第235話

「お~またァ~?」

「遅ぇぞドピンク」

 ミーティング用に宛がわれた空き教室に元気よく入るきさら。

 他の選抜された面子は揃っており、きさらが最後のようだ。

「ドピンク? ノンノンノン。きさらんと呼ぶが良いぞォ~」

「なんだそのベタなあだ名。新しい遊びかよ」

「ところがどっこい鯉刺身。あの顔は割りとマジな八ツ橋」

「たぶん見ル野もなにかあったんだろう! 俺たちのようにな!」

「お~ほォん? どゥゆことォ?」

 各々昼に起きた出来事を話し始め、きさらと雨花はお互い似たようなトラブルが起きた事を知る。

「んだよ。そっちも雑魚に絡まれたのかよ。……きっちりシメたんだろうな?」

「きっちりかどうかはともかく一喝はした……かもォ?」

「なんで曖昧なんだよついさっきのことだろ脳みそ入ってんのか」

 流れるように蔑む雨花だが、きさらは割りと機嫌が良いようで聞き流している。

 そもそも雨花の口が悪いのはいつもの事なのでこれが日常とも言えるので気にするまでもないだけではある。

「この学校にいる人間の程度と志の低さにガッカリしたってのが強くてどこまでやったか特に気にしてなかったんだぞォ~。あとおにぎり美味しかったんだぞォ!」

「おにぎり……? お昼食べた後にまたなんか食べたの?」

「あ、玉子焼きも食べたぞォ!」

「いやそういうことじゃなくてね?」

「というかおにぎりに玉子焼きとはなんとも古風なラインナップだな! 俺も食いたくなってきた!」

 昼食後なのに何故また食事を取ったのか聞いてる鳴晴と、如何に美味しい物を食べたか言いたいきさら。そして想像して食欲が出る鵬治郎。見事に噛み合わず。

「よ、よくわからないですけど良かったですね。美味しい物をいただけるのは良いことです」

「それには同意のイカ焼き。うめぇもん食ってどんどんおっきくなるんだ胡麻団子」

「それでそれでねェ!?」

「あ、まだ続きます?」

 話を切ろうとした結嶺の努力は水の泡。きさらは話を続ける。

「ダメダメな人がいたのはいたんだけどォ~。交流戦に選抜されたうち三人はヘンテコな召喚魔法師って聞いたんだぞォ~! もしかしたらその中に結嶺ちゃんが言ってたすごい人もいるかもだぞォ~!」

「変なヤツ? ってなるとあの野郎も選抜されてんのか? 意外と正攻法でやり合えるかもな」

 きさらが言っているのは伊鶴から聞いたこと。伊鶴はE組の三人のことを言っているのだが、雨花の言っているのはジュリアナのこと。見事にすれ違う。

「それとォ~。きさらにも気になる人が出来たんだぞォ~」

「なんだ? また新しい男引っ掛けたか?」

「違ェんだぞ! そもそも引っ掛けたことねェんだぞォ~! きさらは皆のきさらだから誰か一人好きになるなんてねェんだぞ! じゃなくて! ちょっとだけだけど。人間離れした動きした人がいたんだぞ! そんときは手だけしか動いてなかったしきさらも油断してたとはいえ、きさらの目が一瞬追いつけなかったんだぞ! ビュビュバァンだぞォ!」

「「「……」」」

 擬音はよくわからないが、きさらが反応しきれなかったという言葉は雨花でさえ興味を持つワード。

「……ん~。それが本当なら、なんかよくわからない学園だよね」

「実力がないのに無駄に火種を撒くものもいれば」

「きさらさらさら茶漬けやポーク静ジャーが興味持ったような強そうなのもいるって南蛮漬け。あだっ! 叩くなよ栗羊羮!」

「勝手にしょうが焼きにすっからだろ小鬼グィズが。……ま、イキりドカスはいるようだが、選抜されるヤツは少なくともまともだろって話だろ? ってことなら退屈なバトルにはならねぇだろうよ」

「私は……兄さんが選抜されてたら嬉しく思います。契約者の方々も拝見しましたが……強そうでしたし」

「きさらはもう一度あの手さばきを見たいんだぞォ~! シュッシュッ!」

 少々トラブルはありつつも、才とジュリアナ……ついでに伊鶴の言葉により楽しみを見つける面々。

「あ」

 このまま雑談しつつもう一人の到着を待つというところで、結嶺が何かに気づいてしまう。

「どした?」

「いえ、なにも……」

(兄様の話してて思い出した……。なんで契約者であるはずの人とキスしてたのか問い詰めてない……っ)

「う~……っ!」

(結嶺~……。なんでもなさそうに見えないぞー。それ)

 頭を抱え、呻き声を上げる結嶺を心配する一同であった。

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