第232話

 カナラの気まぐれで昼は外で弁当を食うことにした。どうやら朝全員分用意してたらしい。

 いつもの面子は大層喜んだよ。美少女の手料理が食べられるってことでな。伊鶴とミケは発狂寸前だったよ。今は落ち着いたけどな。

「うめぇ~……。うめぇよぉ~……」

「僕にもいつか料理上手の恋人……できないかなぁ~……」

 代わりに号泣してっけど。お前ら~感動しすぎだぞ~。落ち着いてけ~。

「ふふ。喜んでくれて良かった。ほんまは口にあうか不安やったんよ」


 ――ドキッ


 安堵し、朗らかに笑うカナラに一同メロメロですわ~。俺とコロナを除いてな。俺らは黙って飯食ってるよ。

 コロナは未だにカナラに慣れてないからなんだが。俺は違う。

 笑ったカナラはたしかに可愛いんだけど。綺麗なんだけど。俺は単純に好みの問題と言いますか。困った顔とか照れた顔が好きなんです。たとえ誰かに変態と言われようとも。これは揺るぎません。

 芯の強い男。天良寺才です。キリッ。

 ハッ。心のなかでも寒いなこれ。控えよう。

 んんっ。気を取り直して。一つ気になることがあるので処理をしよう。

「わぁ~! 美味しそうだなんだぞォ~! お一つもらいたいぞォ~?」

 背後からぴょこぴょこ小走りで近づいてきて俺の肩を掴んで横から顔をひょっこり出しながら弁当を眺めるこいつは誰?

 わかるのは目の端にド派手なピンク色の髪が映ってることと押し当てられた胸が結構大きいということ。……D……いや、Eか?

「「……」」

 とりあえず一個なんか食わせたら離れるかな?

コロナが露骨に殺意ビンビンでカナラも笑顔のまま不機嫌になってるから早くどいてほしい。

「……ほい」

「お? あむ♪」

 玉子焼きを目の前に出すと食いついた。知らん人が使った箸なのによく躊躇なくいけるな?

「ん~♪ 美味だぞォ~♪ これを作った人は良いお嫁さんになるんだぞォ~♪」

「よ、嫁になる気はあらへんけどね……//////」

 頬を染めるな。視線が痛い。今や学園一の美少女(伊鶴情報)なんだから。お前の反応一つで敵対心増すんだよ。気を付けろってんだチョロカナラ。

「てか誰だよあんたぁ!? なんとなく察しはつくけども!?」

「(゜ロ゜;ハッ! これは失礼しちまったんだぞォ! 美味しそうなお弁当しか目に入らず、頭いっぱいになって、我を忘れて自己紹介を失念してしまったんだぞォ!」

 耳元で丁寧な説明をデカデカもどうも。いい加減力ずくで剥がして顔面殴打してやろうか新たな珍獣こら。

「我こそは――」

 一度言葉を切り、やっと俺から離れる。そもそもなぜ引っ付いたのか。

「未来は人類理想像アイドル♪ 生ける目の保養♪ 万物・万象に愛し愛されるパーフェクトガール! 見ル野きさら! 皆! きさらを見・ル・野♪」

「「「……」」」

 また濃いのが来たなぁ~……。

 頭派手だし。言動アレ出し。語尾あざといし。自己紹介に決めポーズまであるし。今までで屈指の変人かもこいつ。なんなら一番重要なこと聞いてないし。

「えっと……。たしか今日から来る人域魔法師の……人だよね?」

「制服違いますし。少なくとも違う学校の生徒でしょうね」

「よくわかったんだぞォ。きさらは正式ではないけど異界現場に出たこともある優秀な学生さんなんだぞォ~!」

 ビシッと指差すきさら。

 異界にね~。特にエリートが来るって聞いてたから驚きはないな。

「あ、あれ? あんまり驚いてる様子がないんだぞォ~?」

 不思議そうにするきさらだが、しょうがないよ。だって……ねぇ?

「あ~別に驚いてないわけじゃないんだが……」

「もちろん貴女のようなレディが来て感激してる」

「でもリアクション取るまでもねぇわな。そこまでは驚かない」

「つい最近もっとスゴい人が来たからねぇ~」

「あのインパクト超えるのは無理ですよ。無理無理」

 こいつらが思い浮かべてるのはアレクサンドラだろうな。魔帝のインパクト超えるのは無理だよ。あの人の場合急に来てたけど、きさらのほうは予告されてたし。その差もかなり大きいわ。

「なん……だとォ!?」

 逆に驚きのあまり後ずさるきさら。つか表情筋酷使し過ぎだぞあんた。顔面で会話できそうなくらい顔変えやがって。おもしれぇな。

「むゥ~! きさらよりも目立つ人が先に来るとかズルいズルいズルい! ズルいんだぞォ! きさらは一番目立って一番愛されたいんだぞォ!」

「なるほど。つまりビッ――」

「チではなぁあい! ゾ!」

 伊鶴の茶々にも即座にツッコむとは。やるな。さすがエリート。侮れない。

「酷いこと言った罰としてもっとご飯寄越すんだぞォ! あ~」

 いやなんの罰だよ意味わからん。つか俺に引っ付くなよ。伊鶴のとこいけ伊鶴のとこ。

 まったく。気軽に男におっぱい押し付けやがって。やっぱりビッチじゃねぇの? ピンク髪ってビッチっていう話も聞いたことあるし。100%偏見だけど。

「あ~!」

 うるせぇよ。そして背中をバンバン叩くな。俺に催促するな残念ピンク。

 とりあえず口におにぎりでも詰め込んでやろうかこんちくしょ――。

「……っ」

 背後から敵意……ってほどでもないが新たな気配。しかも仕掛けてきやがったな。なんか投げられてる。

 チッ。バカが。俺だけならともかく今は他のヤツが近くにいるじゃねぇか。巻き込む気かよ。それも外部の人間だぞ? 責任問題になったらどうしてくれる。

 はぁ~次から次へとめんどくさい。どう対応したもんかねこれ。

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