第226話
「あら? こんにちは。皆さんお早いですね。もういらっしゃっていたとは……。お待たせしてしまいましたか?」
待ち合わせ場所に来て早々謝罪から入る丁寧なあいさつをする金髪の女生徒。
あれ? つーかこの金髪……なぁ~んか見覚えあるなぁ~……。誰だっけ……?
「まずは自己紹介を。一年A組ジュリアナ・フローラです。よろしくお願いしますね。皆さん」
あ、超タイムリー。ついさっきチラッと話してた俺のかつての対戦相手のA組様じゃないですかイヤだー。
俺、結構この人にやらかしちゃってる気がするんだけど。恨みとか買ってないかな? 知らないところで妬まれるくらいだから直接関係のある相手だと余計怖いわ。
「これはこれはご丁寧に。私は1年E組賀古治伊鶴。好きなことは楽しいこと。好きなものは可愛い女の子です。よろよろ~」
なにそのナンパ男的な内容の自己紹介。間違ってはないが良いのかそれで。
……本人が良いなら良いけども。
「同じく1年E組和宮内夕美斗。よろしくお願いする」
続いて夕美斗のあいさつ。伊鶴とは異なった無難なものだな。良かったよ。お前にまでボケられたら俺へのプレッシャーが増えるし。
そもそもだけど、なんか気まずいもん。今さらあいさつとか。お互い肉体と精神という違いはあれど。ぶっ壊しあった仲だからな。間接的だけど。
かといって、俺だけしないわけにもいかないし。やるけどさ。
「俺は――」
「天良寺……くん」
意を決した自己紹介を止められた。萎える。
まぁね。そりゃあ知ってるよねぇ。あんだけ敵意剥き出しにして戦ったもんねー。侵食を受けてても記憶には残っちゃうよねー。ハハハー。
これは……ヤバイやつですか?
「……ずっと。貴方に直接言いたかったことがあります」
「お、おう……」
言うだけで済むんでしょうかそれは。そんな険しい表情をされるともう一触即発的な感じじゃないかなってちょっと思ってしまうんですが?
「お? お? ロマンスですか? また新しい女か? モテモテだな?」
いやこの顔絶対違うだろ茶化すな刺激するな俺が殺られる前に俺がお前を殺るぞ黙っとれ。
「で、なに?」
「えっと……その……」
口をつぐみ、眉間のシワが深くなる。怖い。
いっそ襲ってきてくれたほうが俺も割り切れるんでどうぞ遠慮なく。
前と違って自衛手段はあるんで。手足破裂させなくても返り討ちにしてやれるよ。たぶん。
「……っ。て、天良寺くん!」
「は、はい?」
「ご、ごめんなさい!」
「……はい?」
めっちゃ険しい顔からさらに険しい顔になって、覚悟を決めた顔に代わり最後は頭を下げられ謝罪。
えっと……どういう状況?
