると手心を加えた方が良いか否か……」
「適度にボコボコにしてやれば良いよ。あいつも根性あるし。差別もしないから落ちこぼれにやられたくらいじゃへこたれねぇよ」
むしろ実家でのほうが酷い扱い受けてるだろうしな。ちょっとやそっとなら大丈夫だろ。
「あ、でも殺すなよ? 食べちゃダメだからな?」
「当たり前だ。儂を何だと思ってる?」
「……獣?」
「あってるけどもだな……」
「犬?」
「あってるけどもだな!」
ほら、肉食獣って獲物で遊ぶとか言うしね? 念のためだよ念のため。だからあんまり怒るなよ。
「ろうちゃん。お手伝いして~」
「と、あぁ。今行く」
カナラに呼ばれ夕食の準備に戻るロッテ。
美女二人が仲良く料理をするのを眺めるのもまた乙だな。
それはそうと。話は聞いてただろうけど、一応リリンにも釘を刺しておくかな。
「おいリリン」
「ん?」
「人域魔法師たちの前で影使うなよ?」
「案ずるな。今夜からしばらく帰る予定だ」
「帰る? どこに?」
「
「あ、そう。なんかあんのか?」
「ネスのヤツに呼ばれてな」
「ふ~ん」
たしかにそうなると心配の必要はねぇな。
どうやってネスさんが連絡を寄越したのかは……気にしない方向で。
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