第233話

 よし。決めた。ここも被害を受けよう。さして興味もないが、続くと迷惑だし。目撃が多い被害を受けとけば後で訴えて学園側が対応してくれるかもしれない。基本的に喧嘩とかお前らでなんとかしろってスタンスだけど。いじめは対処してくれると信じたい。信じさせてくれ学園長。

 ただし、俺だけな。少なくとも他校のヤツを巻き込むわけにはいかない。

 と、いうわけで。行動開始。まずは状況の把握から。

 投げられたのは……臭いと音からして……泥団子か? これまた幼稚な……。

 しかも内部になにか仕込まれてるわけじゃない。ただの泥団子。なめてんのか。……いやなめてなきゃやらねぇか。

 で、横に大口開けた馬鹿きさら。泥団子となると弾けて周りに散るだろうから、近すぎて当たりかねないなその位置。

 飯にも入りかねないし、そうなるとたぶんこいつらがブチギレる。飯は影で守ろう。

 が、きさらに見られるのも手の内晒す的な意味でアレだから試験をはずしたい。ってなると……。

「これでも食っとけ」

「あむん!?」

 素早くおにぎりを手に取り口に詰め込みながら後ろに倒れるように押す。

 天を仰ぎながら手をパタパタさせてひっくり返るきさら。ウケる。

 とりあえずこいつの視線はこれで外れたので準備OK。いつでもどうぞ。


 ――ベチャッ


 泥が頭に当たり、案の定。弾けて周りに破片が散る。

 それら全てを一瞬で回収し、飯にも他のヤツらにも当たらないようにする。なんて優しいんでしょう僕ってば。誰か誉めてくれないかなぁ~喜ばないけど。

「よしっ。ヒット!」

「ほら、気づかれる前に行くぞっ」

「どうせなら人域魔法師のほうにも当てたかったな」

「良いから早く」

「わかってるって!」

 俺の聴覚でギリギリ聞き取れるくらい遠くから実行犯と思われる二人の男子生徒の会話。ごめんな気づいちゃって。

 にしても異界の残り香があるから恐らく向こうから投げたんだろうけど。よくもまぁ俺の頭に当てられたな。結構な精度。もっと別で活かせ~それ~。

 ま、とりあえず二人の気配も臭いも覚えたし。次なにかしたら被害届出そ――。


 ――ごっくん


「「「!!?」」」

「おわ!?」

「なんだ!?」

 口の物を飲み込む音が聞こえた瞬間。俺たちを見ていた人間。近くにいた者全員が驚く。

 目の前からド派手なピンク頭が消えたからだ。

 加えて、次の瞬間には男子生徒二人を捕まえて、地面に押さえつけていた。

「喧嘩売っといて逃げるとかダメなんだぞォ~? やるならとことんやってけェ~?」

 この場にピンク頭は一人しかいない。きさらだ。

 尻餅をついて天を仰いだ体勢から片手をついて宙に体を浮かせ、二歩で木の陰にいた泥団子を投げた犯人を迷うことなく捕まえ、なんか煽り始めてる。

 そこは謝れとかやった理由聞くとかじゃねぇんだ……。超人的な動きもさることながら言動が謎。

「は!? い、意味わかんねぇし……! 喧嘩売るとかなんだよ!」

「け、喧嘩売ってんのはお前だろ!? こんなことしやがって! 普通に暴行じゃんか! 訴えるぞ!?」

「はァあん? きさらを謀るとか良い度胸だぞォ~。彼に押し倒された時、目の端に不審な動きをしていた君たちが映ったんだぞォ~。えっと~……泥かな? が、飛んできた射線から考えても君たち以外あり得ないんだぞォ~。これ以上嘘つくなら優しいきさらちゃんでもプンプン怒るんだぞォ!?」

 ふくれっ面で可愛さを演出したいんだろうけど、拘束の仕方が後頭部を掴んで両膝を背中に乗せて重心を押さえるというガチなやり方でちょっと笑えない。見た目に反しすぎるぞあんた。

 つーかすげぇ洞察力だな。目の端に映ったモノだけで判断したのかよ。しかも合ってるし。人間かお前? 本当は別の星の生き物じゃない? 頭ピンクだし。つかピンクだけじゃねぇし。

 チラッと見えたけど髪がなびくとたくさん色が見えたから、ピンクの下に細かく層になるように染めてんだろ。派手さにこだわり過ぎだろ宇宙人め。

「そんなの証拠になんねぇっつの! お、お前の勘違いだっての! 早く離せよ!」

「そ、そうだそうだ!」

 この期に及んで白を切る二人。そんな二人の様子をわけがわからないと言った顔できさらは見つめている。

「ふぅ~……。別に喧嘩が悪いとは言ってないんだぞ? やるならとことんやれって言ってるんだぞ。嫌がらせとか。遊びとか。あといじめとか? そういう理由でやってるとしたら無意味だからやめてけェ?」

「だから意味わからな……」

「ちょっかいかける時間なんて無駄の極みだぞォ~? そんなことしてる暇あるなら自主トレでもしとけェ~? 魔法師は強くてナンボだぞォ~?」

 きさらの持論を聞いて口ごもる二人。周りも自分が言われてないのに痛いところをつかれたって顔がチラホラと見え始める。

「お、俺たちは召喚魔法師だから別に強くなくても……」

「それに人域魔法師お前らみたいに才能なんてねぇから努力したって意味ねぇし」

「……はぁ~。拍子抜けなんだぞ……。まさかそんなこと言う人がいるなんて……。がっかりだぞォ~……」

 きさらは拘束を解き、二人の男子生徒を見下ろす。

 自分でも言ってる通り残念そうな顔になってるな。交流戦に期待でもしてたんかねぇ~? 相手は召喚魔法師だってのに。

「もっともっと根性あるかと思ってたのにィ~。魔法師を諦めきれない恥知らずって言われてもしがみついたんじゃないのかァ~? 頑張るって決めたんじゃないのかァ~? なのに努力しても意味ないとか抜かすとかそれこそ意味わからないんだぞォ~……。そんなこと言っちゃうってことはさてはサボり魔だなァ~? 結嶺ちゃんがすごい召喚魔法師見た~って言うから交流戦も期待してたのにィ~。本当。こんな腑抜けた生徒が一人でもいるだけで萎えェ~……だぞォ~……」

「「……」」

 拘束は解かれてるのに、きさらの言葉にめった打ちにされて立ち上がろうとしない加害者二人。

 二人だけじゃなく。周りにいるほとんどの人間が気まずそうな。傷ついたような顔をするのが増えてきた。まるで自分が言われたように。

 もちろん例外もいる。この学園に入って努力したという自負があるヤツは特に表情を変えてないだろうよ。つまりは俺たちみたいなヤツらな。

 正直。他人なんざわりとどうでも良いんだけど。あのきさらって女少し気になるな。

 あいつの目。口におにぎり詰め込む寸前まで反射的に俺の手を追ってた気がする。

 人間離れした速度未満にしていたはずだけど。少なくとも鍛えてない学生の速度ではない。

 もし、俺の勘違いじゃなく。俺の動きに違和感を覚えて。興味持たれたりしたら~……。嫌だなぁ~……。めんどくさいなぁ~……。

 どうか。俺の勘違いでありますように。望み薄だけど。

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