第231話

「えっと。天良寺才兄さ……んの妹。天良寺結嶺です。以後お見知りいただければ幸いです」

 早々と自分のぶんを食べ終えてあいさつをする結嶺。口元にご飯粒がついてるのはご愛敬。

 ってかなんで言い直したんだ? 普段は「兄様」だし。この年になってやっとその呼び方が恥ずかしいってわかってくれたのかな? 直し切れてないあたり口に馴染みすぎとも思うけど。

 まさかとは思うが……。俺の知らないところで俺のこと呼びまくってたりするんだろうか?

 いや、まさかな。結嶺が兄愛者ブラコンになってるなんてあり得ないか。そもそもガキの頃ちょっと付きまとわれただけの関係だし。あり得んあり得ん。

 あ、ちなみにリリンはとっくに食い終えて間食をしながらゲームに戻ってる。朝食終わったばかりだぞ~。昼間での繋ぎにしても早いぞ~。

「それで皆様は兄さんとどういう……」

 まだ忘れてなかったか~。別に良いけど。

「契約者だよ。桃之生はクラスメイトだけど……」

「にゃーにゃー。あ~」

「はいはい。人と話してて説教できないことを良いことに甘え倒してんじゃねぇぞテメェ」

「あむ♪」

「この……」

「……」

 シカトか。結嶺の手前これ以上言えないけども。テメェって言った瞬間また目付きが怖くなったもん。やだもう。別に虐待とかはしてませんよ? 俺のお口が悪いだけだ。安心しろ妹よ。

「桃之生艶眞言います。よろしゅうね」

 と、話を戻すようにカナラが自己紹介。さすが都合の良い女。こういうときは空気を読める。

「契約者にクラスメイト……。なるほど。たしかに制服を着ていらっしゃいますね。それで。なぜ朝から兄さんに朝食を? お二人はどういうご関係なのでしょうか?」

 あ~また結嶺の顔が険しくぅ~……。

 女連れ込みまくりの男から最低一人は連れ込んでる男になったのは良いけど一人の時点でなにやってんだってことですね理解しました。

 都合の良い女。出番だぞ。上手くかわしてくれよ。

「か、関係って程でもあらへんよ……? わ、私が一方的に好いてるだけ。それで勝手に押し掛けて勝手に食べて貰ってるだけやよ//////」

 前言撤回。火を注ぐなバカ。顔赤らめて尽くしてますよアピールするんじゃない。お前の言い方だと変な見方したら俺がお前を利用してるクズ男みたいじゃないか。その通りだよクソ。

「……に、兄さん? やはり進学して……浮かれて……爛れた生活を……」

「いや別にそういうわけじゃ――」

「……っ!」

 対面に座った状態で箸を投げる結嶺。二本同時に投げて片目ずつきっちり狙ってるねこれ。……危ないわ!

 どう対処しようか思案してると、これまた傍らから伸びるちっちゃいお手てが。

「ふん!」

「……!」

 止めたのはまたしてもコロナ。俺に食わせてもらってるために空いてる手でフォークを掴み箸を隙間で絡めとった。

 お、お前。どこでそんなこと……。つか本当意外に器用だなぁ~……。

「……ふふん♪」

 あ、珍しく表情筋が大きく動いたと思ったら

鼻を鳴らしながらのドヤ顔。うざかわいい。

 あんな器用な真似できるんなら自分で飯食えよ。飛んできた箸止めるよか容易いだろうが。

「……」

 だがその前に箸を投げるんじゃない。コロナもコロナだが結嶺も行儀悪いぞ。あと普通の人間だったら失明しちゃうからやめなさい。

 って、言いたいのは山々だが面と向かって言えないんだけども。

 だってなんか言えないような感じの空気醸し出してんだもん。怖いんだもん。なんでさっきからそんなに不機嫌なのかもよくわかってないんだもんなんでですか教えてくださいっ。

「やはりただ者ではありませんね……。その子も。動じない面々も」

 ふっふっふ。それはそうだろう。なぜならコロナはこの中でも最弱なのだから。

 ……実際のところは知らないけど。こいつのポテンシャルは正直計りかねてるわ。たまにすごいことやるしマナも悪くないし能力もかなりヤバイけど基本的に幼児なもので。

「まだ言いたいことは多々ありますが……」

 なら言ってくれ。手を出す前にさ。

 俺、お前に対する一番の驚きは口以上に激しく手が出るところだからな? なんでそんな暴力的バイオレンスになっちゃったんだい? 人域魔法師ってそういう世界なの? ねぇ? そういう危ないとこなの?

「このあと私にも予定がありますので。ひとまずはこのあたりでお暇させていただきます」

「あ、運んでくれはるだけでええよ。あとでまとめて洗うし。用事があるなら早う行かんと」

「……わかりました。ありがとうございます」

 食器を片付け、そのまま洗おうとした結嶺を制するカナラ。

 片や自分のぶんは自分でって感じで洗おうとして。片や予定があるなら私に任せて早く行きなさいと言う。どっちもデキた人間だなぁ~。俺には真似できそうにないわ。

「では……また。ご飯、美味しかったです。ごちそうさまでした」

「はぁい。お粗末様でした」

 お辞儀をして部屋を出てい……こうとする。我が妹に一言。

「結嶺。口元に米ついてるぞ」

「……っ! 気付いたときに言ってください……!」

 アポなしで来た罰だ。次からはちゃんとアポ取れよ。防災の準備したいから。

 特になにかするってわけじゃないけど。気構えくらいはさせてほしいもんで。

 とにもかくにもは去った。

「可愛らしい子やったね」

「わんぱくだったな」

 カナラ。ロッテ。その感想は正しいとは思うけど。俺的には複雑だよ。具体的にどうとは言わないけどさ。



(あんなに綺麗な人たちに囲まれて……。しかもそれに馴染んでいらして……。あからさまに好意を向ける人もいて……。その人は料理上手で……。もうなんか……もう……嫌だ……)

「兄様の……バカぁ~……」

 部屋を出て少し歩くと、泣きそうになりながら結嶺は独り言を漏らす。

 思わず漏れてしまった言葉。それくらい彼女は兄の現状には深くショックを受けていた。

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