第236話

「待たせたな! ……って、どうした? なぜに頭を抱えているんだ天良寺?」

「あ、島市先生……」

 教室に入ってきたのは島市しまいち公介こうすけ。結嶺達の引率である。

「体調でも悪いのか……って痛い! なにするんだ静!」

「るっせぇ! 呼び出した張本人が遅れやがって! なめてんのか! あ!?」

 一瞬で背後に回り尻を蹴り上げる雨花。教師に対する態度ではないが、公介自身が強いわけではないので雨花基準では敬うに値しないので仕方ない。

「そいで用件はなんなんだァ~?」

「わざわざ呼び出したんだから余程のこと……ですよね?」

「いてて……も、もちろんだ! お前らもきっと喜ぶぞ!」

「「「……?」」」

「まぁ黙ってついてこい。あ、覚悟はしとけよ?」

(((だから用件を言えよ)))

 全員が口にしなかったのは公介がさっさと行ってしまったから。

 とりあえず、一同は後を追うことにする。



「島市公介その他人域魔法師六名失礼します!」

「は、はひ! ど、どうぞ!」

「ヘイユー。緊張し過ぎじゃねぇか?」

 とある部屋に入ると、そこにいたのは二人の女性。

 一人は今時見かけない丸眼鏡をかけたボサボサ頭で、一人はサングラスをかけた金髪の白人。

 その両方に人域魔法師の生徒達は見覚えがあった。

「「「……っ!? 失礼しました!」」」

 全員が整列し姿勢を正す。きさらや雨花でさえもだ。

 それも当然。目の前にいるのは刃羽霧紅緒とアレクサンドラ・ロキシー。魔法師の頂点たる魔帝の二人なのだから。

(((こんの腐れ教師! なんで先に言わなかった!?)))

 全員が冷や汗を垂らし、心の中では文句を垂れる。

 大物の二人を相手にするなら最初からちゃんとしていたかったというのが全員の共通の意思であるのだが、公介は彼らの気持ちなど欠片もわかっておらず――。

「ふふん♪ どうだ驚いたかお前ら! 魔帝のお二方が並ぶことなんて滅多にないんだぞ!」

(((サプライズするにしても時と場合を考えろ!)))

 自慢気にドヤ顔を向けてくる公介に不満全開の一同。特に雨花は殺意ビンビンである。

「ハッハッハ! 元気いっぱいだなボーイ&ガールズ! それに見たことある顔も一つあるね? ハロ~」

 結嶺に手を振るアレクサンドラ。結嶺は戸惑いながらも一歩前に出て改めて挨拶をする。

「はい。先日はお手合わせしていただきありがとうございました」

「礼はいらないよ。あれはミーがしたくて開いたイベントだからね。むしろユーのような将来有望な若者が来てくれて嬉しかったよ。そしてまた会えて嬉しくも思うよ天才ガール」

「勿体ないお言葉です。それであの……」

「ん?」

「どうしてここにおられるのでしょうか……?」

 全員の疑問を代弁する結嶺。紅緒はともかくアレクサンドラがいるのは彼女達にとっては確かに不可解である。

「当然のクエスチョン! ユー達から見れば不思議な不可思議ミステリアスなことだろう! しかし一言では言い表せないディープな事情がだね……」

「突然押しかてきて先生になりたーいって言われたんです」

「あっさりバラされた! ま、そういうこと。ミーの気まぐれ。理由は……強いて言えばミーがしたかったからだね。まるでチャイルドのワガママさ!」

「ワガママって自分で言っちゃうんですね……」

 魔帝二人の気の抜ける会話に脱力してしまうが、もちろん姿勢は崩さない。普段はどうであれ、よく訓練された生徒達である。

「ま、でもその気まぐれは幸か不幸かユー達を不利にすることになったね」

「はい? どういうことですか? うちの子たちが不利……ってまさか!?」

 公介が何かに気づいた顔をする。生徒達はその次に出る言葉を待つ。

「そうそのまさかさ!」

「実は交流戦の相手はアレクサンドラさんなんですか!?」

「ん~……! トゥーバット! 全然違ぇ!」

 お門違いにも程がある公介。もしアレクサンドラが相手だったら召喚魔法師こっちの学校に来る必要はないだろうに。

「ま、でもパ~~~フェクツに間違えてるわけじゃあ~ないかもね?」

 やや呆れ気味に言いつつアレクサンドラは紅緒の机に座り、足を組んで改めて生徒達の方へ向く。

「ユー達が戦う相手の指導をすることになったのさ」

「「「……!」」」

「……したんです。アレクサンドラさんの要望で」

「細かいことはいんだよ紅緒! どちらにせよ同じだからね」

 確かにアレクサンドラが無理言って役職をもらってようが頼まれてやってようが同じ事。召喚魔法師側には人域魔法師最高峰の魔帝がついている。

「一週間に満たない期間だがこの私が手を貸すんだ。落ちこぼれ相手でも油断しちゃダメだからな?」

 最後の一言だけ、アレクサンドラから少し本気の圧を感じた。

 まだ少しだけ侮る予知があった結嶺達から完全に油断が消えた瞬間である。

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