第219話
「こ、こうか?」
「そそ。あんま力入れすぎないようにね? ええ包丁やし力入れんでも切れるから」
なんだかんだ簡易料理教室を始めてみると二人とも夢中になってるな。
ロッテは元々興味があったみたいだし。カナラも面倒見の良いヤツだし。二人とも根が真っ直ぐだから気も合うんだろうな。仲良くなれそうで俺は嬉しいよ。
俺の周りでいざこざとかごめん被るからな。
「な?」
「んにぃ~」
わかってんのかよという意味を込めてコロナのほっぺを引っ張る。
が、かまってもらうのが嬉しいというのが先に来てる顔だわこれは。つまり絶対わかってないやつ。
「な~んでお前カナラを目の敵にしてるんだ?」
「んに――……」
目を逸らして無言になった。おい。こっちを見なさい。
「お~い。なんでなんだよ~」
「……」
徹底して無視か。まぁそもそも話せないから聞いても無駄なんだけどさ。
はぁ~……。嫉妬しても意味ないんだぞ~。お前とカナラじゃ扱い違うんだから~。
「あうあうあ~」
って、理屈じゃないんだろうなぁ~。こういうのって。感情的に許せないんだろうよ。たぶん。
こんな可愛い顔して嫉妬深いなんて。俺じゃなければ大喜びだろうな。伊鶴とか久茂井先輩とか。コロナの嫉妬とか大好物だと思うぞあの
だがあいにくと俺はあっちの住人ではないのでめんどくさいだけ。できればコロナもカナラと仲良くなってほしいものだよ。
「ご飯出来たよぉ~」
お? どうやらコロナと戯れてるうちに飯ができあがったようだな。
「おおう?」
できあがったのを見てみると意外や意外。
本日の献立はこちら。
豚のしょうが焼きをメインに味噌汁。そしてシラスとほうれん草の和え物。
こ、こいつ。なに時代の人間だっけ? あ、鬼だっけ? なんか料理が昭和とか平成あたりっぽいんだが?
いやまぁそのあたりから食文化大きく変わったわけじゃないけど。お前もっと前の時代じゃなかったっけ?
「ふふっ。不思議?」
「まぁ。うん。ちょっとビックリした」
「驚いてくれたなら勉強した甲斐あったわぁ~。他にも色々今のこの国の事調べたけど。お料理には一番力入れたんよ」
何気に誇らしげなカナラ。つっても全面に出すわけじゃなくて内に秘めてるのが上品。
でもやっぱ料理に関してはそれなり自信があるんだな。
ちょっと卑屈な言い方になるけど。まず自信があるってことそのものから遠く離れてる女だからな。カナラって。
少しでも自信を持てることがあってある意味安心感覚えるわ。
「和食が出てくるかと思ったから家庭料理は意外だけど。カナラの腕なら問題ないだろ」
「……儂がいたから少々心配だけどもな」
たしかに今回はロッテも手伝ったせいか所々粗いが……味は大丈夫だろ。これもご愛敬だな。許容範囲許容範囲。
「ふふっ。ロゥテシアちゃん真面目やし素直やし。筋もええからすぐに上手になりはるよ。じゃ、冷めん内に頂こか――」
「ほう。良い味だな」
カナラが促す前にもう食ってるヤツが一人。もちろんリリンである。
いつの間にお前こっち来てたんだ? さっきまであっちでゲームしてたよな?
本当。こいつは食に関しては貪欲過ぎるな。
「あぁもう。いただきます言わんと。お行儀の悪い~」
嗜めてるようだが、実際はあんまり気にしてない感じだな。声色的に。懐の深いことで。
「うむ……美味い」
にしてもリリンはなんでも食うけど、今回は一際気に入ってるっぽいな。
ストライクゾーン広いけど舌はかなり肥えてるはずだからこいつの感想割りと信用できる。
それに俺自身もカナラの料理の上手さ。そして美味さはよく知ってる。このカナラの料理をコロナが気に入れば……もしかしたら仲良くなれるかも?
「……………………」
と、思ってたんだが……。
コロナの野郎。まず食おうとしやがらねぇ~……。
ずぅ~っとカナラに睨んでるよ。……よだれ垂らしながら。
美味そうとは思ってるし腹は減ってるってことだよな。だったらもう食えよお前。
いつも俺に食わせてもらったり、そうでなくてもリリンほどじゃなくても普段食い意地張ってんだからさ。珍しく俺のほうが早く終わりそうだぞ。
「あらあら。コロちゃん全然手つけてへんね。お腹空いてないん? それとも苦手な物でもあった?」
ほら。カナラも心配してんぞ。
良いのか? ライバルに心配なんてさせて。
「うぅ~……っ!」
唸ってんじゃねぇ。
お前が食わないと片付けも風呂も済ませられないんだから早く食え。
あぁ~もうめんどくさい。もういい。こうなりゃ力ずくだわ。
「ほら。口開けろ。あー」
「っ! あ~♪」
自分の分を済ませてコロナに食わせようと目の前に差し出してやるとやっと食事を始めた。
俺の手からなら喜んでとか現金なヤツめ。
本当なら一口だけでも大サービスなんだが、今日はこのまま食わせちまおう。また機嫌損ねて時間取られるのも嫌だしな。
さて、問題は明日だけど……。明日どうするかは……明日考えるかな。
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