第224話
「……」
未だ険しい雰囲気のカナラ。
手を出さなかったのは偉いがいつまでも怒ってるとストレスで胃がやられそうだし。俺のほうが。
これは早々になんとか機嫌を直してもらわなくては。
いやでも、ここまで怒ってたらいくらチョロいカナラでも早々上機嫌には……ならないよな。
だがやるだけはやってみよう。やらなくちゃ始まらない精神で。
「あ~……なんだ。そんなに怒るなよ。可愛い顔が台無しだ……ぞ?」
「……っ!? ~~~~~~//////」
前言撤回。なったわ。一言で普通にご機嫌マックスだわ。
チョロいな~お前。そこが(都合の)良いとこだけど。
「……」
照れながら無言で隣に戻り、頑張って澄まし顔を作ろうとしてるけど耳まで真っ赤で無駄な努力この上ねぇ。
「あ~……。こりゃ明らかに『
「少なくとも桃之生さんは確実に……って感じですねぇ~」
「一番怒ってたしね。色々びっくりしたけど桃之生さんのが一番驚いたくらいだし」
「本物の殺気を初めて肌で感じた。良い経験ではあるが二度は御免だな……」
「って、そんなことよりも。才。早く拭いたほうが良いよ」
各々感想等口にする中。ミケだけは俺がまだびしょびしょなことに気づいてくれたな。だからなんだって感じなんだけど。
いや俺もね? いつ拭こうかなってなってたとこなんだよ。本当本当。
「はっ! せ、せやね。早う拭かんと風邪引いてまうわ。坊、拭いたげるからこっち向いて?」
正気に戻ったカナラがハンカチを取りだす。
ふむ。ちょうど良い。カナラが触れるタイミングに合わせて――。
「「「!!?」」」
カナラのハンカチが俺の頭に触れると一瞬で濡れていたことなどなかったかのようになった。代わりにハンカチはびしょびしょに。
「すごい吸水性だな」
「「「いやいやいやいやいやいや」」」
「手品かよ!」
一同首を振り、伊鶴がツッコむ。うん。でしょうね。
いくら科学の進歩が目覚ましいとはいえ、一瞬で水分を全部吸収とまではいかない。
しかも水溜まりみたく一帯に一定で水分があるわけじゃなく。頭にぶっかけられたつっても肩とか胸とか色々濡れる。それが一瞬で乾けば驚くわな。
これをやったのはカナラじゃない。むしろこんことに使って驚いてるくらいだし。
察しの良いヤツならわかることだし特別なこと……ではあるか。俺の知る限り同じ芸当は俺含め二人しかいないし。
「で、どうやったの? それ。気になるからさっさと種明かししてよさっちゃんや」
言われなくてもしようと思ってたけど。伊鶴に言われるとどうにもしたくなくなるんだよな……。他の連中も聞きたそうだから言うけども。
「……これだよこれ」
指先から少しだけ影を出してウネウネさせる。自分でやっといてなんだけど虫みたいでキモいな。この程度のことができるくらい影の使い方がわかってきたとも言えるけども。
俺がやったのは昨夜リリンがやったことの応用。
あいつは影で一瞬足を覆い、足についた塵やホコリを取っていた。これと同じことを俺もやった。
濡れている部分は感覚でわかるからそこに影を伸ばしてかかったコーラ全部影で回収しカナラのハンカチに移動させた。お陰でベタつきもねぇよ。
いや~本当。服の繊維すら通り抜けるこの能力すげぇわぁ~。精密なコントロールを要求されるから人間じゃ扱いきれないけどな。
そもそも出せるのが俺とリリンと得体の知れない化物くらいだし。その化物もカナラに殺されてる。
便利な能力でも絶対じゃないのがなんともなぁ~。世知辛い。
「はぁ~。そんな使い方もできるんだ」
「とことん人間やめてきてますね。今さらですけど」
「才君に関しては最早考えるだけ無駄だろうな」
「やーい化物ー化物ー。性欲魔神~」
「才。例え人間をやめても僕たちは友達だからね……」
この野郎共……散々言ってくれやがって……。
憐れんでんじゃねぇぞ。自分で選んだことだっての。
前にリリンも言ってた気がするけど。人間を特別視すんな。人間だって一生物だぞ。特別でもなんでもないんだぞ。宇宙全体で見れば脆弱にして惰弱だからな。
あと伊鶴テメェ性欲魔神はまったく関係ないただの悪口だろぶっ飛ばすぞ。
「……ったく」
一人ずついちいちツッコむのもめんどくさい。さっさと食って打ち合わせとやらに向かうわもう。
と、その前に。一個だけ気になるからこれだけは処理しとこう。
「ところで桃之生」
「ん? なぁに?」
「なんで手出さなかったんだ? 今にも殺しそうだったのに」
「あ~……坊が手を出そうしいひんかったから。きっと大事にはしたくないんやな思て」
なるほどね。よーくわかってらっしゃる。さすが都合の良い女だな。惚れ直すわ。
あ、ちなみにさっきから静かにしてるコロナだけど。すでに踏んでいたところから脱出して今は――。
「ふすぅ~……ふすぅ~……」
足の甲に尻乗っけてコアラスタイルになって膝の臭い嗅いでるわ。そこ、そんなに香ります?
まぁ香る香らないは別にして、胸もギューッと押しつけてスネが半ば埋まってるからボタンちぎれないか心配だわ。早く戻ってこーい。
「んふぅ♪ んふぅ♪」
足首を上にちょいちょいっと上げ下げするとコロナも上下する。楽しそうだな。
でもな? 別に楽しませようとしてないんだ。早く戻れ? ご飯食べて? お願いだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます