第218話
「これはまた不可思議な生き物を連れてきたなぁ?」
「否定はしねぇわ」
部屋に戻るとカナラを見たリリンの失礼な一言。
そらそうなるよね。だってカナラ自分の部屋行かずこっち来てるし。生物としても珍妙だもんなこいつ。
実年齢はともかく。もう学園の生徒なんだから部屋は絶対割り当てられてるはずだし。なんでこっち来てんだろう? 荷解きとかないのかな?
「……」
「ん? どうした?」
無言のまま、リリン。ロッテ。コロナと順に見ていくカナラ。
もしかしてリリンの言葉が気に障って無言なのか? それともお前、こいつらのマナの濃さに当てられ――。
「皆……髪、長い……」
全然違った。真面目な顔してるから戦力分析的なことかと思ったら全然違った。わりとどうでも良いことだった。
「な、なぁ坊。皆髪長いんやけど……」
「そうだな。二度目だな。何度も言わなくても聞こえてっから」
っていうかそんなに髪の長さ重要? そらお前はこの前バッサリいったみたいだけども。なに? 未練?
「坊。実は長い方が好み……なん?」
あ、そういう?
契約者が全員髪長いからロングの女が好きなのかって。ものすごい突飛な早とちりだなお前。
「いや別に長さで女の好みとかないから。それにお前は短いほうが似合う」
「そ、そう? ふふっ」
嬉しそうでなにより。
さて、と。にしても部屋までついてくるとは思わなかったんだが……。もう来ちまったし、紹介くらいはするか。
どうせこれからも顔合わせることになるだろうしな。
「ってことで双方よろしく」
名前と契約者ってこと簡単に説明。一応カナラも同級生になってるが俺との繋がりはあるからな。学園ルール外の契約者って感じ。
「おう。そうか」
興味なさそうなリリン。こいつにリアクションは期待してないのでまぁいいだろう。
「ふんっ」
最初からずっと睨みを利かせてるコロナも今さらだしほっとこう。後々友情(?)を育んでくれたまえ。俺のいないところでな。
「と、そうだロッテ。ちょうどいい」
「ん? なんだ?」
「お前、前に料理うんたらつってたろ?」
「あぁ。うやむやになっていたが。確かに言ったな」
カナラの後ろに回り肩に手を置く。ビクッとしたのが伝わってきたが気にしない。
ちなみにコロナは現在おやつタイム。ロッテに任せてあります。
「喜べ。料理の先生だ。これからこいつに学ぶと良い」
「ん? は?」
「え!?」
驚くロッテとカナラ。だろうな。予想通りのリアクションありがとう。
「は、初耳なんやけど!?」
「そらそうだろ。今初めて言ったんだから」
「……」
珍しく眉を寄せて非難の目を向けてきてる。中々に新鮮。
「承諾を得ているわけじゃないのか……。流石にそれはいかんのではないか? 儂もそこまで無理に人に教わらなくても良いし……」
「なんだお前ら。嫌なのか?」
「「そういうわけじゃ……」」
口ごもる二人。めんどくせぇな。ハッキリ言いやがれ。
「カナラ」
「ひゃ!?」
後ろから顎に手を回し見上げさせこちらを向かせる。
ふむ。おでこが出るのもこれはこれで良いな。
「お前、俺の頼み聞いてくれないの?」
「そ、そういうつもりじゃ……」
顔が至近距離にありテンパるカナラ。
そう。これだよこれ。やっぱカナラはこういう顔が一番可愛い。一生いびっていたいわ~この女。
おっと、それはそれとして。もう一押しして言質だけでも取らなくちゃな。
正直普通に頼めば断らないだろうけどそこはそれ。俺の趣味も兼ねないと。
……なんかこういうイタズラっぽいとこリリンに影響されてる気がしないでもないな。
「じゃあロッテに色々教えてやってくれるよな?」
「あ、あの……。う、うん……。わかりまひた……//////」
腹に手を回し抱き寄せて密着しながら言うと呂律も回らなくなるほどアガって来てる。表に出さないけど俺のテンションもちょっと上がってきてる。やっぱり俺はカナラが大好きです。主におもちゃとしてだけど。
う~ん。このままもう少しいじめた――。
「うが!」
「ぶふっ!?」
突如コロナのロケット頭突きがカナラの腹部に襲いかかり、俺たちは尻餅をつく。俺のほうまで結構な衝撃が来たからカナラは堪ったもんじゃないだろう。
現に頭が腹に突き刺さった際に完全に油断していたカナラは噴き出し、俺の顔面に盛大に唾がかかったからな。
いや本当。やってくれたなコロナこの野郎。カナラの唾液甘い匂いと味だし不快にはならないけどもだね。それとこれとは話は別だぜ?
「ご、ごめん……坊……。顔に……かけてもうて……」
腹を抱えてうずくまりピクピクしてる。ダメージは大きかったようだな。
「別に良いけど……大丈夫か?」
「も、もう少し……かかるかも……」
「そうか。ご愁傷さま」
コロナの筋力は侮れないとは思ってたけど。まさかカナラにこれほどのダメージを負わせるとは。俺も油断しないようにしよう。
「ふん! ふん! ふん!」
で、当の本人はカナラをダウンさせたあとなぜかティッシュを何枚も取り出してる。何に使うか知らんがもったいないからやめてほしい。
「にゃーにゃー! ふぬぬぬぬぬぬぬ!」
「……」
俺のほうまでとてとて小走りで来たかと思えばティッシュで俺の顔についたカナラの唾を拭き取り始める。
えっと。うん。ありがとう?
「…………ふんす!」
完全に拭き取れて満足したのか気合の鼻息。
心なしか誇らしげだが俺が人間のままだったら顔面の皮脂全部取れてたくらいの力強さだったからな? 下手したら皮膚剥けてたよ? だって今でさえ鼻赤くなってる気がするもん。もう少し加減してほしかったわ。
「……なんだよ?」
ロッテが冷ややかな目で俺を見てきてる。こんな目で他人を見るロッテは初めてだな。
「別に? 儂は特に何も」
だったらそんな目で見てくるんじゃないっての。
まったく。お前のためにカナラにお願いした結果だぞこれ。
まぁ恐らく。そのお願いの仕方に呆れてるんだろうけどな。お前は。
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