第229話

「坊……大丈夫?」

「……」

 カナラに膝枕されながら尋ねられるが、答える余裕がない。

 つーか地面に着物で正座って良いのかそれ。汚れるだろ。

 元々高そうな着物(自分たちで作ってるんだろうけど)のまま外で遊んだりしてるし今さらか。

 さて、なぜ俺がカナラに膝枕されてるのか。別にこれはイチャついてるわけではない。単純に俺が動けなくなっただけ。

 島全体に影を伸ばすのは成功したんだが……。リリンの感覚器官も必要なくらいは投影に成功もしたんだが……。脳が追いつけなかったんだ……。

 あまりの情報量に脳がパンク。細胞が軽く数億単位で死滅して今再生中。

 普通の思考するぶんには問題ないが……。それ以外ができない状態になってしまった。

 ので、今は治るまで待ってる。ただただ待ってる。口すら開かず。

 つまり、膝枕はカナラの勝手でされてることです。この女が悪いんです。俺に罪はない。なんの罪だよって話だけど。

「もう……あんま無理したらあかんよ? 心配してまうやろ?」

 はいはい。お前の困った顔好きだから素直に聞けそうにねぇよごめんな。

「あといきなりあの黒いのどばぁっと広げるのもやめてや。びっくりしてまうから。せめて最初になんか言うてくれれば……」

 お前の以下略。故に止めぬ。我、止めぬ。

「……あ、その目。もしかしてわざとなん? あれ」

「……」

「わざとやろ~……っ! もう! もう!」

 怒った(?)カナラが俺の両頬を引っ張ったり挟んだりしてくる。

 痛くないから良いんだけど。結構激しいからよだれ垂れそう。

「も――……」

 急に無言になった。目線の先はよだれの垂れかかる俺の口。あ、察し。

「……」

 無言のまま俺の頭を膝から地面に下ろし、少し下がって屈み。

「はむ」

 くわえ込むように自分の唇を俺の口へ。ですよね。わかってた。

 好き有らばやりますねぇ貴女。どんだけ欲求不満なんですか? 数千年分って考えたら抑えてるほうかもだけども。

「……こ、これで許す……ね」

 目を横に逸らして恥ずかしそうにしてる。まだ慣れないんだな。そこそこしてるんだからもうそろそろ慣れても良いんじゃなかろうか。

 あ、いや。やっぱ慣れなくて良い。その顔見れなくなるのは困る。

 だから、お前はいつまでもそのままで良い。ついでにあの素晴らしい美乳も保ってくれると嬉しいです。

「~~~~~~//////。わ、私先帰ってるねっ!」

 そう言って煙の中へ消えていくカナラ。キスするだけして去るとかどんな通り魔だよ。キスの通り魔……略してキス魔?

 ……語弊があるかこれは。あいつ俺にしかやらないだろうし。

「よいしょっと」

 あれやこれやしてる内に回復したし、俺はもう少し続けるか。

 仮にまた加減ミスっても帰りが遅くなれば迎えくらいくるだろ。



「おあ……?」

 気づけば朝。部屋で寝てる俺。……なんでだ? あれ?

 ん~……わからん。つか頭ボーッとするな……。この体でこんな感覚初めてだな。

 えっと……。あのあとたしか……また影での感覚を掴もうとして……。動けなくなるってことはなかったけど朦朧としながら部屋に戻って……。それから……そうそう。飯と風呂は済ませたんだ。で、寝た。で、起きた。

 一晩ぐっすりよ~く寝た。が、しかし。残る気だるさ。これ如何に。

 って、確実に脳への不可がデカ過ぎたんだなこれ。

 そらあの広さを全部……しかも目で見るんじゃなく触るでもなくまったく別の部分でやろうとしたからな。体が対応しきれなかったんだろうな。クソ。

 多少マナでの知覚はできてるだろって自負があったけど。全然ダメだな。話にならねぇ。

 こりゃこれからも続けていこう。この体だしすぐに慣れ……るかはわからないか。一度ぶっ倒れて次に軽い記憶障害起こったし。慎重にやろ。うん。

 と、これからのことを決めたところで……寝るか。

 時間もまだあるし飯は――。

「あ、坊起きた? もうすぐご飯できるから待っててね♪」

「お~……」

 カナラが用意してるしな。制服エプロンとはなかなかわかってるなお前。久茂井先輩あの人の差し金か? カナラに関してはもっとやれ。俺の眼福になる。

 さてさて。じゃあ束の間の二度寝を楽しもうじゃない――。


 ――ピンポーン


 か。

 って誰だおい。人が気持ちよく寝ようとしたってのに空気読めよ。しかもインターホンて。なんでだよ。

 端末に連絡が来ない時点で嫌な予感しかしねぇよ。帰れよ。

 と、言いたいけど。俺知ってんだ。無視したら無視したで絶対面倒になるって。

 はぁ~……。しかも、カナラは朝飯の準備。ロッテは手伝い。リリンはゲームやっててコロナは論外寝てる

 俺しか出る人間がいません。そもそも人間がこの空間にいません。はい。

「ふぅ~……しゃーない」

「んむぅ……にゃーにゃー……」

 重い腰を上げ……ようとしたらコロナがしがみついたまま離れないな。

 剥がしたいところだけど来客を待たせるのものんだし。良いや今は。引っ付いてろ。

 さて、こんな朝っぱらからいったい全体誰が来たんだ?

 これで伊鶴とかアレクサンドラがなんか思いついて突発的に訪ねて来たとかなら二秒で始末してやる。覚悟しとけよ害獣共。そもそもこいつらって決まったわけじゃないけどな。

 うっし。軽く頭を戦闘モードに切り替えたところで。来客様とごたいめーん。

「はいはい。どちらさ――」

「お、お久し振りです。兄さ……ま」

 正直。伊鶴やアレクサンドラのが百倍マシだったって。今なら思える。

 だって、今の俺。白銀髪幼女コロナをだっこして対面してるし。部屋には他にも複数の地雷がある状況。

 そんな状況で……そんな状況で……。

 とか。死にた過ぎる。

「「………………」」

 無言になる我々兄妹。

 ど、どうしよう。このあと俺。どうしましょう……っ。

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