第223話

「なんか、ど偉いことになったね」

「今回ばかりは同意してやる」

「なんで偉そうなのか」

 午前の授業が終わり。今は昼食。

 いつも通りの面子にカナラを加えて朝のことを話題にしている。

 まさか人域魔法師との交流なんて起こり得るとは思わないって。

 だって基本的に向こうからしたら侮蔑の対象だからな。交流で何を学ぶんだって感じだろうよ。きっと。

「でも。あれですよね。トラブルが起きないと良いですよね」

「うちの学校のヤツら劣等感コンプレックス抱えてるヤツ多いからねぇ~。人域魔法師ってだけで刺激的だろうし。なんかしら起きそう」

「まぁそのへんは来てからじゃないとなんとも。それよりも……はぁ~……。羨ましいなぁ~。僕も選抜されたかったよ」

 まだ引きずってんだな。もう昼だぞ。朝聞いたことを話題にしてるとはいえ引きずるのはやめろ。うっとうしい。

「正直。申し訳ない気持ちがあるな……。伊鶴や才君は選ばれるのも当然だと思うが……どうして私なんだろう……? マイク君のが勝率は高いはずなのに……」

「そのあたりは独断と偏見ってのが影響してるんでしょ。私らへの期待も含まれてんだって」 

「そう……なのだろうか……?」

 ポジティブシンキング……とも言い切れないな。

 夕美斗は未完成ながらヤバイ武器を手にし始めてるからな。

 もしこいつの戦い方が完成したら俺でも無傷じゃ止められないだろうよ。怖い怖い。

 ま、俺もまだまだ成長期なわけだからこの先どうなるかはわからないがな。

「まぁ、決まってしまったものはもうどうしようもないし。僕たちの分も頑張ってきてよ。先生ミスターたちはわからないけど。少なくとも僕は期待してるから」

「あ、あぁ……うん。そう言ってくれるなら……頑張ろう」

「まぁ言われんでもいつでも全力のゆみちゃんなら頑張っちゃうと思うけどね。応援するならさっちゃんじゃね?」

「たしかに!」

「……! 坊! 頑張ってな!」

 なにをキラキラした目で言ってやがる。真に受けんな。

 そりゃあ普段やる気なさそうに見えるかもしれないけど。俺はいつだって真面目にやってるっつの。ちょっと無気力なだけなんですぅ~。

 まったく。テメェらは悪乗りも大概に……ん?

 背後から二つ変な気配がするな。

 学食なんだから当たり前ではあるんだが、意識が俺に向いてる。あと足音を立てないようにもしてるな。バレバレだけど。

 手には飲み物の入ったコップ……か。

 ん~……これは嫌な予感がするんだけど……。対処したほうが人間として不自然な気もするし。ここはあえて受けるしかないか。理不尽ってやつを。

「おっとっと!」

「「「!!?」」」

 後ろからわざとらしい声がすると頭からジュースをかけられる。この匂いはコーラだな。頭皮を刺激する炭酸が実にフレッシュだよ。

 あ、ちなみに両隣のカナラとコロナにかからないよう飛び散ったのは影ではたき落としたから無事。

 まったく。こいつらにかかってたら酷いことになってたぞ。特にカナラ。良かったな。俺が気の利く男でさ。

「悪い悪い。手が滑った」

「お前なにしてんだよぉ~」

 にやけ面におちゃらけた声。これで確定だな。後ろから近づく気配でわかってたけど明らかにわざと。

 まったく。こんな古典的な嫌がらせしやがって。俺が一体全体なにをしたというのか。

 と、そんなことを考えるよりもだ。

「「――」」

 殺気駄々漏れの両隣カナラとコロナをなだめないと。このいじめっ子(?)二人が殺される。

「ふぬ! ふぬ!」

 コロナはマナの供給を遮断しつつ足を踏みつけてるから良いとして。すでにじゃれ始めてるし。

 問題はカナラ。

 俺がコーラをかけられた瞬間。その一瞬。目を見開いて驚き、勢いそのままに瞳部分がキューっと小さくなってすごい形相を浮かべたあと瞳の大きさは元に戻って表情も落ち着いたと思ったのも束の間。ジト目になって犯人を見ている。

 ミケや他の連中もこいつらの暴挙に一瞬怒りそうになったが、カナラの様子に気づいた瞬間口をつぐんだ。それくらい今のカナラ、怖い。

「いや~本当にごめんねぇ~。濡れなかった? 

 垂流されてたマナの量が増えた。

 ……あ~あ。どういうわけか今の一言でカナラを完全に怒らせたっぽいぞ。

 もしも本気で殺しにかかったら……俺じゃ止められないんだけれど。どうしよ。

 い、一応一言二言声かけて……おくかぁ~?

「な、なぁ……カ――桃之生……。落ち着けよ……?」

「……ふふっ。そう心配せんでええよ。ちょっと聞きたい事あるだけやから」

 思いの外落ち着いてる……のか? わからないけど。カナラは立ち上がり男子二人を見据える。

 男子二人の雰囲気は変わらずで、カナラが怒ってることに気づいてない様子。一歩間違えば殺されそうなのにのんきだな。

「ねぇ~え? 聞きたい事あるんやけど。かまへん?」

「え? どうぞどうぞ! 桃之生さんから聞かれたら」

「そう? なら遠慮せず。少し無粋な事かもやけど聞かせていただきますわぁ~……――?」

「え? えっと……」

「なんで悪い事したのに。迷惑かけはったのに。へらへら笑ってられるん? 不思議やわ~。私やったらとてもとてもでけへんわ~。そない豪胆な事」

「あ、その……」

「どないしてそないな事できるんか。わからないのは私が田舎者のお上りさんやからなんかねぇ~? ねぇ? 教えてくれはります?」

「……っ」

 ここに来てやっとカナラが怒ってることに気づいたらしい。もう遅いけど。

 声を荒げてるわけでもなく。表情を変えるでもなく。至って平坦に。至って柔らかく接しているように見えるのに。なぜだか激してることがわかる。それがものすごく怖い。

 被害者は俺だし、俺のために怒ってるのはわかるけど。正直チビりそうです。

「ねぇ? はよう教えてくれはります? 早うしませんとお昼の時間終わってまいますよ?」

「ぅ……」

「えっと……」

 言葉の裏に隠された圧に当てられて顔色が悪くなる二人。気持ちはわかるぞ。同情はしてやらないけど。

 怒られるのが嫌ならそもそもこういうイタズラしなきゃ良かったわけだし。自業自得。

 ただ。あれだな。この窮地どう切り抜けるか気になるところだよな。

 逆ギレか。謝るか。ちょけるか。それとも……。

「あ、そういえば俺たち用事があるんだった! な、な?」

「そ、そうそう! だからもう行かなくちゃ! じゃ、じゃあこれで!」

 わっかりやすい虚言を吐いてそそくさと逃げてく二人。まぁ、無難だよな。

 ただ、それは一番の悪手だと思うがね。だって。

「……」

 カナラがまたすごい顔になってるもん。

 だから怖いって……。その顔やめてくれ。チビっちゃうから。

 はぁ~……もうさ。ここまでキレられると俺も怒るに怒れねぇよ。表立って怒るつもりもなかったけれども。

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