「侵食を受けていたとはいえ私は許されないことをしました。特に貴方には立場を利用して無理矢理演習の相手にした挙げ句大怪我までさせて……。それになにより。アグニから解放していただいて感謝もしてるんです。今こうして口を利けるのも貴方のお陰。だから。心よりの謝罪と。心よりの感謝を」
「あ、そですか」
「素っ気な!」
思ったより平和的な内容だったけど意外すぎてついお粗末な返事をしてしまった。
元々育ち良さそうなヤツだったけど。まさかこんなお堅いこと言われるとは思わないしさ。
「その……もしよければなにか私にできるお詫びをさせていただきたいのですが……」
え~……。いらねぇそういうのマジいらねぇ……。
でもこういうパターンってごり押ししてくる感じだよなぁ~……。
一応ダメ元でやんわり断りは試みるけども。
「まぁ、その……。お互い良い経験になったってことで……うん。あんまり気にしない方向でお願いします」
「……貴方がそれをお望みになるのでしたら」
わお。こういうときって自分の気が済まないつってどうにかこうにか詫び入れようとする人多いけど。自分の不満を抑えてこっちの意図を飲んだよ。それだけでちょっと好感度上がったわ。
俺の好感度上がったところで感あるけど。
「あれ? 天良寺くんが女の子に頭下げさせてる。え、そういう性癖でもあるの? 特殊過ぎて笑えない僕じゃ満たせない今すぐ捨ててそんなもの」
人聞きの悪いことを言いながら入ってきた女子の制服を着た男子生徒――徒咎根憐名。
こいつも選抜されたのか……。関わりたくねぇのに……。
「あ、その今すぐ消えろって目から察するに可愛い子に冷たくしたい性癖なのかな? それなら僕にもまだチャンスありそう♪」
ねぇよ。生理的に受け付けねぇからなテメェの場合。
「それで……僕も自己紹介が必要かな? E組の人たちとは一応顔見知りだから貴女次第だけど」
「いえ、必要ありません。天良寺くんの演習は全て録画を見させていただいてるので。当然アナタのことも知っていますよ。徒咎根さん」
「あは♪ 奇遇だね。僕も天良寺くんの試合は見てるの。チラリズムを期待して」
なんのだよ。っていうか怖ぇよ。
俺の演習試合とか見ても参考にならねぇだろ。特殊過ぎて。なんのために見てんだよ。あ、憐名は言ってたなチラリズムって。どこの部分だっつの。いややっぱ聞きたくない。願わくば口を開かないでほしい不愉快になるから。
「え~っと……。これで五人……ってことはあと一人か。誰なんだろ?」
「……? 賀古治さんは……いえ、E組の方々は聞いてないんですか?」
「あぁ。小咲野先生は直接見てこいとのことで特に詳細は聞かされてないんだ」
「なる……ほど……」
ジュリアナの顔が複雑なものになる。なんでだ……あ、初めて顔合わせたときのこと思い出してるのか。
電気を帯びたペンが目の前を突っ切るのはそらぁ恐ろしかっただろうね。自業自得だけど。
「んで。そっちはなんかご存じで?」
「最後の一人ですか? ええ。まぁ。一応同じクラスですから」
ってことはA組か。まぁ妥当だな。むしろなんで全員A組じゃないのか不思議なくらい。
少し気になるのは。なんかちょっとだけジュリアナの言葉に歯切れの悪さを感じたんだが……気のせい?
「最後の一人はある意味天良寺くんより異質だよね~。僕も実際に目にできたことないくらいだし。でも成績はすごいよ。なにせ一年唯一の無敗だから」
俺は欠席もあるからそれを考えると一回不戦勝を許してることになるのか。なるほどね。すごいヤツもいたもんだ。すごいすごい。
「無敗というか無戦というか……。0戦0勝0敗。学園側から演習を免除……いえ、参加しないでほしいと打診された方なんです。彼」
俺どこじゃなかった。なんじゃそれ。
俺でさえ学園長に縛りプレイ強要されてるだけなのに。そいつは参加すら許されてないの? なにしたんだそいつ?
「わぁ~……生だ生……。嬉しいなぁ~……」
「「「!!?」」」
俺の背後から声がした。
き、気づかなかった……っ。急になにもないところから気配が増えたっ。
驚きすぎて反射的に距離を取っちまった。それくらい。唐突で。驚いた。
「あ……、ごめん……なさい。驚かせるつもりはなかったんだけど……。話してたから……」
だったら背後から急に声を出すなって感じだけど……。
それよりもこいつが最後の一人……か?
「あ~……えっと。自己紹介……必要だよね。あんまり授業にも出てないし……。えっとえっと……。1年1組……1番? 御伽氷巳……です。天良寺くんのファンです。いつも試合……見てます。……ファンです。会えて……嬉しいです。……へへ」
「そ、そうですか」
また変なのが出たな……。なんか月1で変人と巡りあってる気がするんだけど? 俺。
このままいくと卒業までに30人以上の変人と接点を持つことにならない? ねぇ? 大丈夫?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます